「The Son/息子」(2022)
作品概要
- 監督:フローリアン・ゼレール
- 脚本:フローリアン・ゼレール、クリストファー・ハンプトン
- 原作:フローリアン・ゼレール『Le Fils 息子』
- 製作:フローリアン・ゼレール、ジョアンナ・ローリー、イアン・カニング、エミール・シャーマン、クリストフ・スパドーネ
- 製作総指揮:ヒュー・ジャックマン、サイモン・ギリス、フィリップ・カルカッソンヌ、ダニエル・バトセク、オリー・マッデン、ローレン・ダーク、ピーター・トウシュ、クリステル・コナン、ヒューゴ・グランバー、ティム・ハスラム
- 音楽:ハンス・ジマー
- 撮影:ベン・スミサード
- 編集:ヨルゴス・ランプリモス
- 出演:ヒュー・ジャックマン、ヴァネッサ・カービー、ローラ・ダーン、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス 他
「ファーザー」で高い評価を得たフローリアン・ゼレール監督が、今度は自身の息子との関係性に苦悩する父を描く作品。
また自身の戯曲を原作として映画化した作品になっています。
主演は「LOGAN/ローガン」などのヒュー・ジャックマン。息子ニコラス役にはゼン・マクラグラス。
新しいパートナー役には「私というパズル」でアカデミー賞ノミネートを果たしたヴァネッサ・カービー。また元妻でありニコラスの母は「ジェニーの記憶」などのローラ・ダーンが演じています。
またカメオ出演程度ではありますが、前作「ファーザー」でアカデミー賞獲得のアンソニー・ホプキンスが顔を出していますね。
やはり何と言っても初監督作品であった「ファーザー」の圧倒的な出来栄えから、その続きは大いに期待されるものでした。
舞台劇をまた映画に落とし込むという意味での興味もありますが、監督のブランドに惹きつけられたというのが一番ですね。
公開週末に早速観に行ってきましたが、やはり注目作なのかかなり混んでいました。
~あらすじ~
弁護士としてキャリアを伸ばすピーターは、再婚相手であるベスと、彼女の間に生まれた幼い子とともに幸せに暮らしている。
そんなある日、元妻であるケイトがピーターのもとを訪ねてきた。
彼らの息子ニコラスの様子がおかしいというのだ。この一か月間学校に行っているふりをして実は不登校であり、ケイトには何も答えず、時折怖くなるという。
ピーターは仕事帰りにニコラスに会いに行くと、母とは息苦しくて暮らしていけない、父さんと暮らしたいと言われた。
ピーターは息子を見捨てることもできず、ベスと暮らす家にニコラスを招く。
新しい学校に通わせ、少しづつ笑顔を見せていくニコラスであったが、ピーターが思っている以上に彼の抱えるものは大きく、意思疎通のできないもどかしさに葛藤していく。
感想/レビュー
もちろん前作は本当に素晴らしい作品だと思いますし、フローリアン・ゼレール監督の力というのはすごく感じ取っています。
今作も期待しました。
演者はみな素晴らしいですし、実際演技の面ではかなり堅実。楽しめるはずです。
ただ今作私には合いませんでした。
これは舞台的な規模での映画としてのダイナミズムを感じないという弱点だけに及ばず、そもそもの脚本、テーマ性にかかわる思想が合わないというところが大きいです。
精神疾患を恥じてはいけない
まずニコラスにはうつ病と思わしき症状があるという設定とその向き合い方です。
気分の浮き沈みとかやる気が出ないこと。それらをさすがに”治すべきもの”、”恥じているもの”として描くのが好きではありません。
自傷行為ももちろん、それはとてもセンシティブなものだと思います。
ピーターが完璧な息子を欲しているのが理由かわかりませんが、ニコラスの状態をとにかく”改善”させることにフォーカスするのは不快でした。
精神疾患を患うティーン。その見せ方もなんとも典型的です。引っ込み思案な感じで、友人が少なく趣味もなく・・・
精神疾患、自分を傷つけること。
青少年とそのテーマを真摯に描いた「最高に素晴らしいこと」に比較して、なんともお粗末に思えてしまいました。
ニコラスに対して”怖いな”と思わせるような演出も嫌です。そういう面も含めて、今作は危険であるとすら思います。
ここから精神疾患に対して”ニコラスのような子”というような枠ができても良くないと思いますし、またとにかく治療ばかり目指すのもどうかと思います。
ものすごく安易なメロドラマ
何よりも問題なのはこの作品がすっごくメロドラマ的であることと、その中で”悲劇”としてニコラスを消費している点です。
正直なところ、難しい息子という記号が欲しかっただけな気がして。
どう頑張っても分かり合えず、正しい道の見えない、難題としての存在が欲しかっただけな気がします。
あまりニコラス本人を個人としては感じることはできませんでした。
本当にやりたかったのは、ヒュー・ジャックマン演じるピーターを主人公にした父との関係性なのでしょうね。
父も誰かの息子である。
タイトルの息子というのはピーターのことを指していると思います。
彼は父との関係性に傷を抱えており、そして逃げようと必死にもがくほどに父に近づいてしまった。
欲しかった親に自分はなろうとするものの、こうはなりたくないという親になってしまう。
なんとも皮肉な話ですが、よくある話過ぎるのではないでしょうかね。今更なテーマをもっと斬新な形で描くこともできたでしょうに。
そこまで執着したいなら、あの結末を迎えさせることなく、というかニコラスの設定をもっと単純に父と心が離れてしまった存在にしておいて、ピーターと父の関係性をメインにすればよいのではないかな。
ドラマチックだと感じて楽しんではいけない
精神疾患、自傷行為、そして自殺行為。
そうしたものを扱うにしては、ちょっとケアが足りなすぎると感じてしまい、各俳優陣の演技は良くてもひっかかる映画。
この内容で、変に感動とか余韻が・・・とか語ってはいけないとだけは言いたいです。結構危険な作品だと思いますので。
今回はほぼ酷評になりました。ゼレール監督の次が、3つの家族の話のラストらしいので、そちらも楽しみに待っておきましょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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