「ニモーナ」(2023)
作品解説
- 監督:ニック・ブルーノ、トロイ・クアン
- 原案:ロバート・L・ベアード、ロイド・テイラー、ニック・ブルーノ、トロイ・クアン、パメラ・リボン、キース・ブーニン、マーク・ハイムズ
- 原作:ND・スティーブンソン『ニモーナ』
- 製作:カレン・ライアン、ジュリー・ザッカリー、ロイ・リー
- 音楽:クリストフ・ベック
- 編集:エリン・クラックル、ランディ・トレーガー
- 出演:クロエ・グレース・モレッツ、リズ・アーメッド、ユージン・リー・ヤン 他
中世の王国が近未来的な発展を遂げた舞台で、女王殺しの冤罪を着せられた騎士と変身能力を持つ少女が、友情と闘いの旅に出る姿を描いた長編アニメーション。
N・D・スティーブンソンの同名グラフィックノベルを原作にした映画。ニック・ブルーノとトロイ・クエインが監督を務めました。
声の出演には「ナイトクローラー」や「ローグ・ワン スター・ウォーズ ストーリー」のリズ・アーメッド、また「イコライザー」や「ミスエデュケーション」などのクロエ・グレース・モレッツら。
今作はNetflixで2023年6月30日から配信され、第96回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞にノミネートされました。
実は存在は知っていたものの、スルーしていたアニメです。この間のアカデミー賞のノミネート発表で興味がわきリストに追加していたのですが、今回やっと鑑賞したので感想を残します。
~あらすじ~
邪悪なモンスターの襲来に対し、騎士が立ち上がりそれを退けてから1000年。再び悪が復活した時のために騎士団を持った王国がある。
そんな国で、孤児出身でありながら騎士学校を首席で卒業したバリスター。周囲からははずれものとして扱われているが、騎士の血筋を引くゴールデンロインとは親しい関係にあった。
しかしバリスターは自身の騎士任命式の最中に女王殺しの犯人に仕立てられ、追われる身となってしまう。
隠れ家に身を潜めて汚名をそそぐ機会をうかがう彼は、さまざまな生き物に変身できるいたずら好きの少女ニモーナと出会い、一緒に真犯人探しを始める。
感想レビュー/考察
なんだか背景が込み入っていて大変なことになっている今作。
アメリカの大手アニメーションスタジオ「ブルースカイ・スタジオ」。このスタジオは、「アイス・エイジ」シリーズなどで知られ、20世紀フォックスのアニメーション部門として20年近くの歴史をもっていました。
しかし、2019年にディズニー社による21世紀フォックスの買収が行われ、その後2021年にブルースカイ・スタジオの閉鎖が発表。
その影響を最も受けたのが、当時スタジオ内で進行中だったプロジェクトの1つである今作「ニモーナ」でした。すでにニック・ブルーノとトロイ・クエインが監督し、7割ほど完成していた状態で製作はストップ。
そんな作品を引き継いだのが、多くのコンテンツを求めていたNetflixと、新たにアニメーション部門を立ち上げた「アンナプルナ ピクチャーズ」。
ということで結構、お蔵入りすらありえた中で、最終的に日の目を見ることができた作品。そしてそんなゴタゴタがあったのにも関わらず、大勝利と言える観客、批評家双方からの好評、アカデミー賞へのノミネート。
噂に違わぬ秀逸な作品になっています。
常に移り変わり予測できず楽しい
アニメーションの表現はセル画からCGそしてやはり何度も言いますが「スパイダーマン:スパイダーバース」のコミック感、カートゥーン・サルーンによる美しい画そしてアードマンのクレイアニメまで、幅広いものがあります。
そこで今作もまた1つユニークなアニメ、視覚体験を与えています。
今作が持っている世界そのものとも言えますが、スタンダードを外れたアニメです。
中世騎士の世界を持ちつつも、サイバーパンクさもあり、怪獣映画のような要素まであって。
昔話だからといったオールドスクールな水彩画っぽさも持ちつつ、近未来のエッジの効いたサイケな表現もCG部分もあります。
だから変化に富んでいるし予想できないしずっと楽しいです。
その予測不能なライド感はハイテンションな脚本やニモーナという最高のキャラクターに集約されます。
子ども向けと言い切れないギリギリなギャグとか、初っ端から奪われた腕とペニーワイズのギャグをかけてきたり。
ニモーナは彼女以外の何物でもない
彼女には普通はない。彼女はニモーナという存在以外の何者でもなく、それはいろいろなアニメキャラのどの系譜にもいないしでも全部でもある気がします。
あくまで自然に、単一性や独自性を示してみせ、そこにはトランスセクシュアルやパンセクシュアル、ジェンダーフルイドまで含まれています。
ニモーナはビジュアルでよく出ている女の子の姿を”女の子の姿”としか言いません。
電車でのバリスターとの会話で、「楽な姿でいろよ」と言われたときに「電車にゴリラがいるのはおかしい?」と返す。(女の子でいる方が楽?ってめちゃ鋭いツッコミをいれるスマートなキレも好き)
誰かが決めた生きやすさつまり生き方とか、普通とかスタンダードなんてものを受け付けないニモーナ。
彼女はクロエ・グレース・モレッツの演技も相まって本当に近年のキャラクターの中でもトップレベルに好きなキャラになりました。
キャラクターにはニモーナの抱える明細と似たものが与えられています。
特別ではなく、そこにあるだけの関係性
バリスターはゴールデンロインと恋仲にあります。ただ、同性愛者について、それを困難や挑戦とは描きません。もはやそこは議論の対象ではない。
実写映画では学園モノなどでもこの辺が当たり前になってきていて、そこにどんなセクシュアリティの人物がいてもそれを説明しない。
なので男性騎士同士のロマンスやキスというこれまでに描かれなかったものがごく自然に成立しています。
心に触れる
ただ今作が扱うのは孤独や偏見と差別であることは変わりません。
吹聴されるあらゆる噂や先入観によって、バリスターもニモーナも孤立します。傷を持つお互いが寄り添っていく。
ニモーナの回想シーンはけっこう見てて辛いものでした。「ヒックとドラゴン」などでも描かれますが、他種族と心を通じていた友達同士が、周囲社会の規範によって最悪の結末を迎えていくのは辛い。
そこにセリフもなくても、ニモーナの引き裂かれた友情と心を推し量るのはたやすいです。
大きな怪物に姿を変えてしまっても、それはニモーナなので攻撃されているのは痛ましい。どんな姿でも踊って楽しんだバリスターが最後に見せてくれたのは、心に触れること。
姿かたちではなくて直接心に。大きな怪獣のまるで心臓のように露出した白く光り部分。それは心なんでしょうね。そこに剣を突き刺すのではなくて、バリスターは手を触れる。
良い演出です。
最後には自分を傷つけた人々のために命をかけて飛んでいくニモーナの姿は、「アイアンジャイアント」のようでしたし、言ってしまえばキリストのようです。
私たちの愚かな偏見と差別を、罪を背負って傷つきながら最後には命をもって赦してくれる。
革新的な映像に、あたりまえも普通も吹き飛ばしてしまうキャラクターたち。純粋に楽しさに溢れていますし、鋭くて面白いシニカルさもユーモアも持ち合わせているすごいアニメでした。
観るのが遅くなったのを結構後悔しています。NETFLIXで配信されているので、ぜひ鑑賞ください。
今回の感想はここまでです。
ではまた。
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