「悪魔を見た」(2010)
作品概要
- 監督:キム・ジウン
- 脚本:パク・フンジョン
- 音楽:モグ
- 撮影:イ・モゲ
- 編集:ナム・ナヨン
- 出演:イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、チョン・ホジン
「箪笥」などを監督し、「ラストスタンド」ではアメリカでの映画を撮った監督キム・ジウンによる韓国バイオレンスノワール。
最愛の人を殺された特別捜査官が、猟奇殺人鬼を自ら追い詰め凄惨な復讐劇に発展していく様を描きます。
主演は「マグニフィセント・セブン」などで活躍のイ・ビョンホン。また醜悪な連続殺人鬼を「オールド・ボーイ」などのチェ・ミンシクが演じます。
アジアそして一部欧米の映画際でも賞を獲得し、強烈な内容から当時も名前を聞いてはいた作品ですが、私は学生でしかも受験期も近かったためか見には行かなかったんですよね。
実に10年以上たってから、アマゾンプライムビデオで配信されていたので初めて鑑賞しました。
21年の秋以降は韓国映画をこれでもかとみていたのでその流れでの鑑賞です。
~あらすじ~
若い女性が暴行、レイプの上で惨殺され切り刻まれるという凄惨な事件が発生。
被害女性の婚約者であり国家情報院の捜査官であるスヒョンは、精神的ショックを理由に休暇を取ることにした。
しかし、彼の中にある復讐心がスヒョンを突き動かし、上司も婚約者の家族たちの言葉も、そして法すらも無視してこの殺人鬼を探し始める。
拷問もいとわない捜査法でスヒョンは殺人鬼の身元を割り出し、さらに犯行を重ねようとしていた男ギョンチルを捕まえた。
しかしスヒョンの復讐はギョンチルをただ捕まえることではなかった。
ギョンチルに激しい暴行を加え手首をへし折ったスヒョンは、GPS入りのカプセルを飲ませてからなんとギョンチルを解放するのだった。
スヒョンにとっての復讐劇はここから始まるのだ。
感想/レビュー
常軌を逸し予測不能な復讐劇
あらすじによっては展開を話してしまっているものもあるのですが、自分はある程度まっさらな状態でこの作品を鑑賞したからか、そのプロットにおける衝撃やおもしろさを存分に楽しむことができたと思います。
正直言っておおよその復讐映画が行う話をはじめの30分で終わらせてしまうのです。
愛する人を殺された男の復讐劇であれば、犯人を割り出して捕まえる/殺すという点が映画全体のゴールになることが多いと思います。
しかし割り出して接触し叩きのめすまでで30分。
もう犯人の名前も何もかもわかっている。しかも警察当局としてもギョンチルを最重要容疑者として逮捕するために動いているんです。
その辺の映画ならここからどう楽しませるのか分かりません。
しかし逆に言えば、30分ほどでここに至ってしまう故、このスヒョンの復讐劇がどう転がっていくのか予想ができず、なんともスリリングになりました。
その分序盤展開はテンポがよくなり、引き込みとして非常に効果的に作用しています。
純粋悪
そしてもちろん常軌を逸した復讐劇のむごたらしさもありますが、それを支えせている俳優陣と各プロダクションのセクションの見事さも光っている作品だと思います。
ロボットのように冷徹でありクールなイ・ビョンホンのかっこよさにも惚れますが、彼に大切なのは最後まで情というものを感じるところでしょうか。
アンチヒーローのような造形になるスヒョンにぴったりだと思うカッコよさと悲しみを背負っていますね。
そして対するチェ・ミンシクのあまりの怪物感。この点、作品全体にも言えますが、徹底してむごいです。
ギョンチルは完全なる純粋悪として描かれますし、そこには身体的な暴力、性的な暴力もいやらしさ全開で描かれます。
食べ方もセックスも獣のようで気味の悪いギョンチルにはちょっと耐えられない、嫌悪感しかないという方もいるかもしれませんね。
ただ彼の圧倒的な不穏さ、存在感はさらに撮影の力によって強められています。
暴力を際立たせる美しい画面
まずもって画が結構美しいんですよね。
バイオレンスの中に艶や光と闇の濃淡が存在し、シンメトリックに統制されたり横長に展開されたり。
深い深い闇と対比して、必然的に色(血)は鮮やかに生えわたる。
美しく構成されている惨たらしさには圧巻の力があります。ジウン監督はカメラの対象との距離も巧みに操っています。
ふと引きのショットを見せているところで、惨殺された被害者の亡骸がぽつんと置かれている日常と異常の同居。
また診療所やビニールハウスなどの普通の場所にも、そうした行為を平然と行うギョンチルが置かれているだけで対比的に存在感が増しますね。
やや離れた位置からでも、周囲のごく普通の光景の中にギョンチルがいると、禍々しい画に変わります。
そしてギョンチルの犯罪行為の映し方。あまりに居心地が悪すぎる接写ですよ。
女子高生をレイプしようとするシーンも、看護師に対しての最低最悪な行為にしても、被害者とこの加害者ギョンチルの顔をこれでもかとクローズアップして撮る。
ビジュアルによって苦しみも残虐さも倍増させています。
残虐性を植え付け楽しませる悪魔の生み出した映画
悪魔をとらえようとした結果、自身も悪魔になっていく。
私刑を選択した故にさらに事態が悪化し、二人の悪魔の血で血を洗う応酬が死体だけを増やします。
その様はこれまでにも幾度となく語られてきたものではありますが、ここまで突き詰めて美しく残酷なゴア映画に昇華されれば、カルト的な人気を博すことでしょう。
何にしてもこの圧倒的に理不尽で不謹慎で汚らしいバイオレンスがエンタメとして成立し、そこに楽しさを覚えてしまうというのが悪魔的所業ですよね。
これを観ていて楽しかった自分も悪魔ですが、すべての責任は暴力をみて快感を得てしまうように仕向けているジウン監督にあるので彼こそが悪魔です!
こういう他の国にない味わいがあるから、韓国製のバイオレンスノワールはやめられません。
こちら配信されていたりもしますので、機会があればぜひ鑑賞ください。
今回はこんなところで感想はおしまいです。
最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。
ではまた。
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