「ヒトラーのための虐殺会議」(2022)
作品概要
- 監督:マッティ・ゲショネック
- 脚本:マグヌス・ファットロット、パウル・モンメルツ
- 製作:ラインホルト・エルショット
- 撮影:テオ・ビアケンズ
- 編集:ディルク・グラウ
- 出演:フィリップ・ホフマイヤー、ジェイコブ・ディール、ゴーデハート・ギーズ、トーマス・ロイブル 他
第二次世界大戦において、そして人類史上において最も残虐な大量殺戮であるホロコースト。ナチスドイツが指揮したユダヤ人の絶滅計画は、ある会議で議決された。
政府や軍部の高官15名によって開かれたそのヴァンゼー会議を、実際の議事録をもとに映画化した作品。
監督はマッティ・ゲショネック。出演はフィリップ・ホフマイヤー、ジェイコブ・ディール、ゴーデハート・ギーズら。
このヴァンゼー会議を扱った作品にはケネス・ブラナーやスタンリー・トゥッチ出演の2001年の作品「謀議」もありますね。
私はそちら未鑑賞のため、ヴァンゼー会議自体には触れたこともないので今作でこの全容を知った限りです。
映画館で予告をみた際にも惹かれたのですが、「西部戦線異状なし」に続き、ドイツ本国がドイツの歴史的に重要な事項を映画化している点も興味深く感じました。
公開週末には行けなかったのですが、次週に鑑賞。
割と人が入っていました。
~あらすじ~
1942年の1月20日。
ドイツ、ベルリンのヴァンゼー湖の辺にある邸宅に、ドイツ親衛隊や各省庁の事務次官が招集された。
国家保安部長のラインハルト・ハイドリヒによるこの会議の目的は、欧州におけるユダヤ人問題の最終解決。
戦時中においてドイツ本国や占領下にあるポーランド、交戦中のソ連などの諸国を含めて、ユダヤ人の東部への移送が滞っている。
総統そしてゲーリングの要請もあり速やかな実務的解決の糸口草案が求められるため、ここに権力者たちが集まり、人道的かつ効率的なユダヤ人問題の解決策を話し合う。
〜あらすじ〜
会議そのものを映画化
実際に残されているヴァンゼー会議の議事録をもとに製作された映画。
会議の事前準備から終了までを淡々と描いており、もちろんエンタメにふるようなフィクショナルな要素はありません。
一部は会議の場以外での各人のやり取りこそあるのですが、基本的にはその屋敷の会議室でのみ進行します。
その点で仕方がない点はあるのですが、構成上一定でやや眠くなってしまうところもありました。
しかし観客がどう捉えようとも、感情など置いていき突き進んでいくこの会議の構成は、それ自体が恐ろしいという点では成功しています。
参加させられつつ声を上げられない
ストッパーはいない。
そもそもの会議の大前提に対しては誰も疑問を投げかけず批判もしないのです。
観ながら「いやそうじゃない」「そもそもを考え直せ」「ふざけるな」と何度も思いながら、ただこの会議に出席させられていて発言も干渉もできない。
激しい無力感に苛まれます。
ビジネス会議としての見事さに腹が立つ
そして妙な憤りもありました。
それはこのヴァンゼー会議が非常に建設的だからです。
私の職場もそうですが、おそらく多くの観客が実際に職務で参加する会議よりもよっぽどスムーズで実行力があります。
ビジネスという意味ではなんとも滑らかな会議。だから余計に腹立たしい。
参加者はそれぞれが意思決定権を持っているため、持ち帰ることも検討することもない。
関係各所から必ず一人は参加しているし大きく分けた勢力図としても均衡した数字的配列を持つ。
発言のない人間もなく準備不足の人もいない、議題が共有され皆が意見と貢献意欲を持っている。
見事な設定ですよね。でも大前提からしてすべてが間違っている。
対象者の定義をしっかりと決めるし、各機関での負担の公平さを量的にも時間的にも調整。
皆優秀なのです。
会議を追っていく際にはそのスムーズさと各人の有能さになんだか納得感すら感じてしまいました。
ビジネスの根底にはまず人間であることが必要
しかしだからこそ、優秀さというもの、ビジネスにおけるある種の狡猾さや目的思考などというものは、根底に倫理観があっての話だと実感します。
ドイツ人に対しての心理的負荷を配慮し、対象者と接点を減らしたうえで効率よく殺戮を行うことを”平和的”だとか”人道的に最善”と結論付けてしまう。
高らかに何かの指針を掲げていて、非常に聞こえも良いし聡明に聞こえる。
賢そうなエリート。彼らの言うことがなんだか心地よい。
そんな風景は現代にもある。そしてそうした人たちが何らかの権力を持っていたり、意思決定の機関にいることも。
大きな事業を成し遂げて、ビジネスマンとして成功した男が大統領になったとしても、人間としての倫理観が破綻していては意味がないのです。
狂人に見えない殺戮者たち
常日頃からとち狂っているわけではないのがまたいい演出です。
会議前には雑談したり、近況を話したり。ちょっと嫌な奴を下座に勝手に移動させたり。
会議終わりには飲みに行く人がいたり、「この後別の会議あるんで。」と去っていく人も。
そんな光景にはあんなにも残酷な大量殺戮を話し合った人間を感じ取れない。
しかしだからこそ、そうした大きな意思決定の場には、大前提として人間であることを忘れてはいけないし、批判しなければいけません。
今作は極限のビジネス会議を通して、現代においてもこのような非人道的な見事な話し合いが行われていると警鐘を鳴らす。
きっと半島を侵略し病院を爆撃し、村人を惨殺している軍部でも、こんな風に頭の切れる人間がしっかりとビジネス会議をしているのだから。
なかなかに見ごたえある映画。
おすすめです。
というところで今回の感想はおわり。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ではまた。
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