「ソング・オブ・ザ・シー」(2014)
- 監督:トム・ムーア
- 脚本:ウィル・コリンズ
- 原案:トム・ムーア
- 音楽:ブリュノ・クレ、KiLA
- 出演:デビッド・ロウル、ブレンダン・グリーソン、リサ・ハニガン、ルーシー・オコンネル、フィオヌラ・フラナガン 他
「ブレッドウィナー」、「ウルフウォーカー」などのカートゥーン・サルーンの長編第2作品目。
アイルランドに伝わる人間とあざらしの妖精セルキーの伝承を元に、ある兄妹の冒険を描きます。
監督は同スタジオ前作にあたる「ブレンダンとケルズの秘密」も担当したトム・ムーア。
声の出演にはフィオヌラ・フラナガンやブレンダン・グリーソン。
数々のアニメーション賞にて受賞を重ね、アカデミー賞ではアニメーション賞にノミネート。当時のライバルが「ベイマックス」「ヒックとドラゴン2」「かぐや姫の物語」「ボックストロール」って・・・2014年のアニメ映画のなんと豊かなことか。
吹替版ですがAmazonプライムビデオで観放題作品になっていたのでこの機会に鑑賞。
でもスクリーン向けですね。モニターだとディテールが楽しみにくいです。
灯台に暮らす父と幼い兄妹。
兄ベンは口のきけない妹シアーシャに冷たいがそれには理由があった。
実は彼らの母ブロナーは、シアーシャを産むのと入れ替わりに何処かへと消えてしまっており、ベンにとってシアーシャは母不在の寂しさの原因に思えるのだ。
シアーシャのある行動がきっかけで、子供たちは祖母の住む町へと移り住むことになる。
しかし愛犬クーを灯台に置いていくことが苦しいベンは、着いてくるシアーシャと一緒に灯台を目指し抜け出した。
一方、彼らのあとを謎の生き物が追いかけていく。
アイルランドに伝わるセルキー伝説は、どことなく日本の精霊や八百万の神と人間の逸話とかにも通じるような、異種の婚姻が主になったものです。
理由は色々あるようですが、衣を纏うとあざらしになるセルキーが、人間の姿で他の人間と結婚する。
子どもをもうけたりしつつ、結局は海に帰ったりと悲しく切ない物語が多いとのこと。
今作は大まかにはそのベースを使っているようです。
母はベンとシアーシャをもうけながら、セルキーとして海に帰り、父はあざらしの衣を鍵をかけて隠す。
すごくファンタジックな世界観で、それを表現していくアニメーションには圧倒されます。
水彩画のようなタッチには、気や水のうねりを感じます。
今作はとにかく流れとかの現象を筆の運びで見せるところが自分はすごく好きでした。
さまざまな彩度のブルーが織り込まれた世界で、キャラクターたちが生き生きと動き、ディテールが細やかな中、眼が幸せに。
キャラクターでいうとあざらしも可愛いですが、何にしてもベンの飼い犬クーが最高にかわいいですね。
シャナキーの長い髪が至るところに渦をまく、風そのものが犬になり宙を駆けていく。
アクション性は少なくゆっくりとはしていますが、豊かなアニメーションはさすがでしょう。
さて、セルキーの存在からしてファンタジーな世界ですが、舞台は現代になっています。
自動車も普通に出てきますし、セルキー伝承とは異なって、教会があることからキリスト教も普通に存在します。
それでも、町の中にはアイルランド伝承の名残の遺跡のようなものもまだ残り共存しているんですね。
ジブリの血を感じるという評判も分かります。
古の要素と機械など現代的な要素が混じりあい、それ自体が独特の世界を構築し非常に高いレベルのディテールで包まれる。
忘却されていく物語が現代と交錯する点とか、愛ゆえに人を閉じ込めるところからの脱却と解放など、「ウルフウォーカー」まで通じる哲学が、ここに観てとれました。
ここではベンとシアーシャが協力し、薄れていった伝説を再び訪れていき、その神話的な冒険を持って現実を変えていきます。
ハロウィンに紛れるところはなんとなく「E.T.」ぽくて、最後の方は「かぐや姫の物語」の系統を感じます。
母の不在からどこか悲しみと歪みを抱えていた一家ですが、ベンとシアーシャの旅路が徐々におばあさんもお父さんも巻き込み、家族を一つに結び付けていきます。
初めは邪険にしていたベンが、母に言われたように世界で一番のお兄ちゃんになっていく、その成長する姿が輝かしい。
兄妹の絆となり、マカに押し込められていた感情たちを解放するのは、母が残した歌です。
古の海の歌が、歌い継がれることによって、旧世界と現世界、親と子とをつなぎ合わせていく。
同じ家族写真のシーンが1度目と2度目で大きく意味合いを変えているんですね。
可愛らしい造形や美しい色彩と柔らかなタッチ、圧倒される画とアニメーション。そこに、伝説をめぐるワクワクとか、押し込められたすべての感情を解放することがのせられています。
素晴らしい作品でした。Amazonプライムビデオでしばらく見放題かと思うので、機会があればぜひ見てほしい映画です。
感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
それではまた次の記事で。
コメント