「ハッチング 孵化」”Hatching” aka “Pahanhautoja”(2022)

「ハッチング 孵化」(2022)

作品概要

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  • 監督:ハンナ・ベルイホルム
  • 脚本:イリヤ・ラウツィ
  • 原案:イリヤ・ラウツィ、ハンナ・ベルイホルム
  • 製作:ニマ・ユーセフィ、ミカ・リタラハティ、ニコ・リタラハティ
  • 音楽:スタイン・ベルグ・スヴェンドセン
  • 撮影:ジャルッコ・T・ライネ
  • 編集:リンダ・イルドマルム
  • 出演:シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ヴォラネン、レイノ・ノルディン 他

フィンランドのハンナ・ベルイホルム監督が初の長編デビューを飾ることになった北欧ホラー。

完璧な家族という仮面をかぶり抑圧されていた少女が、ある卵を拾い育て、そこから孵化してきた”それ”によって日常が崩壊していく様を描きます。

主演は今作のためにオーディションで選ばれたシーリ・ソラリンナ。彼女はスケート(フィギュアスケートの一つ)の選手らしいです。

また母親役はフィンランドで活躍しているソフィア・ヘイッキラ。

こちらサンダンス映画祭のミッドナイト部門での上映がされ、その不気味さと完成度から評価が高かった作品でして、ある程度の前評判をきき、さらに劇場で予告が流れてからさらに鑑賞を楽しみにしていた作品です。

フィンランド映画といえば、アキ・カウリスマキ監督がいたり昨年には国を代表する作家トーベ・ヤンソンの伝記映画「TOVE/トーベ」が公開されていたり。

そんな中でホラージャンルというのも変わり種で興味がありました。

公開週末、都内のちょっと小さめのスクリーンで鑑賞。

映画好きであろう層に交じり、カップルが来ていましたね。ルックのきれいな感じと場所柄でしょうか。

「ハッチング 孵化」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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北欧、フィンランド。

美しく整備された家で幸せな一家が暮らしている。

全てが完璧に配置され、優しく家族思いの両親に、かわいらしい娘と息子。

母はこの様子を動画撮影して配信している。素敵な毎日を映し出すその動画の中には、体操選手として活躍する娘の姿も映されていた。

ある時、一羽のカラスが家に飛び込み家具を荒らしてしまう。娘ティンヤの機転で捕まえることに成功すると、母は首を追って殺してしまった。

その夜ティンヤは家の近くの森から奇妙な声を聴き、一つの卵を見つけた。

家族に内緒で持ち帰った卵は次第に大きくなり、やがて”それ”が生まれ出る。

同じころ、ティンヤは体操の大会のために練習を重ね、母からの期待がプレッシャーとしてのしかかっていた。

そのティンヤの苦悩に反応するように、”それ”は勝手に動き始める。

感想/レビュー

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北欧ホラーのDNA

私個人としてはあまりまだ見れていないのですが、北欧ホラーというジャンルがある程度定着し一つのカテゴリーになってきた気もしますね。

トーマス・アルフレッドソン監督「ぼくのエリ 200歳の少女」、そしてアリ・アッバシ監督の「ボーダー二つの世界」、さらにアリ・アスター監督の「ミッドサマー」もそのたぐいの一つ出るかと思います。

いずれも共通するのは化け物という観点でくくれないファンタジックな世界観や、美しさと死、醜悪さの同居のような空気、そして寓話のような物語でしょうか。

さらに「ミッドサマー」で展開されたのは、ホラーなのに超明るい(画面の明度・彩度の意味で)というまがまがしさですね。

今作もその点は大いに感じ取られ、そもそも明るく美しいこと自体が不快になるという悪夢が展開されています。

そんな明るいけどエグイ今作。

確かに美しさがこれでもかと毒になっている居心地の悪さを提供してきますよ。

完璧さが息苦しい

冒頭のシーン。画面手前から迫ってくる手(ネイルやその所作がモンスターチック)から始まる世界。これだけで見事に不快。

ここでの不快さというのはまさに作り物の世界に放り込まれているという気味の悪さもありますが、同時にすべてが完璧に整えられており絵にかいたような空間だからこそ、一ミリたりとも侵すことのできない緊張感によるものと思います。

