「SISU/不死身の男」(2023)
作品概要
- 監督:ヤルマリ・ヘランダー
- 脚本:ヤルマリ・ヘランダー
- 製作:ペトリ・ヨキランタ
- 撮影:チェル・ラゲルルース
- プロダクション・デザイナー:オッツォ・リンナラークソ
- 衣装デザイナー:アンナ・ビルプネン
- 編集:ユホ・ヴィロライネン
- サウンドデザイン:パヌ・リーコネン
- 出演:ヨルマ・トンミラ、アクセル・ヘニー、ジャック・ドゥーラン、ミモサ・ヴィッラモ 他
第55回シッチェス・カタロニア国際映画祭のファンタスティック・コンペティション部門で4つの賞を獲得したバイオレンスアクション映画。
物語は第2次世界大戦末期のフィンランドで展開し、老兵がたった一本のツルハシでナチス軍に立ち向かう姿を描いています。監督はヤルマリ・ヘランダー。
タイトルの”SISU”は、フィンランドの古くから伝わる言葉で、翻訳が難しいものとされています。
おおよその意味としては、驚異的な意志力と、どんな困難にも屈しない強い心を指しているらしいです。
海外評だったか、それとも日本国内の試写だったかは定かではないのですが、フィンランドから狂った痛快作が来ると評判を聞き、結構楽しみにしていた作品です。
東京国際映画祭とかぶって公開されていたので見逃すかと思いつつ、映画祭の間時間で無事観てくることができました。
ちょうどTOHO会員のサービス機関というのもあってかすごく混んでいました。
~あらすじ~
1944年、第二次世界大戦末期。フィンランドはソ連に侵攻され、ナチス・ドイツによって国土が焼き尽くされた。
老兵アアタミ・コルピは、愛犬ウッコと共に掘り当てた金塊を運んでいる途中、ナチスの戦車隊を率いるブルーノ・ヘルドルフ中尉と遭遇し、金塊と命が狙われることとなる。
アアタミはたった一本のツルハシと「折れない心SISU」だけを手に、戦い生き抜く決意を持っていた。
かつてソビエトとの冬戦争で家族を殺された彼は、一人で300人以上の敵を倒した伝説的な兵士として知られている。
たった一人の軍隊であるアアタミは、金塊を守り抜くことができるのか・・・
感想/レビュー
ヤルマリ・ヘランダー監督のこの作品が、大手シネコンでかかっていることが結構な快挙なのかもと思います。
フィンランド映画はそこまで大きな扱いは受けないでしょうし、決してすごく日本で有名な俳優が出ているわけでもない。
B級枠の映画ですし、単館上映でもなっとくな小粒ではあるのです。
しかしこの作品はピュアなエンタメです。売り文句でも哲学は語られず、血のたぎる魂のアクション映画とされていますが、まさにそれです。
その売り文句をそのままに受け止めていくならば、絶対に楽しめる作品であると思います。
この作品はいたって簡単に説明できます。
一人の強靭な男が、傷つき血を流しながらもその折れぬ精神でただ敵をなぎ倒していく。カタルシス。それに魂を込めています。
敵はある意味で何をしてもいい最高に都合の良い悪、ナチス。
もともとぶっ殺しても批判の上がらない属性を持ち、そして映画の中で徹頭徹尾クズ。
だからこそまるで「ジョン・ウィック」シリーズの敵がそうであるように、殺されようが気に留める意味もない。
なんともまっすぐに楽しみやすい。
ストーリーも往復も前後もなく、分岐すらしない。
タランティーノ映画のような、マカロニウエスタンのようなスタイルで、セリフもかなり少なめ。
ジャンル映画の真髄みたいな作品ですね。
さて、ジョン・マクレーン以上にしぶといこのアアタミですが、ギリギリのバランスだったと個人的には思います。
決してファンタジックな存在ではないわけですし、血を流してダメージも追う。なので危ないと思うような瞬間もありますが、決して死にはしない。
本来ならばそのようなキャラクターは寄り添いづらく、どうせ死なないのであれば興味を失うものです。
ただ今作は冒頭にすべて失った者だけが発揮するフィンランドの魂SISUの説明があることなど、いい塩梅にこのアアタミを戦神のように感じさせる要素があります。
この点もジョン・ウィックのようなリアルさとファンタジーさの融合になっていてバランス感覚は鋭いと感じます。
そしていい感じに女性たちが光る。
逆襲としてナチス兵たちをハチの巣にしていくのは、アアタミの闘いとは異なる爽快さがありました。
絶対な純粋悪、普通の人間といいながら弾が当たらず不死身。そこにクリエイティブな殺しとゴア表現。
これって80年代ハリウッド映画がすごく得意だった分野だと思います。
ヤルマリ・ヘランダー監督はあの頃の過剰さやいい意味でバカらしい楽しさをこの時代に見事に再現してみせたのだと思います。
フィンランドの美しい情景に血だまりを作りながら描かれる無骨なアクションで、中身がないなんて声も聞こえそうですが、エンタメとして映画館でサクッと楽しむにはすごくいい作品でした。
今回の感想はここまで。
ではまた。
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