「トーテム」(2023)
作品概要
- 監督:リラ・アヴィレス
- 出演:ナイーマ・センティーエス、モントセラート・マラニョン、マリソル・ゲイス
感想/レビュー
がんを患ってしまった父の誕生日に、そのパーティのために家族と友人たちが集まる。
その準備から当日のパーティまでを、主に娘の目を通しながら映し出していく。
撮影されているカメラのアスペクト比はほとんど正方形で、狭いというよりは親密さを感じさせる作りになっています。
ドキュメンタリーかホームビデオのような手触りで、色彩が暖色に包まれていることから暖かさも感じられます。
この作品は監督が自身の娘に向けて作ったものだそうです。若くして母になったらしいのですが、仕事やらであまり時間が作れなかったとか。
娘の記憶になるような作品として作ったからこそ、個人的にも見えるほどのつくりなのでしょうか。
メキシコの一家を描く作品ではありますが、それぞれの人物たちの実在感があります。
丁寧にそれぞれの立場が描かれていて、誰しもの気持ちが理解できます。
おじいちゃんの眼差しの、みんなと違う部分。彼だけは我が子を失う覚悟を迫られている。
お母さんも自らを忙殺しながら、祝う方向に気持ちを向けられない。
監督は半分は役者を使いながら、素人も半分キャスティングしているそうで、そのバランスが仰々しさを抑えながらドラマチックにしてくれているとか。
映画の中にはそうした人物たちのほかに、動物がたくさん出てきます。
ペットのネコのほかにも、おじいさんのすぐそばを飛んで行った鳥など。そして父はアーティストですが、壁に娘のために残した画には動物がたくさん描かれていました。
死を終着点としたようなこのストーリーにおいて、アニミズムのように周囲全てに魂が宿るような理念を掲げることで、その終着点は消えていく。
直線ではなく、円環であり螺旋として登っていく。
この作品はその意味では終わりを描いてはいないのかもしれません。むしろ新しい始まりなのかも。夜明けのサソリが転生を示し、明るい日差しが優しい。
本国メキシコまた世界各国で映画賞を獲得しており、日本での配給もすでに決定して来年2024年に公開予定だということで、一般公開された際にはぜひ鑑賞ください。
今回の感想は以上です。
ではまた。
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