「パターソン」(2016)

  • 監督:ジム・ジャームッシュ
  • 脚本:ジム・ジャームッシュ
  • 製作:ジョシュア・アストラカン、カーター・ローガン
  • 製作総指揮:ダニエル・バウアー、ロナルド・ボズマン、ジャン・ラバディ、オリヴァー・シモン
  • 音楽:Squrl
  • 撮影:フレデリック・エルムズ
  • 編集:アルフォンソ・ゴンサルヴェス
  • 出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、マーヴィン、バリー・シャバカ・ヘンリー、ジャクソン・ハーパー・エヴェレット、チャステン・ハーモン 他

ジム・ジャームッシュ監督の最新作です。映画祭で上映されたときから、かなりの高評価を受けていて、公開を待ち望んでいた作品。

といっても、実は私はジム・ジャームッシュ監督の作品を今まで観たことがなく、今作が初めてという事になりました。

主演には「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(2015)「沈黙 -サイレンス-」(2016)ですっかり有名なアダム・ドライバー。彼の妻役には、「ワールド・オブ・ライズ」や「彼女が消えた浜辺」のゴルシフテ・ファラハニが出演。この奥さんがマジで美人さんです。

公開日に観に行ったのですが、満席。前日にチケットを買っておいて良かった・・・

で、入場特典にパターソンが劇中でも使っているようなペンを貰いました。ほんのりユーモアに笑い声も聞こえつつ、なんだかゆったりとした映画体験でした。

ニュージャージー州のパターソン。そこに街と同じ名前を持つバスドライバーがいた。

パターソンは愛する妻と愛犬マーヴィンと共に静かに暮らしている。

朝起き、朝食をとり、仕事へ行ってバスを運転し街を回る。お昼に妻の作ったお弁当を食べ、仕事から帰るとその妻と夕食をとる。

そして夜にマーヴィンの散歩がてら、行きつけのバーに行って、ゆっくりとビールを楽しむ。

その中でパターソンは、趣味の詩を作り、ひっそりとノートに書き連ねていく。

そうして毎日が過ぎていくのだ。

あらすじ以上になにもない映画です。

パターソンという男が送る日常を、月曜日から始まって淡々と映し出す作品。だがそれが素晴らしい。

何もない日常を切り取る、その方法の見事さももちろんありますが、何もないのにすごく心地いいのです。そして、何もないように思えて実はたくさんの事が起きていると、些細なことに気づかせてくれる作品でもありました。

まずもってその作りのおもしろさがありますが、今作は映画それ自体が詩の作りと同じような仕組みになっているのですね。月曜日と言って始まる夫婦のベッドの俯瞰ショット。そして時計を観て朝ごはんを食べて・・・パターソンの一日が繰り返されていきます。次は火曜日。またベッドを俯瞰で撮って。

しかし、同じような日々でも、同じではない。毎朝目覚ましもなしに起きるパターソンがふと見る時計の針は少し違う。ちょっと寝坊する日だってあります。

通勤の道も撮り方を変え、お弁当も変わり、かわす話も違う。

この作品は曜日という切り替えによって、韻を踏むように同じもの、ショットをみせつつも、やはり韻を踏んでいる言葉のように、そのもの自体は変化しています。繰り返されていながら、同時に繰り返していない。

つらつらと思いついていく詩を言葉にするときは、すこし考えたりして詰まり気味。でも続きを考えるときは、出来上がっている部分を詩はすらすら読んでいる。

決して毎回初めからでもないし、出来上がったものをただなぞるわけでもない。

この作りが非常に心地よく、自分の心の中に流れ込んでくるような感覚でした。派手なことはなく、ホントに日常なのに、作り方見せ方でここまでおもしろくできるなんて。

個人的には映画の持っているカラーもおもしろく感じました。

ショットにはほぼすべてにおいてブルーが入っていますね。服や壁紙、看板など至るところに、様々な色合いながら青が配置されていて、何か世界との融合や統一が感じられました。

青の使い方が印象的というと、年末辺りの「幸せなひとりぼっち」を思い出します。

リードのアダム・ドライバーの素晴らしさは驚異的です。

語りの少ない人物ながら、彼の運転するときの表情一つとってもすごく繊細な変化を見せています。乗客の話に耳を傾けながら、ほんの少し笑みを浮かべたり。彼女の斬新なパイを「おいしい」と食べながら、一口食べる度にやたらに水を飲んだり。

変わらないように思える日々に、その変化だけしっかりリアクションしているんです。

彼のアクションは詩を書くことですが、もとになるのは周囲の出来事になっています。

繰り返す日常なので出てくる人物は同じですが、だからこそ関係変化やそれぞれの気持ちもかえってはっきりする気がしますね。

バーの主人のチェス大会、元カップルのイザコザ、そして美人な奥さんのカップケーキや創造力の爆発。

未練タラタラな男を演じるウィリアム・ジャクソン・ハーパーはある意味顔芸ですw

どこかユーモアがあってコミカルな人物たちには笑いますね。愛犬マーヴィンがここぞと唸るのも良いアクセントになっています。

今回は特に奥さんが一番変化をもたらす存在に見えます。彼女は若干行き過ぎた、妄想的な面すら垣間見えるのですが、家の内装は今作で一番の変化ではないでしょうか。

とにかく人物たちはのんびりしていながらも、世話しなく変化を続けています。ふと自分の周りを考えても、変わらない(そう見えても)人はいないのでしょうね。

最後に出てくる永瀬さんも面白い人でした。いちいちExcuse meとかMay I ask youと繰り返しますし、Ahanはもう持ちネタのようですw

実際彼はボキャブラリーこそ少なくも、その同じ言葉は全く同じではないのです。

出会う人に、詩人か?と聞かれるパターソンですが、謙虚にも好きなだけと答えます。

私は詩には疎いので、作中何度も名前の出てくるウィリアム・カーロス・ウィリアムズのことは全く知りませんでした。別に知識がいる作品ではないですね。

しかしパターソンを通して、日常、ひいては人生というものが心地よいリズムを持ちながら絶えず変化していくのを感じ取れます。

パターソンを通して世界を観て、感じて。その世界を見る目は上映が終わっても残りつつけ、そのあとは自分自身の詩を書き連ねていく。

また始まる日々。仕事に行く月曜日も、また同じくやってきた週末も。先週もあったしその前もあった日曜日も。しかし全て繰り返していて、韻を踏んでいる私の人生も、変化に富んでいました。

そう気づかせてくれただけでもすごく暖かで優しい作品です。

「パターソン」はパターソンでパターソンと言うドライバーをアダム・ドライバーが演じる作品。このまとめだけでおもしろい。リズム感と繰り返し、しかし同じものではない。今作そのもの。非常に静かながら奥深くそれでいて何でもない、自分の中に流れる作品でした。

かなりオススメなので是非。今回はこんなところで。それでは、また。

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