「The Witch/魔女」(2018)
作品概要
- 監督:パク・フンジョン
- 脚本:パク・フンジョン
- 製作:パク・フンジョン
- 音楽:モグ
- 撮影:キム・ヨンホ
- 編集:キム・チャンジュ
- 出演:キム・ダミ、チェ・ウシク、チョ・ミンス、コ・ミンシ 他
「悪魔を見た」などの脚本を手掛けたことで知られるパク・フンジョン監督が、ある組織によって生み出された改造人間の少女をめぐる戦いを描いたバイオレンスアクション。
主演は今作で強烈な印象を残し一躍スターとなったキム・ダミ。また彼女と同じような力を持つ青年には「パラサイト 半地下の家族」などのチェ・ウシク。
また、「嘆きのピエタ」などのチョ・ミンスが組織のトップにして主人公を追い回す女を演じます。
この作品は特に主演のキム・ダミの存在を知らしめ、彼女は様々な賞で新人女優賞を獲得。日本でも公開時にはすごく話題になっていたのを覚えています。
当時の私は韓国映画はほとんど観ていない情弱だったのでにぎわっていることしか知りませんでしたが、配信されていたため初めて鑑賞しました。
パク・フンジョン監督といえばファン・ジョンミンが出てる「新しき世界」などがありますね。
一応今作はパート1という位置づけで作られた作品になっていて、今年2022年にはちょうどパート2が公開されています。韓国で6月中旬なので、日本に来るのはもう少しかかるでしょうか。
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~あらすじ~
韓国のとある研究施設。惨たらしい現場では無数の死体が転がり、男たちが何かを袋に閉じ込めている。
血まみれの少年が森から出てくると、車に乗った女は「取り逃がすとは。役立たず。」と吐き捨てる。
ちょうど同じころ、ある農家の男性が少女が田んぼで倒れているのを見つけ保護した。
ジャユンとして育てられた少女は今は高校生になり、親友でおせっかい焼のミョンヒと楽しく過ごしていた。
成績優秀で歌も上手く、運動神経も良いジャユンであったが、彼女は時折激しい頭痛に悩まされており医師には余命が少ないと告げられていた。
周囲には何も漏らさないジャユンはミョンヒの誘いでTVのオーディション番組に出ることに。
そこである”手品”を見せたことで、ジャユンは不審な男たちに狙われることになってしまう。
感想/レビュー
よくある話を見事に描き、高みへ押し上げる
作品プロット自体はおそらく結構前からハリウッドでは繰り返し続けられたものかもしれません。
超能力の開発、特に青少年を主軸にした作品。
ジェイソン・ボーン的な才覚の持ち主が記憶喪失であるような話にもなっており、またお得意の激しい暴力性を秘めるアクション映画。
舐めてた女子高生が超壮絶な殺人兵器であるというギャップについても、まあ別段目新しいわけではないのです。
しかしこの作品を一つプッシュして押し上げているのは、その遂行の見事さと、そこにとどまり腐ることのない脚本上の仕掛け。
聞き飽きたような復讐の物語だと思っていたら、別次元の話に連れて行ってくれた「悪魔を見た」の脚本を手掛けただけあって、パク監督は今作でも「そうきたか」と言わせてくれる驚きと未知の領域をくれています。
その切り返しまでの道のりはある程度長くはありますが、周到さがとてもいいですね。
観客側としてはこの主人公ジャユンがただものではないということは序盤から知っている。
だからこそその覚醒的なアクションシーンまでの溜め込みもひとつ楽しみを助けることになります。
キム・ダミの存在感
主人公を演じるキム・ダミが、このプロットの試みを成功させている要因だと思います。
彼女の華のないようなしかし特別感のある、そのへんにいそうな女子高生感を持たせつつも、しっかりと化け物じみた威圧感も持ち合わせられる、その懐の深さが素晴らしい。
結構難しいものだと思います。
どう考えても綺麗だ、カッコいいなど、普通の高校生には溶け込み切れないと違和感ですし、かといって普通の女子高生がサイコパスを演じてかっこつけているように見えてはただダサいだけ。
ここをどちらもクリアして、ジャユンとしては応援したくなりつつも、魔女としてはこっちも引くくらい怖いのはほんとに素晴らしい。
吹きすさぶ暴力の描写はスタイリッシュさもありながら重く、血の量の感じとか変な湿気とか含めてすごく韓国映画の空気が出ていて楽しいですね。ゾクゾクします。
なんでもない日常ベースだからこそ、急展開における家での初めての戦闘シーンは圧巻です。
眺めていた私たちをも見ていた存在
そして研究施設に行ってからが素晴らしい。
結局はすべてを支配していて、捕まるということすらも計画の一部。
「ダークナイト」のジョーカーとか、「セブン」でも良いでしょうけれど、観客が展開していると思ったことすらある登場人物の筋書き通りだった時の衝撃って良いものですね。
今回はジャユンがふと可哀そうにすら見えたりするのも効いています。
おそらくただ記憶を取り戻せない元殺人マシーンが、その場のサバイバルのために戦いに身を投じるだけでは、普通の映画になっていたと思います。
映画を最初から支配していたのが誰なのか、それを知るときに何もかも超越した存在、観客という俯瞰視点すらをもさらに上から見ていた者にぞっとするんです。
全ては生き延びるため。
生き延びるために彼女がここまで耐え、欺きそして待っていた。
ただ、この生への執着にドラマがあります。ジャユンが生きることにこだわるのは、生物としてでも復讐のためでもなくて。
このもらった”ジャユン”という少女の人生を生きたいのです。血縁でなくとも父と母を愛し、親友も大切にしている。
まさにシステムの破壊者として行動を開始するラストに向けて、ここでは生きる道を選んだからこその別れというものがせつなく置かれていました。
超人的パワーと超能力でのバトルとか、エンタメとしての完成度も高くて満足。
続編ありきな感じでの終わり方にはなっていますけど、一つの話として仕組み含めてすごく楽しめた作品でした。
今回は短めですが、感想は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ではまた。
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