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「あるアスリートの告発」”Athlete A”(2020)

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「あるアスリートの告発」(2020)

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作品概要

  • 監督:ボニー・コーエン、ジョン・シェンク
  • 製作:セリン・マーシャル、ジュリー・パーカー・ベネロ、ジェニファー・シェイ
  • 製作総指揮:リチャード・バージ、レジーナ・K・スカリー
  • 音楽:ジェフ・ビール
  • 撮影:ジョン・シャンク
  • 編集:ドン・バーニエ

Netflixで配信されたドキュメンタリー映画。

元米国体操連盟のチームドクターであるラリー・ナサールによる女子選手への性的暴行事件(アメリカ体操連盟性的虐待事件)を取り上げており、事件を報じた地方新聞の記者たちと勇気をもって声を上げた女子選手たちの物語を描きだします。

当事者である選手たちの証言やインタビューを交えて、事件のみではなくアメリカスポーツ界が抱える問題にまで深く切り込んでいく作品。

配信のドキュメンタリーカテゴリの中で見つけたので鑑賞して観ました。

~あらすじ~

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素晴らしい技と演技で、アメリカ国内を沸かせる体操の世界。

オリンピックの出場やメダリストを多く生み出していたアメリカ体操連盟だったが、2016年10月にある訴えが起こされた。

それは連盟所属のスポーツチームドクターが、数多の女性アスリートたちに治療を隠れ蓑に性的虐待を行っているというもの。

訴えを起こされた医師ラリー・ナサールは、五輪代表チームとミシガン州立大学のスポーツ医師として働いていた1998年~2015年の間に、未成年の体操選手を含む女性7人にわいせつ行為を働いたと認めた。

彼を糾弾するだけでなく、実名公開までをもして名乗りを上げ声を上げた女性アスリートたちは、連盟の体制にも問題があると指摘する。

これは地元の記者たちが様々な取材を通し、体操の世界の過去からゆがんだ権力構造を追っていくドキュメンタリー。

感想/レビュー

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おそらく何となくでも、このアメリカ体操連盟における大スキャンダルを覚えている方はいらっしゃるかと思います。

いやむしろ、スポーツ界におけるこのセクハラやパワハラに関してはニュースが多すぎて交ざってしまっているかもしれません。

今作は特定の個人とその被害者たちを取り上げてはいるものの、目指す議論は大きく広く、そしてシステム全体の歴史から、スポーツにおける魂とは何であるべきかにも触れていきます。

取り上げているのは、チームドクターとしての帯同も多かったラリー・ナサールの非道な行為。

告発を受け調査され、最終的に有罪判決を受けたこの医師の、その性的虐待を当事者たちが名前を公開しながら語っていきます。

彼女たちにはすべてをなげうってでも変えたい世界がある。

自分たちが純粋に体操を楽しみ、好きで好きで仕方がなかったものを、また楽しめるような、そして傷つく子どもたちのいないスポーツを作り上げる覚悟を持っているのです。

尊厳を取り戻すための旅

映画の初めに、体操を楽しみ練習し、子どもの頃から夢中であったとマギー・ニコルズが語る。

この根底の出だしはすごく重要で、帰結にも結び付いている巧い構成でした。

失った尊厳を取り戻す険しい旅。個別の事象から見えるのは巨大な組織と因習。

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歴史にしみついた少女たちの搾取

ラリー・ナサールへの告発がなされたのは3人のアスリート、元アスリートから。

そして新聞報道当局が調べると、57名の被害届が出されていながら、協会はその書類を放置し続けたことが分かる。

なぜ放置するのか、その体質にさらに潜り込ませてくれると、そこにはスポーツがビジネスになる際の構造が見えてきました。

私自身なんとなく聞いたことがあるような、ないような、”ナディア・コマネチ”の名前。

彼女はたった14歳にして1976年に行われたモントリオール・オリンピックで個人金メダルを獲得した選手です。

彼女の成功は大反響を呼びましたが、ここで競技の若年層化と付随して若さや幼さに美しさ、価値を見出す傾向が生まれてしまいました。

世界中の女の子があこがれる。

でも問題なのは彼女たちにはまだ十分な判断能力がないことと、大人側からすればコントロールしやすいことです。

この危険な構造が出来上がったのに、組織体制は少女たちを守ることをしませんでした。

そこにはビジネス的な面があります。コントロールしやすい少女たち、さらにそれを売り出せば世界が熱狂し注目され興行が盛り上がる。

汚点が出ても見逃すわけです。

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虐待を正当化する指導システム

そしてルーマニアでの共産主義的な体質の中で生まれコマネチの指導体制が、アメリカでも模倣される。

共産圏、子どもを国家のための道具にするシステムをそのまま真似するとはなんと間抜けなんでしょう。

しかしそこでの精神的な虐待、身体的な虐待をそのまま持ち込み、それが幼い少女たちには当たり前だと思わせた。

過酷な状況の中で、ラリーという怪物を唯一優しいと思わせ少女たちに性的虐待を受け入れさせた。

見事な洗脳であり最悪の循環です。

広報担当のスティーブ・ペニーはこの循環を観ながら、成功と勝利こそが金儲けのシステムであるから何もしない。

スポーツの裏側なんてものでは終わらない

ここまで見てきて、スポーツに関して私が感じた違和感をここまで言語化、視覚化していることが素晴らしいと思いました。

勝利のための努力が、いつしか虐待の正当化になっている現状。

スポーツマンシップなどと崇高なスローガンの裏で、実際には癒着と利権がはびこりただの金儲けシステムになっている。

日本でも同じような性加害はどの業界でも見えます。

幼い未成年をアイドルとして祭り上げ、業界内でもファンの前でも加虐が発生するシステムを作りながら保護をしない。儲かるから。

東京オリンピックの開催は完全にただ儲けたいだけであり、贈収賄はびこる醜態でした。

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システムの腐敗に対して擁護的な世間も観ていて辛いですね。SNS含めてセカンドレイプが垂れ流されている。

所属する組織も、世間もさらなる虐待を加える中で、味方になったのは地元新聞社。

「スポットライト 世紀のスクープ」など、こうした小さな報道機関が根強く真実を求めて調査し、闇に光を照らしてくれるのは素晴らしいことです。

尊厳を取り戻してく女性たちの姿は、それこそが美しい。

幼少期の傷は大人になっても認知をゆがませてしまうほど、一生続く残酷なものです。

傷ついても頑張って勝とうとする姿は、本当に美しいのか。

スポーツにおける楽しさをいつしか忘れ、辛いことをすることに謎の美徳を見出す風習に疑問を投げかけましょう。

そして選手たちを保護するためにも外からの監視は必須です。専門機関でも良いですし、やはり親族がみることができる環境も必要。

その先にこそやっと、本当にスポーツの感動があると思います。

ハードな内容ではありますが、観て知っておくべき価値あるドキュメンタリーでした。

今回の感想はここまでです。

ではまた。

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