「長ぐつをはいたネコと9つの命」(2022)
作品概要
- 監督:ジョエル・クローフォード
- 脚本:ポール・フィッシャー、トミー・スワードロー
- 原案:トミー・スワードロー、トム・ウィーラー
- 原作:『長靴をはいた猫』ジョヴァンニ・フランチェスコ・ストラパローラ
- 製作:マーク・スウィフト
- 製作総指揮:クリス・メレダンドリ
- 音楽: ヘイター・ペレイラ
- 編集:ジェームス・ライアン
- 出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、フローレンス・ピュー、オリヴィア・コールマン、ヴァグネル・モウラ、レイ・ウィンストン 他
「ヒックとドラゴン」シリーズのドリームワークスが、同スタジオの「シュレック」に登場する長ぐつをはいたネコ主役に送るスピンオフ映画。
2011年の「長ぐつをはいたネコ」の続編にあたり、実に11年の期間を空けての再登場となります。
こえの出演は引き続きアントニオ・バンデラス、サルマ・ハエックらが努めます。
また今作では迷子のチワワ役には「シェアハウス・ウィズ・バンパイア」のTVシリーズに出演しているハーベイ・ギーエン、また長ぐつをはいたネコたちを追いかける少女役には「ブラック・ウィドウ」のフローレンス・ピューが出演しています。
監督は「レゴ・ムービー2」などで美術部門を務めていたジョエル・クローフォード。
実に11年もの時間を空け、構想こそ2012年からあったものが大きくずれ込んでついにスクリーンに戻ってきたわけですが、批評筋ではかなり好評を得ています。
アカデミー賞でもアニメーション賞にノミネートされました。
公開を楽しみにしていた作品の一つですが、ほかの国内作品もあったりとで公開規模はまあ普通。とにかく字幕版上映が1日1回夜だけとかだったので時間調整に苦労しました。
〜あらすじ〜
大冒険を重ねる長ぐつをはいたネコ。
しかしある町で巨人を打倒した際にうっかり死んでしまった彼は、医師からすでに8回の死を迎え、残りはこの命だけと説明される。
これ以上の無茶はできないと諭す医師を笑い飛ばしたネコだったが、賞金首であった彼を狙う狼が現れ、初めて死の恐怖を味わった。
ネコは自慢のマントやブーツに別れを告げ、家猫として保護してくれる家に入ることに。徐々に家猫として慣れていく中、ネコのフリをした犬と知り合う。
しかし、ネコに願い星への地図を盗む仕事を頼もうとクマのギャングがやってきたことで状況は変わった。
ネコは願い星の力で失われた命を取り戻せば、再び”長ぐつをはいたネコ”として輝けると思い冒険に出るのだった。
感想/レビュー
初見でもアクセスしやすいテイスト
正直シュレックのときの長ぐつをはいたネコとか、前作に当たる映画のことをあんまり覚えていないです。
よほどのファンでなければドリームワークスの作品群は「ヒックとドラゴン」のほうが最近に感じるため忘れてしまっているファンも多いでしょう。
とりあえず、何にも知らなくても楽しめる映画であると断言できますです
むしろ、いい意味でのアクセスのしやすさや間口の広さという点では、アニメーションらしい素敵さに溢れている作品だと思います。
ちょうど同年にアカデミー賞の長編アニメにノミネートし、受賞を果たした「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」はどちらかといえばやや子どもにハードルのあるアートハウスよりな作品であったことを考えると、こちらは幼い子たちへの童話的位置づけの、気楽なアニメーションと言っていいかもしれません。
もちろん、今作で描かれることはドラマチックですし、要素にとっては結構歳のいった大人にこそ刺さるものなのですが。
新しいアニメーション体験
アニメーションとしての体験は格別なものになっていると思います。
初めて「トイ・ストーリー」を見たとき、そして「スパイダーマン:スパイダーバース」を見たときに近い、新しい映像を見ているという感動、驚きがありました。
今作はまるでセル画の頃のアニメーションのようにテイストを切り替えます。
高精度のCGアニメであるような、水や自然の木々、ライト、炎そしてネコの毛並みの表現は、素晴らしい出来栄えなのは間違いない。
一方で目の肥えた観客には普通の出来栄えとも取られるでしょう。
ただ今作が成し遂げているのは、3Dと2Dの中間というか、スパイダーバースが2D寄りの答えなら、今作は3D寄りの答えといった感じです。
