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「ブリッジ・オブ・スパイ」”Bridge of Spies”(2015)

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映画レビュー
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「ブリッジ・オブ・スパイ」(2015)

  • 監督:スティーブン・スピルバーグ
  • 脚本:イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン、マット・チャーマン
  • 製作:スティーブン・スピルバーグ、マーク・プラット、クリスティー・マコスコ・クリガー
  • 製作総指揮:ジョナサン・キング、ダニエル・ルピ、ジェフ・スコール、アダム・ソムナー
  • 音楽:トーマス・ニューマン
  • 撮影:ヤヌス・カミンスキー
  • 編集:マイケル・カーン
  • 出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、エイミー・ライアン、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル 他

スピルバーグ監督の最新作で、「リンカーン」(2012)に続いて実在の人物に焦点を当てた伝記映画ですね。

といっても、私はこの主人公であるジェームズ・ドノヴァン氏を、この映画まで全く知らなかったわけですが。映画で知った実在の偉人って結構いますよね。

先日のアカデミー賞では6部門にノミネートですが、監督と主演はノミネートならず。まああまりアカデミー賞を過信しないので、やはり自分で観るのが一番。

スピルバーグとトム・ハンクスというのもあり、扱うものの割に人は結構入っていました。

冷戦下の1957年。

ニューヨークのブルックリンで、FBIがソ連の諜報員として、ルドルフ・アベルを逮捕する。スパイは重罪であり、極刑が求められるが、形式として裁判をして弁護してやるものでもある。

そこで選ばれた弁護人が今は保険関連の弁護をするドノヴァンだった。スパイの弁護は過酷で、人には白い目で見られ、嫌がらせも受けることに。

しかしドノヴァンの真摯な取り組みと弁護で、アベルは死刑から禁固刑に減刑。

そしてそんなとき、今度はソ連にて、アメリカの偵察機パイロットが捕縛されるという事件が起きる。

形式的にやればいいだけのほぼお飾りな男が、「やるなら正しく!」と息巻いて、問題になるというのに信条を貫く。さながら「スミス都へ行く」(1939)のような展開に。

トム・ハンクスの友好的かつ優しく芯のあることをハッキリという人物は、ほんとうに彼がぴったりな役でした。そしてオスカーノミネートもしているマーク・ライランス。

下着姿で逮捕される、落ち着いてとぼけた彼。しかししっかり証拠隠滅するなどの切れ者です。

この二人の掛け合いの良さ。冷戦下ですべての人が疑い、恐れ、それ故に先制攻撃しようとする。それでも何が正しいかを忘れずにいようとする二人。ドノヴァンは守るべきルール、アベルは自国への忠誠心。

同じ部屋に入っているところを、外側から、格子ごしに二人を移すところで、ドノヴァンの置かれる立場と、本当にアベルを救うためにそばにいる覚悟を観て取れます。

冷戦下での人々の異常さが、学校生活や子供の言動、政府の動きに見られます。今の私から見れば異常でも、当時はそれが普通。その中で信条を忘れないドノヴァンらこそ異常者に見えるわけです。

映画はひとつ目のイベントであるアベルの減刑を終えると、次へと移ります。

ここ「ドノヴァン東ドイツへ行く」のようになりますね。ドイツ語とか外国語に一切の字幕がないのも、分からないという怖さを増していて効果的に思えます。

実際、人物すら本物か偽物か、本名か偽名かわかったものではなく、映画の終了まで一切分かることはないんです。

このとことん突き抜けた、何が信じられるのかわからない状況で、私も観客としてとても不安と恐怖を感じましたね。

ちなみに、そこまでしていてもこの映画ではクスッと笑える部分が残っていました。あのアベルの偽家族の胡散臭さとか、東ドイツの代理人のアホさ。このちょっと皮肉なユーモアは、脚本のコーエン兄弟の部分なのかな?と思ったり。

複雑に絡む事件を、なんとなくは掴ませつつも、はっきりとした全容や政府と人物らの本質を見せませんね。見えるけど見えない。

そもそも核への不安から冷戦があるんですよね。相手がどんな兵器を持っているのか分からないこと、核兵器の衛星は見えないこと。

雨の中、厳しい寒さと曇天。人や団体だけでなく、自然までドノヴァンにつらく当たる。

ひとりさびしく東ドイツを歩く姿、風邪をひきながら交渉に望むのは、「インサイド・ルーウィン・デイビス」(2013)みたいな感覚。

そんな孤立無援の中で、一つだけ信じる者は、憲法。

“One, One, One.”

序盤の保険関連の弁護でも言うことですね。「5人じゃない、1つの事故だ。」

同じく、「2人じゃなく、1つの交換。」 ドノヴァンはうまく立ち回り、偉業をなしますが、感情に訴えたり正義がどうというのでなく、あくまで交渉術の一番大切な点を押しているのが素晴らしい。利害一致させるってのは本当にうまい。

スピルバーグらしい強い光があてられる橋で、お別れ。

アベルの言う仲間の待遇っていうのがまた少し不安を残す終わり方でした。

どんよりしたブルックリン、締め切りの部屋や監獄、寒いドイツ。最後の最後、ドノヴァンが家に帰るときは、とてもきれいで暖かい晴れでした。安心してどっぷり寝れる場所ってやはり大切です。

スパイの橋を渡るのは難しく、ただこちらから向こうへ行くということがどれだけ過酷かを見せてきます。家の間のフェンスを乗り越えて遊ぶ子たちが、機関銃で撃たれないことを願うのみ。

ドノヴァンが上手く橋渡りができたのは、やはり正しさを持ち続けたからでしょうか。

私たちが何者かを決めてくれる、無視できない規則。万人に対して正当な権利と保護を。これは現代における政府や国家も忘れてはいけないものでしょう。

スピルバーグ監督作としては、最近の中で最も好きです。とてもおススメです。

演技も音楽も撮影も好きですが、複雑で期間のある話をうまくまとめ上げ、ユーモアも入れている脚本が一番私は好きでした。ここらで終わります。それでは、また。

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