スポンサーリンク

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想|アリ・アスターが描いた“アメリカの悪夢”は政治風刺として機能したのか

スポンサーリンク
「エディントンへようこそ」ネタバレ感想|アリ・アスターが描いた“アメリカの悪夢”は政治風刺として機能したのか 映画レビュー
スポンサーリンク
スポンサーリンク

作品解説

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想

「ミッドサマー」「ボーはおそれている」で強烈な作家性を示してきたアリ・アスター監督が、再びホアキン・フェニックスを主演に迎えて描くスリラー映画。

コロナ禍によるロックダウン下の小さな町を舞台に、地方選挙という一見ローカルな出来事が、やがて全米を巻き込む混乱へと発展していく様子を描きます。

作品は第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されました。

キャスト情報

コロナ禍を舞台にしたということでも、なんというかそのくらいある程度過去のことという感じになっているんだなと思いながら。まずはアリ・アスター監督の新作ということで注目だった作品。

主演はホアキン・フェニックスになり前作「ボーはおそれている」に続いての主演になっています。

今作でも終盤には彼がボロボロになりながら走り回る羽目になっているのですが、なんかアリ・アスター監督はホアキンを酷い目に合わせて走らせるの好きなの?笑

注目の作品なので早速公開週の土曜日に行ってきましたけど、意外にそこまでの人が入っていませんでした。あとどちらかといえば年齢層は高めに感じました。

~あらすじ~

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想|アリ・アスターが描いた“アメリカの悪夢”は政治風刺として機能したのか

2020年、アメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。

新型コロナウイルスによるロックダウンの影響で、住民たちは閉塞感と不安を抱え、町全体に不穏な空気が漂っていた。

そんななか、保安官のジョーは、IT企業の誘致によって町の再生を目指す野心的な市長テッドと、マスク着用をめぐる口論をきっかけに激しく対立する。衝動的に市長選への出馬を決意したジョーの行動は、町にさらなる亀裂を生み出していく。

対立はやがて周囲を巻き込み、SNS上ではフェイクニュースと憎悪が拡散し、事態は制御不能な炎上へと発展する。一方、ジョーの妻ルイーズは、カルト的な教祖ヴァーノンが発信する扇動的な動画に惹かれ、次第に陰謀論の世界へと引き込まれていく。

疑念と怒りが連鎖し、言葉は武器となり、暴力が暴力を呼ぶ。真実が見えなくなった町エディントンは、分断と狂気の渦のなかで、破滅へと向かっていくのだった。

感想レビュー/考察

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想

宗教的ホラーの旗手としてのアリ・アスター監督への期待と違和感

これまで宗教系ホラーでその名をあげ、世界中に不幸と不吉をばらまいてきたアリ・アスター監督。

「ヘレディタリー」は私は一生に残るホラー映画であり21世紀のホラーを代表する一本だと思っています。

そして「ミッドサマー」は広く北欧ホラー、非常に明るい画面の中で展開されるおぞましい恐怖、を決定づけたような作品だと考えます。

そんな中で長編3作品目で送り出したのが「ボーはおそれている」。それはこれまでのホラー作品とは異なっていて、監督自身が自分自身のために作ったと言っても良い作品でした。

3時間のパニック障害、不安障害とも言われた「ボーはおそれている」に関してはホラー映画として優れた2作品を生み出した監督にとっての自分向けの休憩にも思っています。

ということでどちらかといえばバック・オン・トラックとなったアリ・アスター監督ですが、今作はいわゆるこれまで監督が作ってきたようなホラー映画ではありませんでした。

政治サタイアであり、皮肉であり、言ってしまえば詰め込まれたのは人間の嫌な部分とアメリカの悪夢でしょう。

なのではっきりといえば、アリ・アスター監督に期待しているものはそこまで得られないというか、これまでの監督作品の中では最も弱い映画になっているという事実は否めないです。

