「マージン・コール」(2011)

  • 監督:J・C・チャンダー
  • 脚本:J・C・チャンダー
  • 製作:ロバート・オグデン・バーナム、マイケル・ベナローヤ、ニール・ドッドソン、ジョン・ジェンクス、コーリー・ムーサ
  • 製作総指揮:ジョシュア・ブラム、マイケル・コルソ、カーク・ダミコ、カシアン・エルウィズ、ローズ・ガングーザ、アンソニー・グダス、ランディ・マニス、ローラ・レスター
  • 音楽:ネイサン・ラーソン
  • 撮影:フランク・G・デマルコ
  • 編集:ピート・ボドロー
  • 出演:ケビン・スペイシー、ポール・ベタニー、ジェレミー・アイアンズ、ザッカリー・クイント、ペン・バッジリー、サイモン・ベイカー、スタンリー・トゥッチ 他

私の大注目の監督、J・C・チャンダーの初監督作。長編デビューはこれが初めてで、それまでは10年以上コマーシャルやドキュメンタリー畑にいた監督。

「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」(2013)、「アメリカン・ドリーマー 成功の代償」(2014)と、今のとこはずれ無しですが、一作目からアカデミー賞脚本賞にノミネート。

リーマンショックを題材に、その渦中にいるいわば現場の人々がどう選択しどう生き抜くかを描いています。金融危機者としてはかなりの秀作、私は今までドキュメンタリーの「インサイド・ジョブ」(2010)がとても良いと思っていましたが、こちらも負けずに素晴らしい。

ニューヨークの金融都市。ウォール街のある投資銀行で、大量の一斉解雇が行われる。その中で即日退去したリスクマネジメント部のエリックは、「用心しろ」と言ってUSBを部下のピーターに渡していった。

メモリの記録を分析すると、ピーターは会社の有する資産が非常に危険な不良証券になっていることを発見する。

会社の総資産以上に価値変動による損失が出る可能性があるもので、即刻対処が必要だったのだ。

上司のウィル、そして責任者のサム。二人の要請から緊急の役員会や社長までも加わった対策会議が行われる。時間は過ぎていく中で、夜明け、つまりは取引の開始が迫る。

そもそも「マージンコール」ってのは経営用語でして、レバレッジで保証している証券の市場価値が下がって、担保額で補えないときに追加融資して埋め合わせようということだったはず。

ここは難しく考えず、一般的に知っているリーマンショックとサブプライムローンとして理解しておけば、映画を観るうえで問題はないですね。ですからあまり敬遠せずに観てください。

と、どんな映画化と言えば、大きな金融危機が起きたとき、一般市民でなくて、その原因と言っていい人物たちがその時どのような行動をしたか、を描くものです。

一夜でのことというのもあり、ほとんどは社内の会議室などでのシーン。世界に波及するような問題が、会社の部屋で膨れ上がるってのは皮肉です。

そこでも何人かは外にいたり、ものを食べたりという人間的、動物的描写がありますが、そこが人物の描写としてけっこう大事なのかと感じました。

彼らは経済の、金融の中心です。資本社会である現代においては世界の中心と言っていい存在なのです。登場人物の多くはガラス窓越しに大都市を眺めています。

それも階級が上であれば、ビルの階も高くより見下ろしている感じです。

一枚隔てられた中からの目線、「これから何が起こるかも知らずに、みんな道を歩いている。」というように、優位性や自己乖離を感じますね。彼らは現実でそうであるように、いかなる危機にしても保険を持っていますからね。

行われるのはサブプライムローン時と同じ、紙切れ同然の不良債権を売り切るという行為。卑怯ですが、事実ですからね。生き抜く術は、ダメな資産を排除して金を得ることです。

そんな決定に嫌悪感を感じつつも、エリックは金のために会社に戻り、サムも同じく売り込みの指示をする。結果がどうあるかをみれば、経営上の意思決定としてはこれがベストでしょう。人間としてはどうだかね・・・

この中で少しでも人の心を感じられるのは、わずかながらの慰めですね。ピーターはエリックが退社するときに、唯一ガラスを超えて別れと感謝を言う人物。

サムは死んでしまった愛犬を埋めています。この金融危機で起こるあらゆる死を背負い、彼は墓穴を掘っているんでしょうか。

音楽を抑え、一晩の密着ドキュメンタリーのような作りで金融世界の崩壊の始まりを描きます。深夜のオフィスや夜道、朝方のひんやりした感じなど、空気を一緒に吸いながら観る感覚が素敵な金融映画でした。チャンダー監督すごい人だ。

そんなわけで着実な歩みはここからだという、J・C・チャンダー監督の長編デビュー作でした。金融とか経営とか知らずとも、常識レベルでわかるので毛嫌いせずに観てくださいね。

それではまた次の記事で。

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