「バーバリアン」(2022)
作品概要
- 監督:ザック・クレッガー
- 脚本:ザック・クレッガー
- 製作:アーノン・ミルチャン、ロイ・リー、ラファエル・マーグレス、J・D・リフシッツ
- 音楽:アナ・ドラビッチ
- 撮影:ザック・クーパースタイン
- 編集:ジョー・マーフィ
- 出演:ジョージナ・キャンベル、ビル・スカルスガルド、ジャスティン・ロング 他
「The Civil War on Drugs」などコメディ畑で俳優、監督をしているザック・クレッガーによるホラー映画。
デトロイトのある家をAirhubで借りた女性が、ダブルブッキングで先に宿泊していた男性と出会い、見知らぬ地下室を見つけてしまうというストーリー。
主演はTVを中心に活躍しているジョージナ・キャンベル。また鉢合わせた男性役は「IT/イット それが見えたら終わり」でペニーワイズを演じて有名なビル・スカルスガルド。
さらにその物件のオーナー役には「ダイ・ハード4.0」などのジャスティン・ロング。
今作はホラー映画として昨年結構ヒットしたものですが、日本では劇場公開はなしでした。配信では公開されたのですが、なぜか無料公開はディズニー+のみということに。
どの層に届けようという戦略かよくわからないですが、まあ狭い範囲での公開になりました。購入すればその他のサービスでも観ることはできそうです。
自分はディズニー+に加入していることもあり、また先に鑑賞した方の評価も良かったので、遅ればせながら12月になって鑑賞しました。
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~あらすじ~
仕事の面接のためにデトロイトでAirhubを利用したテス。
降りしきる雨の夜にやっとたどり着いた宿泊先の家だったが、なんとダブルブッキングで男性がすでに住んでいた。
見知らぬ男性キースを警戒していたものの、外は大雨で夜遅かったこともあり、テスは家に上がることにした。
部屋を空けてもらい寝る準備をしていると、キースは友好を深めようとワインを持ち出した。
共通の話題があり盛り上がった二人。次の日の朝キースは先に家を出ていた。
テスは家の中を改めてみて回るのだが、地下室に謎の隠し扉があるのを見つける。
その扉の奥にはなぜか個室があり、ベッドとビデオカメラが放置されていた。
感想/レビュー
コメディの舞台からガチガチのホラー映画に単独監督デビューを果たしたザック・クレッガー監督。
今作では社会性を取り込んだホラーを展開しています。
一つはアメリカ社会における今を色濃く出している点ですが、もう一方ではその社会自体の男女での認識の差異に着目していました。
アメリカの今、荒廃した地区
そもそもの舞台となっているデトロイト。
夜のOPシーンでは良く見えなかったのですが、朝のシーンでなるほどこんなところには誰も滞在したくないであろう荒廃っぷりを見せています。
古くはポール・ヴァーホーベン監督の「ロボコップ」で大犯罪都市として描かれ、「ドドント・ブリーズ」でも行き詰った街として登場しているデトロイト。
一時栄えた街ですが、産業の後退と同時に犯罪が多発し、ある程度裕福な白人層は離脱、ゴーストタウンのようになってしまった。
今作のある怪物の放置はこのような環境ゆえに起きています。
それが主ではないのですが、しかし注目のない地区がうまれていることから、誰にも知られずに、今作の怪物は凶行を繰り返してきたのでしょう。
ジェントリフィケーションとモンスターの融合ホラーは「キャンディマン」でも描かれましたが、やはりこうした地域としての貧困の差が大きな問題であり背景になることは間違いないように思います。
人種差別的な要素
またほのかにではありますが、人種差別的に思えるような要素も見えます。もしくは、安易なカテゴライズやバイアスを持っているという意味でしょうか。
途中で本来のホラー映画であれば終幕を迎えることができたであろう警官とのシーン。
テスが必死に訴えても、薬中だと思われてまともに取り合ってもらえません。しかも他の発砲事件の無線を受けてそっちへ行ってしまう。
はっきりと人種差別とは思えませんが、これが白人男性だったら?などと勘繰ってはしまいますし、誰も引き継がせずに他の現場へ行ってしまうような警官の態度には、やはり反感があると思いました。
男女の認識差
そして今作の大きな要素が、男女の社会・現実認識についてです。
シンプルにいうと、2者間で見えている現実が異なる。
それは単独でホラーとして作用します。
OPでテスはキースに出会いますが、やはり警戒する。男性が女性の家に上がることよりも、女性が知らない男性の家に上がる方がよっぽど怖く警戒するのは察せますよね。
しかも相手はあのペニーワイズなので(これはおまけ的なものですが)余計にちょっと怖い。
ちょっと回答にどもついたりするととても怪しく見えてしまうし、ワインを出してくるところもなんだか怪しく思ってしまう。
ここは本筋に関係ないのですが、男性と女性では常に気を付けていないといけないレベルが違うということをスリラーと混ぜてうまく描写していました。
地下室の発見についても、ビデオとベッドのある部屋の発見についても。
テスとキースそしてAJではあまりに危機感や対応が異なっています。
AJについてはジャスティン・ロングの存在感も相まってコメディテイストをもたらすまでいっており、視点が変わるだけでも全体のトーンが切り替わるように、認識の無意識での差異があぶりだされていました。
共感を呼ぶ怪物
認識の差異がでているのはこのホラー作品におけるモンスターに対してもだったと思います。
地下の奥深く、本当の奥底にたどり着くにつれ、徐々に観客に事実が提供されていく。
真実を前にして、その容貌と行為からは怪物でしかなかった”彼女”に対し、哀れみを抱いてしまいます。この作用はどことなく「X エックス」のパールを思い出しました。
その心理や境遇に理解があるからこそ、つながってしまう感じがしてまた恐怖になる。
AJはどこまで見ても理解せず共感せず、やはり無意識下での性犯罪者であり怪物なのです。
しかしテスは”彼女”を理解した。それでサバイバルできていたのです。
フランクという真の怪物は別として、AJも似たようなものです。性加害の当事者のくせに自己中心的な認識しかできない。
最後の最後までクズで、テスに対しても勝手な解釈を押し付けました。
ちょっと”彼女”のパワーが、その劣悪な環境にしては強すぎることなど変なところもありますが、今のアメリカ社会とジェンダーをうまくホラーに織り交ぜた秀逸な作品で楽しめました。
アメリカでは結構ヒットしたようなのですが、日本では公開規模、形態ともに恵まれていません。
もしもディズニー+加入している方でしたらぜひ鑑賞を。
というところで今回の感想は以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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