「ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた」(2017)
作品解説
- 監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
- 脚本:ジョン・ポローノ
- 原作:ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッタ―
- 製作:トッド・リーバーマン、デビッド・ホバーマン、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・リトバク、スコット・ステューバー
- 製作総指揮:ゲイリー・マイケル・ウォルターズ、リバ・マーカー、アンソニー・マテロ、ピーター・マクガキン、ニコラス・スターン、ジェフリー・ストット、アレクサンダー・ヤング
- 音楽:マイケル・ブルック
- 撮影:ショーン・ボビット
- 編集:ディラン・ティチェイナー
- 美術:スティーブン・カーター
- 衣装:キム・ウィルコックス、リア・カッツネルソン
- 出演:ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、リチャード・レイン・Jr 他
デヴィッド・ゴードン・グリーン監督が、2013年のボストンマラソン爆破テロで両足を失った青年を描く伝記映画。ジェフ・ボーマン本人が書いた回顧録を原作にしているとのこと。
監督作はあまり見たことないんですが、ケイト・ベッキンセールが出てた「スノーエンジェル」は結構好きです。
主演には「ナイトクローラー」(2014)などのジェイク・ギレンホール。そして恋人役にタチアナ・マスラニー。
金曜公開で、土曜に早速観に行ったのですが、なんかあんまり人がいませんでした。朝の回だったからでしょうか?でも、ラストあたりで泣いている人が多くいましたね。
~あらすじ~
2013年、ボストンマラソンの爆弾テロ事件で、両脚を失ってしまったジェフ・ボーマン。
搬送先の病院で目覚めたジェフの証言が、爆弾犯の逮捕につながったことで、ジェフは一躍ボストンの英雄として注目を浴びることになる。
様々なメディアの取材、個人からのお礼や声援。スポーツイベントへの出演など、ヒーローとしての期待にジェフは疲れ、追い込まれていく。
感想レビュー/考察
ボストンマラソンを題材にというと、ちょうど昨年の今頃公開されていた、ピーター・バーグ監督の「パトリオット・デイ」(2016)がありました。
あちらは俯瞰側、つまりは事件の解決へと動く、大局を見せる良い作品でしたが、今作はそれとは逆に、一般市民の側で、あの事件を体感していくことになります。
そして大きいのが、実際に爆弾事件自体は要素でしかなく、この作品で描かれているのは、理不尽に巻き込まれ苦難に直面した一人の青年の姿だということです。
テロ被害者の伝記映画ではありますけども、かなり普遍的なメッセージを持った作品であると思います。
というのもジェイク・ギレンホールの演じるジェフ・ボーマンやタチアナ・マスラニー、そして家族など周囲の人間がとにかく等身大で、正直に手触りのある感覚で描かれているからです。
お母さんを演じたミランダ・リチャードソン含めて、俳優陣の演技もとても好きです。環境にものすごく振り回されている点とか、映画らしくない良さがありました。
テロの大きな渦に放り込まれ、感じたことのないプレッシャーや期待に囲まれる若き青年。
遅刻するし約束はすっぽかすし、ダメな男なんですよ。弱いんですよ。
映画的な誇張や、ヒロイズム、ましてや彼を通してテロに立ち向かおうとかいうような、搾取的なメッセージもない。
ただ、ジェフをそのままに描き出しています。
ただそこで少し根の良いやつであることを残すのは良い演出でした。ベッドで目覚めてまず”Is Erin ok?”「エリンは無事?」と、自分のことよりも他人を心配しているのですから。
彼にとっての恐怖は画面を通して見えてきます。カメラがフォーカスを合わせない、現実です。
失った足を直視できず、狭い空間に入り込む。撮影は見事で、その時人物が、観たくないにフォーカスを合わせないながら、やはり観るべきものとして画面に入れ込んでいるんですよね。
特に吹き飛ばされた足の、事件直後のあの場面は、ジェフ本人が頭から消したいものでしょう。
しかし何かと忘れられず、ずっと目を背けていた記憶です。最後の最後に、覚悟して思い出す部分で確かにこれは思い出したくないなぁと感じました。
半ば自暴自棄になる彼をみて、イラついたりはしません。というか、彼が本当に普通の青年であるからこそ、彼の置かれた状況や絶望が真に伝わってきました。
辛い、忘れたい。でも無くなった足と、そして次から次にくる取材などのせいで、絶対に忘れられない。そっとしておいてくれない家族すら重荷なんです。
ジェフはおそらく、テロがあろうがなかろうが、妊娠に向き合う勇気が無かったかと思います。足があっても、部屋に閉じこもっていたでしょう。
しかし、彼が心も含めて立ち上がるきっかけに、とても心打たれました。
“誰かを助けることで、自分が救われる”
“誰かが頑張っているというその姿が、自分を鼓舞してくれる”
彼のようなちっぽけな存在でも、立ち上がろうとする姿が人の生を救い、そしてまたそうして人の希望として他者を助けるとき、彼自身の魂も救われるのです。
グリーン監督は、テロリズムによって大きく人生を変えられた人々だけにフォーカスし、嘘偽りない描写で彼ら一般の人を切り出してみせています。
その正直に描かれた人は、一見すれば映画としてドラマに欠けるようで、実は私たちに一番近いからこそ強く訴えかけてくる。
非常に率直でストレートに力強い作品でした。
感想は以上。それではまた~
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