カラートーンを大きく変える大胆さを持ち、3Dアニメの「リアルさ」をあえて無視していく。
さらにアクションシーンになるとコマ数を落としたような独特の動きを見せ、エフェクトがコミックのように変化し、エッジが聞いてテクスチャを絞ったようなアニメーションを見せます。
コンセプトアートが命を持って、その決まりきらない自由さを持ったまま目の前で躍動するような、感動の映像体験でした。
小ネタの数々
画面見てるだけでも楽しいですが、ネタが非常におおく、その点は映画好きだったりするとさらに楽しいかもしれません。
ジミー・スチュワートっぽい声としゃべりのクリケット、T2のパロディ、スカーフェイスやオズの魔法使いなどからの引用ありセリフ。
ラストスタンドのシーンがそのまま「続・夕陽のガンマン」のTrielloの完全オマージュだったところとか最高に好きです。
人生の岐路、「老い」そしてリスク
今作が長靴をはいたネコに挑戦させるのは、はっきり言って老いでありリスクを感じること、つまり大人になるということだと思いました。
ネコには9つの命がある・・・という言葉をそのまま設定に組み込むユーモアも好きなんですが、そこから人生に慎重になることとか、自分自身のプライムタイムの終わりへつなげる。
これは子どもよりも、いい歳になってきた大人にこそ刺さりますよ。
自分自身の現役時代の終わりとか、良くも悪くも人生においてチャレンジが怖くなってしまうこと。
気づけばみんなと同じく、ルーチンの生活に慣れていき、自分自身のアイデンティティを失いかける。
現代社会の我々じゃないですか。恐ろしい映画です。
付きまとう死と向き合い方
ネコに死を意識させたのは狼。このキャラが近年見てきた映画の中でも最高にクールな悪役でした。
誰しもの印象に残るでしょう。
彼の使う口笛の音色と合わせた専用のテーマ曲も素晴らしい出来栄えですが、アニメーションの動きに展開する色彩変化、声の担当をしたヴァグネル・モウラの演技。
どれをとっても素晴らしい造形。
西部劇(マカロニウエスタン)的な色合いが込められていることもあり、それこそ皆殺しのトランペットや、ハーモニカの音色といったサウンドとキャラクターの融合としてかなり強い印象です。
その他、アントニオ・バンデラスもいつものようにいい声で、オリヴィア・コールマンの母ぐまも素敵。
あと今作で初めて声優挑戦したフローレンス・ピューも、本当に何してもすごい俳優なんだなと思わされました。
彼女のキャラであるゴルディロックスは衣装でストーリーが展開されていたり(はじめは青が目立つドレスが徐々に茶色になっていき、熊たちのカラーとマッチします)、種を越えての家族の物語があったりと感動的です。
「ブラック・ウィドウ」のドレイコフ役であったレイ・ウィンストンが父ぐまを演じてるのも面白いですね。
目の前にある人生
ゴルディロックスは自分が今持っている家族を忘れ、人間の家族を求める。
ネコは自分自身が謳歌できる人生をもとめ、願い星を狙う。
ただいずれも今持っているものが見えていませんでした。
ワンコはその意味で、彼らに気づきを与えています。見方ひとつで、人生は豊かになる。
今の人生を大事にしない、意味を見出さないものは死が寄り添う。
ネコは最後に、輝かしいヒーローの人生ではなく、ワンコやキティと旅した子の人生を想い、そしてそのために戦う。
中年の危機みたいな話から、人生の謳歌と生の全肯定、そしておっさんの復活劇みたいな話になって感動しすぎてよく分からなくなりました。
自分が何者であるかというのを、名前という要素と絡め、ワンコにはその名前を見つけていくドラマを与え。率直に言って、まとまりが良いのに奥深く幅の広い脚本です。
死はいつか必ず訪れる。その観点は皆が持っていますが、しかしゆえに生を意識して生きていく。
実は大人な話を軽快でユーモアにあふれるトーンで語りきって見せる本当に驚くべきアニメーション。
ドリームワークスの力をまだまだ感じる、今後も期待していく意味でも嬉しい映画です。
字幕版での放映がかなり少ないようなのでその点が惜しいですが、とにかく映画館で観てほしい一作。お勧めです。
今回はやや長くなりましたが、感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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