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想

得意分野と不得意分野のアンバランスさ

正直得意なところとそうではないところのバランスがおかしいというか、家庭内の歪みとかはまあすんごい気味悪くて最高。

でも一方で、政治風刺劇としては各要素を詰め込んで描いて触ってはみたものの、その結末やまとめ方にはあまり手腕が磨かれていないところが露呈したという感じです。

人間の嫌なところを描くというのは監督の得意なところ。家庭内のしんどい空気感とか、精神的に追い詰められた妻と保護するようで支配的で洗脳してくる義理の母親とか。

ずっとグダグダ陰謀論唱えて、家族に文句ばかり吐き散らして、被害者面するし最悪なあのお母さん。精神きつくなるのよく分かります。。。

家族は生まれながらの呪いとはよく言ったもので、ジョーも苦しい。

ただこのあたりくらいが限界な気がします。他の部分は政治批判的な要素がふんだんにあるだけ。

インターネットと陰謀論という現代的悪夢

このドーンという母の主な情報元がインターネット。

まさにパンデミックでネットに傾倒した人が多くなり、その分陰謀論への傾倒割合が同じくらいでも、これまでとは母数が変わったので変な人が増えたあの頃を考えると、また気分の悪い記憶。

テレビでのことを否定し、真実はネットにあると息巻いて語る様にはちょっと苦笑い。

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想

ネット発の正義としてのBLM運動、イベント化するイデオロギー

ネットを主戦場として、サラという若い女性がBLMの運動を主導。

エディントンなんて田舎町で意味も意義もない(実際に本人が大きな都市での集会に行くべきだったと言っています)と思いますが、抗議活動が激化します。

「ヘイト・ユー・ギブ」で鋭く描かれていたのですが、BLM自体がイベント化してしまっていたあの気持ち悪さが描かれます。

偽善としての自己犠牲ポーズの気持ち悪さ

しかもサラは自分自身が白人であるから、白人の裏切者、偽善者というレッテルを自らに貼り悲劇のヒロインの顔までする。

アフリカ系の警官マイケルに対して「あなたは黒人よ、痛みが分かる人。私たちの側に着くべきなのに、どうして権力側にいるの?」と吐きかける。

警官で仕事だからだろ。。。って思いますが、こうやって属性でイデオロギーを決めつけた差別もなんだか覚えがある。

結局市長の息子も、ブライアンというサラが好きな男子も、青春イベントと好きな女の子とヤレるかみたいなレベルです。ばからしい。

アンティファの件やジョージ・フロイド氏の殺害事件なども盛り込まれ、混迷を描きます。

データセンター建設によって搾取される田舎町と伝統的なアメリカ像。○○系という人種の軋轢。ネイティブアメリカンの土地問題。

「エディントンへようこそ」ネタバレ感想

回収されない社会問題の数々

こういったものが盛り込まれている中でジョーが私怨で市長と息子を狙撃。そこから犯人でっち上げのコメディとも思える事件の捜査が開始。

この時点で長い上映時間の大半は過ぎていますが、そこまでに積んできたものが全て政治風刺劇の要素にしかすぎずに、あまり処理されない。

結局オースティン・バトラー演じる詐欺師というか新興宗教の教祖の件とか、人種差別に対しての抗議活動、そしてデータセンター建設における開発や利権、すべてそのまま放置されてしまいます。

アメリカ社会での問題を様々にピックアップして見せていても、そこにアンサーを持ってこないというか。また希望も見出さない。

最終的にはエディントンが無法地帯の銃撃戦地帯になってしまうんですが、それはそれでとんでもなさはまあある程度楽しいかといった感じ。

アメリカの縮図としてのエディントン

ブライアンが自己顕示欲にまみれたアメリカの”ヒーロー”になっておしまい。胡散臭い新興宗教も陰謀論も無くならず。

ジョーは脳血管障害の後遺症で植物状態ながら、自分との間にはできなかった子供を授かっているルイーズが、嬉しそうにヴァーノンの集会に出ているところをドーンに見せつけられるという始末。

結局この西部劇風にも見せられるアメリカの縮図の町エディントンでは、オスたらんとする保守的な男のいがみ合いが、カルトと暴力のコンボで壊滅。

それを利用して新しく、優位に立たんとするオスが台頭するだけという、なんともアメリカという国らしい様相を見せているのです。

政治風刺劇を回せているかというと、要素を取りそろえながらも結局は男の妄想や妄執などにフォーカスしたいのか、ちょっと不透明に感じた印象。

アリ・アスター監督だからこそ、”まあそこそこかな”って感想になるのは嫌だなと、正直思います。決してダメダメって程でもないんですが、長い上映時間の割には描きこみが浅いし。

コンパクトかつドラマチックでおもしろく、アメリカ社会や政治をシンプルに叩きつつ希望も提示した「ワン・バトル・アフター・アナザー」に比べてしまうと分の悪い作品でした。

今回の感想はここまで。ではまた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました