「ドリームプラン」”King Richard”(2021)

「ドリームプラン」(2021)

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作品概要

  • 監督:レイナルド・マーカス・グリーン
  • 脚本:ザック・ベイリン
  • 製作:ティム・ホワイト、トレバー・ホワイト、ウィル・スミス
  • 音楽:クリス・バワーズ
  • 撮影:ロバート・エルスウィット
  • 編集:パメラ・マーティン
  • 出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、ジョン・バーンサル、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン 他

女子テニス界にその名を轟かせるビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズ姉妹。

歴史に残るこの二人の選手の成功の裏には、娘たちのために独自のプランを作っていた父リチャードがいた。

そんなリチャードとジュニアからプロを目指していく姉妹、ウィリアムズ一家の模様を描いていくドラマを、レイナルド・マーカス・グリーン監督が描きます。

主演は「アラジン」などのウィル・スミス。そしてリチャードを支える妻であり姉妹の母を演じるのは「ビール・ストリートの恋人たち」などのアーンジャニュー・エリス。

ビーナスとセリーナをそれぞれサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトンが演じています。

レイナルド・マーカス・グリーン監督はもともとウォールストリート金融街での勤務から映画を学び監督へと変更した人とのことで、実は今作が私は監督作品初鑑賞になりました。

この作品の脚本はあのブラックリストに2018年に乗っていたそうで、もともと期待のプロジェクトであったとか。

また今回は製作にも参加しているウィル・スミスも映画化を熱望していた一人だそうで、今作で主演も熱演。

現在(2022.3.1)作品はアカデミー賞にて、主演男優賞、作品賞、助演女優賞、編集、脚本、作曲と6部門にノミネートを果たしています。

作品評判が海外から聞こえてきた後、実際に私が見たくなった理由は単純にテニスが好きだからでした。

セリーナのほうは特に最近も試合を見ていたりして本当にすごい選手だと思っていますし、加えて今作が選手ではなくてその父を主人公とした伝記映画というあり方も興味の沸くポイントでした。

作品はちょうど祝日公開でしたので、初日に早速鑑賞。

朝一番の早い回でしたが結構混んでいて、年齢層も割と広めだったと思います。

「ドリームプラン」オフィシャルサイトはこちら

~あらすじ~

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リチャードは姉妹が生まれる前にTVで優勝したテニスプレーヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿を見て、「娘を最高のテニスプレイヤーにしよう!」と決意。

テニスの教育法を独学で研究し、「世界チャンピオンにする78ページの計画書」を作成。

誰もが驚く常識破りの“ドリームプラン”を実行し続けた。

お金もコネもない劣悪な環境下で、途方もない苦難、周りからの批判を受けながらも、そのプランでいかにして2人の娘が世界の頂点へ上りつめるのか―― ⁉

「ドリームプラン」オフィシャルサイトより抜粋

感想/レビュー

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すべての素養と情熱が合わさり力強い家族の物語が生まれる

レイナルド・マーカス・グリーン監督の経歴、ティム・ホワイトとトレバー・ホワイトのプロジェクト背景、そしてザック・ベイリンの脚本やウィル・スミスの熱演。

すべての素養と情熱が合わさることで、今作は並みのスポーツ、家族ドラマを超えたものに仕上がっています。

まず監督の背景ですが、この映画でも大切な要素である教育に関して大学で専攻、またデビュー作品「Monsters and Men」(2011)がBLMを題材とする警官による黒人銃撃事件を扱っているんですね。

この2要素だけでも、黒人差別の渦の中で育ち傷を負う男であり、また教育という観点で危うさすら見せる主人公リチャードの造形に深くかかわっているものと思います。

また、テニスという要素では製作のティム・ホワイト自身が元テニス選手であり、それは試合や練習のシーンに生きていると思いますし。試合シーンのほんとに試合を見ているような感覚はすごいです。

個人的にはフォルトとかミスをするシーンが実際にTVでみる試合のそれにそっくりでびっくりしました。

テニス経験のなかったサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトン二人の力も感じます。

また今作のカギとなっているのがザック・ベイリンの脚本かなと感じます。

全体の話自体は下手すれば安直でオーソドックスなストーリーになる可能性があるものです。

カリスマがありながらも風変わりな父と娘たちの成長、スポ根的な側面に人種問題・・・

ただそのいずれにもブレたりバランスを崩したりすることなく、クリシェに溺れてしまうこともなく。

家族の物語であるという点にフォーカスする力強さが、作品をぐっと良いものにしたのだと思います。

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90年代の空気と衣装

90年代を舞台とするその背景デザインとか衣装。

しっかりと生活が営まれていると感じられるゲットーの描写、つねにバキッとはさせずにややザラつきがありながら少し淡く柔らかい光と色調に整えられた90年代の画面が結構好きです。

撮影はロバート・エルスウィット(「インヒアレント・ヴァイス」「ナイトクローラー」など)。

特に衣装面では、映画ってなかなか新品な雰囲気の衣装が多かったりするのですが、使い古し着回し感がしっかりある衣装が多くて、その点もウィリアムズ一家のゲットーでの暮らしについてのリアルな描写になっていると思います。

両面を持ち合わせながら時に危険なウィル・スミス

その中で父リチャードを演じていくウィル・スミスですが、彼のこれまでの俳優としての性格に対して新しい側面を見せていると思います。

人当たりがよくライカブルな人物を演じることが多く、また彼自身の人柄もありスクリーンではクセはあっても良い人であることの多かったウィル・スミス。

ただ今回のリチャードはエゴと独善性、自己顕示欲が指摘されるほどに強いのです。

そこには危険さも持ち合わせていますし、映画を観ながらこちらも困惑することでしょう。本当について行っていい主人公なのかと。

だからこそ普通にイヤな奴、毒親とはさせないウィル・スミスの魅力って大事だったんだと感じます。

ちょっと猫背というか肩が上がってて、歩き方も(途中会話で出ますが)ぎこちないショートパンツのおじさん。

今作はリチャードのプランというものを明示しません。

観客だけに共有すれば、それを理解できない周囲とリチャードの差を知り彼を応援することもできますし、ある信念を持つ男が最後に勝利を勝ち取る話にもできるでしょう。

ただプランは口から発せられるだけで、具体性をもたせません。

また序盤に勤め先である警備会社から銃を持ち出すあるシーンがありますが、あの行動においても危険さが少しありました。

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作品だけがくれるリチャードへの別の視点

そんなリチャードを熱演したウィル・スミスのカウンターというか、唯一彼を他の誰も持たない視線で見ていて、批判できる立場にいたのがアーンジャニュー・エリスが演じた妻のオラシーンでした。

オラシーンだけはリチャードを、そのカリスマや娘たちを想う愛の深い父として見ながら、同時に欠陥が多く自惚れがあるエゴイストとしても見ている。

なんとなく作中唯一の視点でありその重要性と俳優の素晴らしさが得られているケースとして、「ジュディ 虹の彼方に」のジェシー・バックリーを思い出しました。

親としてはともかく、夫としての役目について問い詰めていくシーンはかなり印象的であり、これこそは映画の外で知られている事実とは異なる、今作ならではの視点ではないかと思います。

「ストリートから遠ざけるため」の厳しいしかし深い両親の愛

リチャードは娘のためならギャングに袋叩きにされる覚悟があります。

「またパパが殴られた」というように、一度だけではなくいつもリチャードは盾になる。自分には盾になってくれる父がいなかったから。

そしてその傷跡を見せるのは妻オラシーンに対してだけであり、そしてオラシーンだけがリチャードのとるリスクも知る。

二人が序盤に家庭のことを話し合う際、リチャードはふとドアを閉めます。歌を歌う子どもたちに夫婦の話を、ケンカを聞かせないためですね。

何もかもが娘たちを守るための行動。

子どもは子どものままでいてほしく、白人の”素晴らしい”という称賛もはねのける。

「テニスを楽しむんだ」という言葉。

多くのスポーツ選手の映画は、伝記であれフィクションであれその選手の”素晴らしさ”を描く中で、不完全でゆがみがあれど、”素晴らしい”両親を描いた。

なぜならばビーナスとセリーナが素晴らしいというだけではないからです。

二人のスターは、まさにウィリアムズ一家が素晴らしいから誕生したのです。

黒人少女どころか全米、全世界の女の子のあこがれとなった姉妹。その裏側に、ここまでも深く熱い両親の、家族の愛のドラマがあったとは。

これはかなりおすすめの作品でした。ぜひ劇場で。

今作の脚本家ザック・ベイリンは今「クリード」シリーズ3作目の「Creed III」の脚本執筆中とのことで、この人間に寄り添った生き生きとした感覚が生きてくるのではないかと思い楽しみです。

というところで今回の感想は以上になります。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

ではまた。

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