めちゃくちゃ豪華で誇り一つなくて配置も徹底されている部屋に入ると、身動きとれないじゃないですか。

何か動かしたらマズそう、壊したらヤバイ。

とにかく居心地が悪すぎるアレです。一切リラックスできない。

母が家全体のデザインをしている。

それはつまり母が決めたとおりになるドールハウスということ。”持ち主”の気に喰わない配置に人形が勝手に動くことはできないのです。

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母と娘の関係性、愛されたい欲求

そんな環境に生きてなお、母の期待まで背負わされているティンヤ。

しかしそれだけでなくここには母と娘にある立場の逆転や女性としての抑圧も込められていると感じます。

息子を寝かしつけられない母に寄り添い、一緒に歌い始めるティンヤ。

ここで母は離れていく。息子の世話という母としての役目を娘に残し去っていくわけです。

ティンヤは卵を得てからその親としての役目を背負うのではなく、すでに家の中で母親の役目まで負わされているのです。

愛を欲しながら与え続けなければいけない。

それはそのまま彼女自身が生まれを支えて育てていくことにつながるアッリに対してもつながる構造です。

母は女に、娘は母に、そして孵化した”それ”は娘になろうという相互作用的な変容が展開されます。

女性としての在り方を中心に母を切り捨てない

実はここで母が悪役になりそうにも思えますが、私はハンナ監督は母を切り捨てず描いていると思います。

確かに身勝手であり母としてよりも女性として生きることを優先するさまに嫌悪することもあるでしょう。

しかし母になったから母でしかいることができないというのはまた違うのではないかと感じるのです。

実は愛を欲しているという点では母も同じなのです。彼女もまた愛されることを強く欲していて、だからこそあの浮気という行為に及んでいる。

もちろん母親として娘に対する態度とかは最悪のものかもしれません。

毒親であることは一面として確実なのですが、ハンナ監督は最後の最後にやはり母を救っているように思います。

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メタファーの多用

抱え込んだものがそのまま内側で肥大していく。それは卵になり、変身のように生れ出たものが育つ。

またティンヤがため込んだものを文字通りに吐き出し、それを吸収したアッリが発散していく。

直喩が多用されている今作ではあるものの、実はティンヤの暴力性が”それ”にすべて集約されたとは思いません。

あのカラスをたたき殺した時点で、そういった要素自体は彼女の中にあったのでしょう。しかし表面化してきたということです。

少女から女性へ

その自動的なプロセスは彼女の年齢、思春期や親からの自立の局面にもつながっていると思います。

父は勘違いをしていましたが、実際に体に起きている変化を迎える年ごろとしても変容は込められているはずです。

ティンヤは守られ支配され愛を乞うだけの娘から、確実に一人の女性に向かって進化していく。

素晴らしい造形とアニマトロニクスが声明を与えているアッリは、決して分かたれて消されるべき存在ではないように思いますね。

これは悪、暴力性、嫉妬や憎悪などのある程度人間として必要な感情たち。

最後の変身プロセスはホラーっぽくも思えますが、私にはこうした手順を経て純粋無垢な存在はもっと複雑で多面的な存在になるものだと感じました。

北欧の明るさの中、つまり普通の日々に潜んでいる人間の闇。

女性、思春期、内包されている残酷性すべてをうまく融合してジャンル映画に仕上げている秀逸な作品でした。

そこまで怖いということもなく、またゴア描写も全然ないので意外と広い範囲で楽しんでいただける映画なのかと思います。

興味のある方はぜひ鑑賞を。

ということで今回はここまで。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ではまた。

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