「Smile スマイル」(2022)
作品概要
- 監督:パーカー・フィン
- 脚本:パーカー・フィン
- 原作:パーカー・フィン『ローラは眠れない』
- 音楽:クリストバル・タピア・デ・ヴィーア
- 撮影:チャーリー・サロフ
- 編集:エリオット・グリーンバーグ
- 出演: ソシー・ベーコン、カイル・ガルナー、ケイトリン・ステイシー、ジェシー・T・アッシャー、ロブ・モーガン 他
新人監督による低予算の作品ながら、アメリカで大ヒットとなったホラー映画。
この作品はパーカー・フィンが自身の初の長編監督作品かつ脚本を手がけ、2020年に制作した短編映画「ローラは眠れない」を長編映画化したものです。
主演は「チャーリー・セズ マンソンの女たち」などに出演しているソシー・ベーコン。ケビン・ベーコンの娘さんなんですね。
共演は「エルム街の悪夢」(2010年)のカイル・ガルナー、そして「オール・チアリーダーズ・ダイ」のケイトリン・ステイシー、「黒い司法 0%からの奇跡」のロブ・モーガンなど。
北米市場でかなり注目された作品ですが、全然日本公開情報がないままだったのですが、昨年2022年のうちにiTunesでの配信公開が決定。
結局見れないままでいましたが、ネトフリにも来たのでやっと鑑賞できました。
~あらすじ~
精神科医のローズは、ある時一人の女性の診察を行う。
彼女は自分が邪悪な笑みを浮かべた存在に憑りつかれ、それが周囲の人に化けながら自分を侵食してくると訴えていた。
精神疾患による幻覚や幻聴の傾向がみられたため、ローズは事実確認をしていくが、女性はいきなりその存在が診察室にいると叫び暴れだした。
緊急通報を行ったローズだが、女性は急に静かになるとローズの前で自らの顔から喉までを裂き自殺する。なぜか笑みを浮かべながら。
患者の自殺に直面したローズは病院から休暇を勧められる。
精神的な衝撃以上にローズを悩ませることになったのは、女性が言っていたように周囲の人間が急に不気味な笑みを浮かべて攻撃的な態度に出ること。
そしてそれらが全て彼女以外には見えないことだった。
感想/レビュー
笑顔が持つ怖さ、持続する不安さ
笑顔というものを恐怖の象徴にする点は、別にすごくフレッシュなわけではありません。
恐ろしい怪人とか悪魔って、得てして笑っていますからね。
ドラキュラもそうだしペニーワイズもジョーカーもそう。それは笑顔というモノが根源的には歯つまりは牙をむく行為にもつながっていることに由来したり?
不気味な笑顔と共に、何かが伝染していく。
それは呪いであり悪霊であり、この伝染して死んでいくというのも別にフレッシュではない。
ただ、そうしたアイディアなどがどう見えるのか、楽しめるのかはまさに手腕次第といえます。
その点で、パーカー・フィン監督がくれたのは、非常に不安を楽しむことのできる良質なホラー映画だと思いました。
おおよそジャンプスケアに寄ってしまっていることもあるにはあるのですが、しかしくどすぎるわけでもなくて、ベースには全体を覆う不穏さと不安があるので良かった。
カットが割れたとき、カメラがパンした時、ローズ以外の人物にカメラが向いた時、”その笑顔”がそこにいたらヤダな・・・という不安が横たわっていて心地よいです。
そもそもこの悪霊?が、気づかないうちに自分の周りの人間に成りすますということから、観ている世界が信じられなくなるわけです。
そういう意味ではギミックだよりではないので退屈しませんし、興味の持続はなされていました。
音楽と画づくり
あとはクリストバル・タピア・デ・ヴィーアによる音楽も独特に思います。
「ディストピア パンドラの少女」でもスコアを担当している方ですし、東京国際映画祭の「列車旅行のすすめ」でも音楽を作っていたのですね。
ちょっと浮遊感のあるスコア。おとぎ話の中のような、不可思議な悪夢の中のような。素晴らしかった。
他に演出的に好きなのは、上下逆さまの都市のショットですね。「キャンディマン」でも思ったのですが、やはり足元の抜けてしまった不安感と、ビル群が上にくる圧迫感が不穏で良い。
見事なバランス感覚
精神疾患についてと、超常現象を織り交ぜて入る話ですが、メンタルヘルスに関してのセンシティブな部分は回避できています。
今作では実際にローズは呪いを受けていますからね。
追い詰められ具合とか不健康さ、不眠や披露をソシー・ベーコンもうまく纏っています。
時に本当に危ない人みたいに見える。ローズを見失うことはなくとも、周囲の反応にも納得は良く演技でした。
さらに自殺という部分でもあまり深堀りしすぎずかと。
バランス感覚が少しでも狂ってしまうと、精神疾患や自殺についての配慮のない作品になりそうなところ、パーカー・フィン監督はうまくまとめていると思います。
状況として精神的な病ではないかという孤立を作り、観客とローズだけが恐怖に直面する仕組みなのは良かったです。
だからこそ、一般の人でも家族でも、観客とローズは必要以上に恐れてしまいますし、それが不安になり常にスクリーンに漂っている。息をつかせないからこそダレないわけですね。
巨大な母の死との対峙
終幕のモンスターも個人的には好き。
ローズが過去と対峙するゆえに、場所もかつての実家でありました。
また怪物が相対的におおきくなったのも、母の圧力の象徴であり、再びローズが子どものように小さな存在になっていることを示しています。
内側に植え付けられているトラウマだからこそ、この怪物も内側が多層になる造形で、そして内側に入ってくる。飲み込み切れないその恐怖は人を完全に支配(乗っ取って)してしまうのですね。
タイトにまとまっていますし、結末としては結構意地悪で、悪霊や妖怪の紹介話のようです。
個人的に楽しめた作品でした。
今回は短めですが、感想は以上です。
それではまた。
コメント