「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(2015)
- 監督:ギャビン・フッド
- 脚本:ガイ・ヒバート
- 製作:ジェド・ドハーティ、コリン・ファース、デビッド・ランカスター
- 製作総指揮:ザビエル・マーチャンド、ベネディクト・カーバー
- 音楽:ポール・ヘプカー、マーク・キリアン
- 撮影:ハリス・ザンバーラウコス
- 編集:ミーガン・ギル
- プロダクションデザイン:ジョニー・ブリード
- 衣装:ルイ・フィリップ
- 出演:ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、アラン・リックマン、バーカッド・アブディ 他
「エンダーのゲーム」(2013)や「ウルヴァリン:X-men ZERO」(2009)のギャビン・フッド監督による戦争映画です。
主演にはヘレン・ミレン、そして今は亡きアラン・リックマンが出演しています。声の出演をしている映画がありますが、彼自身が出ている作品としては遺作になりますね。
今や各国で最重要課題であるテロ対策。その様式の変化と人間の機能を描き出す作品です。
ケニアにおけるテロ対策を任されたキャサリン大佐。
彼女の任務は、イギリス出身の白人女性とその夫、そしてアメリカ国籍の男性を逮捕すること。彼らはケニアのテロ組織の重要人物リストに載る標的である。
だが、追跡任務の際に事態は急変する。
今まさに彼らが自爆ジャケットで武装し、テロ行為の準備をし始めたのだ。空爆作戦に切り替え、詳細な作戦の思案に入るキャサリン。
彼女を含め、多くの政府関係者や専門家、軍部の人間を通してこの難題に取り組んでいく。
アラン・リックマン。惜しい人を亡くしましたね。
ここでの彼はヘレン・ミレンの上司に当たりますが、この作品、彼をはじめ多くの人物に人間らしい側面が与えられています。彼の場合は最初に孫にプレゼントを買うのですが、間違って買っちゃうんですね。
この”間違える”っていうのは何とも人間らしく、また今作においては非常に厳しい人間の限界を示唆しているんです。
その他の人物にも、事実湾曲的な解釈や罪悪感、恐怖に優しさなど、人であるが故のもろさや弱さが示されていきます。それがとても大事なものになっていると感じましたね。
さて、映画の作りもスリルがあります。リアルタイム進行です。
上映時間1時間40分程とコンパクトですが、初めに事態が急変してから、どういった判断を下していくのかまで現実時間と同じく流れていきますね。
なのでそのシーン、会話、連絡の間にもテロの準備が整っていく焦りを登場人物たちと一緒に感じていくことになります。ある意味で体感型映画なんですね。
そんなハラハラする中で、常に心にあるのはこの作戦の恐ろしさ。
上のような無人機でミサイル攻撃をするのが空爆作戦なんですが、この映画人と人の直接的関わりがあまりにないのです。
現地にいるバーガット・アブディ演じる捜査官はそこの人と交流がありますが、キャサリン大佐はじめ多くの人間は、電話で交信していくだけです。
それが世界中の人間が参加し、意思決定していく。規模の大きさもさることながら、人が触れずに人を殺せる今の世界がはっきりと浮き彫りになりますね。
小型ドローンは驚くほどに小さく、顔認証技術は「それでわかっちゃうの?」ってくらい高性能。演算や標的補足もすさまじい精度です。
すげえなぁ・・・と驚きつつも戦慄してしまう。ここまで簡単に入り込んでくる殺戮の手。
戦争は今や人の手によるものではないのですね。完全なシステム化、機械化がここにあります。
そんな高度な殺しの技術を駆使し、人物たちは倫理的な難題に直面していきます。
80人のおそらく出るであろう犠牲者か、それを救うための確実な1人の犠牲者か。
絶対的な正しさなんてないこの世界において、それでもなんとか正しくあろうとする人物たちの葛藤が素晴らしい。
この映画で描いているのは、単にテロ組織がどうとか政府がどうとかってだけではなく、もっと根源的な人間賛歌にも見えました。
というのも、触れることさえ、イスから立つことさえしないで、現在は人を探し出し追いかけ殺すことができるんです。
そのシステムや技術は確かに人間が作り出したもので、自動化もできます。そうした方がおそらく効率的に正しく速い行動ができるでしょう。
しかし、それでもまだ私たちはレバーを握っている。
それを止めてはいけないのだと思います。
そのレバーを握れば、答えのない問いに挑戦し続けることは続き、失敗もするでしょう。ただ人の手を離してしまえば、もっと冷徹で倫理も心も失った殺戮が世界を覆うんです。
どの人物も苦しい決断をし、エゴも出しました。それでもやはり人の命がかかる場に、人の心がある方が絶対に良いと、強く感じる映画でした。
現在だからこその作品でもあるんで早めの公開を望みたいですね。是非劇場で観てほしいです。
そんな感じで感想はおしまいです。それでは!
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