「ランボー」(1982)
- 監督:テッド・コッチェフ
- 脚本:マイケル・コゾル、シルベスター・スタローン、ウィリアム・サックハイム
- 原作:デヴィッド・マレル 「一人だけの軍隊」
- 製作:バズ・フェイシャンズ
- 製作総指揮:マリオ・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ
- 音楽:ジェリー・ゴールドスミス
- 撮影:アンドリュー・ラズロ
- 編集:ジョアン・E・チャップマン
- 出演:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、ブライアン・デネヒー 他
スタローンと言えばロッキー・バルボア。そしていまやエクスペンダブルスでの印象も強いでしょう。
しかし今回は彼の有名キャラのもうひとり、ジョン・ランボーの物語を。
ランボーシリーズもスタローンの人気を確実にしたものですが、ロッキーと並んでかなり誤解されている印象。というかこれはシリーズもの全般、俳優にも言えることなんですが。
おそらくランボーを観ていない人が、この1作目を見るとかなり感想や印象が変わると思いますね。
ベトナム戦争帰還兵のジョン・ランボーは、かつてベトナムで共に戦った戦友を訪ねて田舎町へとやってくる。しかしその友はベトナムで浴びた化学兵器の影響ですでに亡くなっていた。
ランボーは町へと食事をとりに足を運んだのだったが、保安官のティールズが声をかけてきた。帰還兵は面倒を起こしそうだという理由で、ランボーを町から追い出そうとするのだ。ランボーはそれでも町へ歩きだし、ついに逮捕されてしまった。
署内で取り調べを受けるうちに、ランボーの中で悪夢がよみがえる。そして警官たちによるさらなる嫌がらせと拷問じみた扱いを受けて、彼の中で戦争の狂気が爆発した。
これはベトナム戦争でPTSDを患った男が、故郷でひどい目にあってその発作を起こす話。今思われがちな筋肉ドンパチアクションなんかじゃありません。アクションはもちろんあるんですけど、ここにカタルシスを感じるのは難しいのです。
確かにいじめられていて、何も悪いことはしていないランボーが、次々と警官たちを殴り飛ばすシーンは少しスッキリしますけど。しかし森での戦いは常に暗く、彼を英雄的に映しはしません。
むしろ戦争の恐ろしい部分や暴力そのものが、平和な普通の世界に解き放たれ、その場を支配してしまった怖さがあります。
こうしてみれば、今作はかなり社会派な作品であると言えますね。
ベトナムでの悪夢を吐き出すランボー。
この作品を初めて見たのは、TVで、私は子供でした。
戦争の事とか(特にベトナム戦争)全然知りませんでしたが、怖い目にあってだれも助けてくれない彼にひどく同情したのを覚えています。
ランボーが語るのはアメリカ帰還兵が直面した問題です。彼は満足な補助を受けていないようですし、職ももらえず、町の警官以上に国民から非難されています。
どの戦争にも復員兵がいて、PTSDを患い傷ついていますが、おそらくベトナム戦争が有名かと。勝利という区切りも得られなかったので、またその中でアメリカ国内が荒れたこともあって、ランボーのようにはけ口や責任のなすりつけの対象になったのでしょう。
暴力以上に、感情が爆発するラスト。戦争は終わることがありません。トラウトマン大佐という唯一の歯止めがいたとはいえ、ランボーが故郷を見つけることはもうないのかも・・・
ラストの歌”It’s a Long Road”の切ないこと。素晴らしい余韻を作っていると思います。
原題”First Blood”というのは「先手を打つ、先に仕掛ける」という意味ですが、警官が先に暴行してきたという物語の中の意味もあると思います。
それと、戦争と帰還兵という関係も。戦争さえ起こさなければ、ランボーは故郷で彼の人生を送ることができたはずですね。
スタローンは76年に「ロッキー」を手掛けています。
あれはベトナム戦争で荒んだ希望のないアメリカに対し、再びきらめくものを見せるようなものでした。しかし今作では真逆の、ベトナム以降から立ち上がれないアメリカを描きました。
スタローンはランボーに、ニューシネマのような悲しく退廃的なアメリカの姿を映しているんだと感じますね。
スタローンは天才です。頭が良く切れる男。
シリーズラストの「最後の戦場」もけっこう好きですが、彼がこのときアメリカにみたものと、彼自身の敗戦者の感覚が、このランボーには詰まっていると思いますね。
コメント