「aftersun/アフターサン」(2022)
作品概要
- 監督:シャーロット・ウェルズ
- 脚本:シャーロット・ウェルズ
- 製作:マーク・セリャク、エイミー・ジャクソン、バリー・ジェンキンス
- 音楽:オリバー・コーツ
- 撮影:グレゴリー・オーク
- 編集:ブレア・マックレンドン
- 出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール 他
短編作品を手掛け高い評価を得てきたスコットランド出身のシャーロット・ウェルズ監督による初の長編作品。
父との夏のバカンスを、20年経って当時の父と同じ年になった娘が振り返るドラマ映画です。
主演は「ロスト・ドーター」などのポール・メスカル、また今作のために800人を超えるオーディションから選ばれた新人フランキー・コリオの二人。
作品評かも高く、2022年のベストの中に選出されている批評家も多かった作品で、アカデミー賞ではポール・メスカルが主演男優賞にノミネート、またBAFTAでも4部門ノミネートを果たしています。
評判の良さは試写に言った方からも聞いていて、5月末の公開似て注目の作品でした。
ただ時間が合わずに週末は行けず、ファーストデイで鑑賞してきました。都内でファーストデイで、仕事終わりに良い時間ということで、ほとんど満席状態で鑑賞。
年齢層はある程度高めですが、若いカップルもいました。
~あらすじ~
ソフィはビデオテープを見返し、かつての父との想い出の映像を振り返る。
別居していた父とのトルコへのバカンス。
滞在するホテルの部屋でのやり取りや、ホテル内のプールで遊んだこと、ビリヤードやバイクのアーケードゲーム。
ちょっと背伸びした遊びや男の子との出会い。
ビデオに写っているソフィと父のやり取りと、その時の記憶をめぐるうちに、父と同じ年になったソフィには別のものが見えてきた。
悲しみを背負った父の姿。その時思っていたのとは違う誕生日の意味。
感想/レビュー
シャーロット・ウェルズという才能
シャーロット・ウェルズ。彼女の名前だけでもしっかりと憶えておきます。
これまで監督の作品を観たことがなかったのですが、間違いなく時代を築く監督だと感じました。
注目すべき人でありそして出会えてよかったと言えます。
この作品は上半期の中でも特別です。
映画というものであり、間違いなくそのメディアの特性を生かしているのに、映画だというくくりをこえて体験となっている。
類まれな作品であり傑作です。本当に見れて良かったです。
あらゆる感情が押し寄せ、抱えていく
まず観ているときと終わったときに、心がどうにかなってしまいました。
複雑な感情が全て一気に押し寄せて、それが渦巻き、心地よさも嬉しさも懐かしさも暖かさも感じます。
でも、同時にすっごく悲しくもなりましたし、この作品を観ている間中ずっと、底知れない不安に恐れを抱いてもいました。
ノスタルジックなドラマですが、決して、”愛する父との美しい想い出”をなぞる作品ではないと思います。
むしろ鬱的な悲哀と、ホラーとも言える恐怖を内包している作品だと思います。
そのあたりは作品の触れ込みやポスターなどではあまり組めなかったので、観ていて驚いた面でもありました。
中心にいるのは二人です。
ポール・メスカルと、全くの新人であるフランキー・コリオ。二人は撮影の前2週間を共に過ごして、親子を演じる上での繋がりを作ったと言います。
本当に実際にそこに親子がいて、もはや演技しているとは思えず記、録映像を信じ切ることができるような素晴らしい演技でした。
記録と記憶をめぐる
監督は映画を理解しつつも、ビデオテープを中心にし、メディアを浮き上がらせています。
ざらついたビデオカメラの録画映像は、それ自体のテイストがそこに移るものが本物の、実際の記録であるという印象を強めます。
だから、記録というのは歪みませんし消え去ることもない。
その記録を事実として見つつ、ビデオテープではないところに、つまりはスクリーンに映ってくる映画の映像は、ソフィが回想として見る記憶であろうかと。
父個人のパートは大人になったソフィの想像かもしれませんし、もしかすると父本人に与えられた心境の吐露なのかもしれません。
しかし、絶えずレイヴの映像の中で大人のソフィが遠く父を見つめるショットが織り込まれていることから、ソフィの想像なのかとも思います。
記憶は薄らぎ変わる
大人になって、父の気持ちの方に寄り添ったとき、ソフィはきっと「この時なぜ自分は笑っているのだろう」と感じるでしょう。
そして、父の態度の意味にも敏感になる。
OPでカメラを回された父が、「11歳のころ(つまり録画時のソフィと同い年)の将来の夢は?」と聞かれる。
答えのないままに真剣な顔になった父のショットで切れてしまいますが、同じシーンが今度はカメラの映像ではなくホテル内の映像(つまりソフィの回想)で繰り出されます。
そこで父からの哀しい答えを受けるとき、大人のソフィの気持ちを考えると複雑ですね。
記録はそのままにあるのに、自分の記憶は薄くなったり、印象が変わってしまう。
自分にとって背伸びした年上の少年少女との交流や、彼らの男女の付き合いを見たときの感情。
はやく大人になりたかったソフィ。
この辺の気持ちに関しては生々しいくらいに、そして微笑ましく覚えている。
大人になってから父の現実が見える
でも父のことは。
父から感じられる精神的な不安定さは、ビデオにはなくそれ以外の映像にある。
全編に感じる底知れない怖さは、”父がどこかへ行ってしまう(死んでしまう)”ものに対してでしょうか。
自己防衛を真剣に教える様は、自分がもうそばにいて守ってあげられないから。
「30歳になるなんて思わなかった。40歳にはなりたくない。」
ソフィが記憶する映像の中で父が語ることから、きっと父はその後亡くなってしまったのでしょう。
「心のカメラに残すから」「太陽を見ると、離れてても同じ太陽を見て一緒だと思える」
このあたりのセリフの重さ・・・
誕生日を祝うこと
ソフィと父のケンカ。夜のある種の自由。
その後父の誕生日ということで、ソフィは周りの人に声をかけてフラッシュモブ的に祝う。
でもその際の父の表情は暗い。
当時はきっと善意で、”大人になりたかった”自分のこともあって祝ったでしょう。
でも父が生き続けたくないことを感じ取ってみると、誕生日を祝うことははすごく残酷に見えます。
生きていくと圧がある
合間に挟まるのは大人のソフィが見る父のダンス。
そして父との想い出の最後にも、ダンスがあります。
ここで流れている音楽が、クイーンとデヴィッド・ボウイによる「Under Pressure」なんですが、歌詞としてはとてもじゃないけど楽しくない・・・
ープレッシャーに押しつぶされて。希望を持とうとしつつも、愛には自分が救えない。これが最後のダンスなんだ。ー
ラストカットの、ビデオからソフィ、そしてさらには見送りをした後の父がドアの向こうへ・・・の一連の流れ。
この時点まででも苦しかったけど、ここでトドメ。無理。
監督の実際の父とのバカンスを少し参考にしているとのことですが、これはひと夏の想いで映画というか、むしろ鬱と悲哀と人生の重さに関しての記憶の旅ですよ。
なんといっていいか分からないですが、いっぱいいっぱいになってしまうので、精神的にも肉体的にも余裕があるときに観た方が良いです。
凄まじい作品で、今年のベストに入ることは間違いないです。
おすすめなのでぜひ。
今回の感想はここまでです。
ではまた。
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