「ローガン」(2017)
- 監督:ジェームズ・マンゴールド
- 脚本:マイケル・グリーン、スコット・フランク、ジェームズ・マンゴールド
- 原作:「オールドマン・ローガン」マーク・ミラー、スティーブ・マクニーブン
- 製作:ハッチ・パーカー、サイモン・キンバーグ、ローレン・シュラー・ドナー
- 音楽:マルコ・ベルトラミ
- 撮影:ジョン・マシソン
- 編集:マイケル・マカスカー、ダーク・ウェスターヴェルト
- 出演:ヒュー・ジャックマン、ダフネ・キーン、パトリック・スチュワート、ボイド・ホルブルック、スティーブン・マーチャント 他
2000年から始まった「X-men」シリーズ。多くの続編が公開される中で、人気の高いウルヴァリンはスピンオフシリーズが作られてきました。
その最新作かつ最終作、そして17年に渡る、ヒュー・ジャックマンのウルヴァリン最後の作品となるのが今作です。
前作「ウルヴァリン:SAMURAI」(2013)から引き続いて監督はジェームズ・マンゴールドが務めています。また、シリーズでプロフェッサーXを演じてきたパトリック・スチュワートも彼の最後のプロフェッサーとして出演。今作で重要な少女を、長編映画初出演のダフネ・キーンが演じています。
しつこいようですが、公開がやたらに遅れた今作。
日本以外では3月公開ですが、こちらは6月。海外ではソフト販売もされ、LAなどで白黒版の上映もあり・・・というか去年もFOXの「デッドプール」が2月公開なのに日本だけ6月公開になって散々待たされる羽目になっていてもうなんなんだ!
近未来。突然変異により生まれてきた、特殊な能力をもつミュータントたちが注目されたのも昔の話。いまや新しいミュータントは生まれず、ミュータントの数は減っていった。
アダマンチウムの爪をもち、驚異的な治癒能力を併せ持つウルヴァリンであったローガンも、年を取った。彼は仲間であり、加齢で弱ったプロフェッサーXを世話しながら暮らす。
そんな時、ある女性が少女の保護を頼み込んでくる。ローガンはもはや世界と関わることを嫌い断るのだった。
しかし、その女性が殺され、ローラという少女がローガンたちの隠れ家にやってきたことで、少女を追う組織との闘いに巻き込まれていく。
タイトルから今作が語るものが見て取れますが、こちらは世界設定から見ていくことにしましょう。
個人的に最も評価したいのは、デップーさんの成功によって踏み込んだR指定の表現でも、ローガン個人のドラマでもなくて、(いやそれらもすごく良いのですが)、今作が描き出す近未来の世界観でした。
明確な年数は分かりませんが、2050年くらい?な設定ですね。
もちろんフォーカスはローガンに向いているのですけども、随所に出てくる世界観が、ちょっと恐ろしくて。
アメリカ国内の状況はすごく激変しているとは思えないですが、しかし国境の先というものが重要な要素になり、それが自由を求めてアメリカから脱出する皮肉さをもっているのが面白いです。
まあ弱者を国境まで追い回す今回のヴィランの名前がドナルドというのも(笑)
ものすごい巨大なマシンがコーンフィールドを管理し、自動運転トラックが走り回る。何かしらの大企業、体制によって統制管理された近未来のアメリカ。
ミュータントがいなくなってとかではなくて、かなりディストピアに感じます。この映画の裏で動くことは恐ろしく、しかし何か今現在の本当に延長線上にあるように思えて怖かったです。
ここらへんはローガンがいうように、”現実”なのかと。
この作品はこの作品で世界を持っているのですが、その他のアメコミ作品がいかに歴史の事実や文化を登場させてもなしえていなかった、私たちの世界と同じ世界の共有、を巧く描いていると思うのです。
ヒーローの世界よりも、ある特殊な力を持った人間がいる世界を映しだす今作。
タイトル通り、ウルヴァリンではなくて、ローガンの物語となっています。彼は否応なく巻き込まれ、小さな家族のロードムービーにもなっていきますが、さらに引用されている西部劇にクライムものの要素も含まれていき、スーパーヒーロー映画としてはまた別種類のものが楽しめました。
R指定描写を貫いたことは、やはり「デッドプール」で証明したことと同じです。必要な描写はやるべき。
そのキャラと題材を考えるに、ウルヴァリンはどうしても人体欠損や激しい流血を覚悟するものです。なにせ治癒能力を見せるには、彼は傷付かなければなりませんし、また爪を出すだけで拳の皮膚が裂けるのですから。
一切逃げの無い描写は少しきついところもありました。別にクソどもの頭が飛ぼうが内臓が飛び散ろうがいいのですけども、やはりダフネ演じるローラが傷付くのは見ていてちょっとつらかったなぁ。銛を撃ち込まれて引きずられるところとか、子供がここまでされる映画ってあまりない。
それも超人的力と世界が真正面からぶつかった結果ですけどもね。
ローガンは治癒が遅くなり、爪もできらない。プロフェッサーはアルツハイマーに侵される。これらは実は人間として誰しもが直面するものです。老いていき、弱っていく。
一度爪を出せば、すさまじい暴力と血の吹き荒れる、バイオレンスの効果的な作品。
その暴力を終えるべく、最後の時間と力を使い走るローガンはそのまま「シェーン」(1953)ですね。途中の水道施設でのやりとりも、シェーンの農夫と牧場主のやりとりそのままですし。
一人の男としての人生は、彼を獣に変えようとした者たち、組織によって引き裂かれてしまいましたが、同じことをローラに起こさせないため、ただそれだけのためにローガンは再び爪を伸ばします。
正直感動せざるを得ないですよw
血だらけになりながらも少女のために戦うローガンという男。全て失いながらも、最後に与えようとするのですから。
そして私としては、ウルヴァリンというある種の伝説を背負ったこの男が、ようやくその重荷をおろし、ローガンとして少女からかけがえのないものを貰ったように思えます。
贖罪と同時に、これはローガンの癒しの物語であるとも思えました。
コミック、そしてアニメ、実写映画。X-menとウルヴァリンの活躍は語られるも、それはそれぞれのバージョンでしかないと、事実や現実とは違うものなのだと言われます。
そしてより悲惨な部分を露出したのが、マンゴールド監督の描くローガンの世界でした。
私には新しいヒーロー映画として素晴らしいとも思えると同時に、これが究極系と断定していないのも感心するところです。
このローガンのスタイルはそういうスタイルに作られた、言ってしまえば、これもひとつのバージョン。つまり、ローガンスタイルでアイアンマンやキャプテン・アメリカを描くこともできるのです。
ヒュー・ジャックマン、パトリック・スチュワート。素晴らしい引退になったと思います。
彼らの演じるウルヴァリンとプロフェッサーの時代は終わりましたが、同時に彼らは新しい時代を始めてくれたとも思います。この作品自体が、ものすごい転換期と言えるでしょう。
ちょっとばかし長くなりましたが、ヒュー・ジャックマン最後のウルヴァリン、是非劇場で観てほしいものです。それでは、また。
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