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「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」”Hillbilly Elegy”(2020)

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映画レビュー
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「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」(2020)

  • 監督:ロン・ハワード
  • 脚本:ヴァネッサ・テイラー
  • 原作:J・D・ヴァンス「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」
  • 製作:ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード、カレン・ルーダー
  • 音楽:デヴィッド・フレミング、ハンス・ジマー
  • 撮影:マリス・アルベルチ
  • 編集:ジェームズ・ウィルコックス
  • 出演:エイミー・アダムス、グレン・クローズ、オーウェン・アスタロス、ガブリエル・バッソ、ヘイリー・ベネット、フリーダ・ピントー 他

作品概要

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J・D・ヴァンスが回顧録として出したベストセラー「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」。

それを原作に「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」などのロン・ハワードが映画化し、NETFLIX配給にて配信公開された作品。

J・D・ヴァンス本人の幼少期をオーウェン・アスタロス、青年期をガブリエル・バッソが演じ、母親役は「バイス」などのエイミー・アダムス、祖母の役を「天才作家の妻 40年目の真実」のグレン・クローズが演じています。

また主人公の姉役には「Swallow/スワロウ」のヘイリー・ベネット、そして青年期になった主人公の恋人として「猿の惑星:創世記」のフリーダ・ピントーが出演しています。

基本的には配信公開でしたが、日本では一時期だけ渋谷で見れた気がします。行かなかったのですけれど。

監督や役者人の豪華さに対して非常に評価の悪いことが聞こえてきていた作品であり、特に批評家ウケは悪かった作品のようです。ラズベリー賞で最低監督、最低助演女優、最低脚本をとってしまっています。

まあラズベリー賞には愛情があるので別に悪くはないかもしれませんが。

それとは逆にアカデミー賞ではメイクアップヘアスタイル、そしてグレン・クローズの助演女優ノミネートもあるなど、レベルの高さも担保されるおかしな作品。

今回はNETFLIXにて鑑賞。

~あらすじ~

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J・D・ヴァンスはイェール大学ロースクールを出て、これから法律のキャリアを歩もうとしていた。業界の有力者の集まるパーティに挑むのだが、彼に一本の電話が入る。

それは彼の母の入院。もちろん母の身を案じるのだが、彼の心配はそれだけではなかった。母は薬物中毒の過去があり、今回はヘロインの過剰摂取だということだ。

パーティで彼の頭の中を過去の想い出が錯綜する。

貧しく学のない家庭で育ち、母の度重なる問題におびえや怒りを抱えていたこと。そして常にJ・Dの味方で、時に厳しくそして優しく今の自分を作り上げてくれた祖母のことを。

何かの度に躓いた子どものころを思い出しつつも、やはり彼は母を見捨てられず、地元に戻るしかなかった。

そこでついに自分と母の将来について決着をつけなければならないのだった。

感想/レビュー

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いろいろと面倒な問題を抱えた作品

そもそものところから話しますが、別にこの作品がすごく退屈だとか、目も当てられないとかは思いません。

ある程度の水準で楽しんで観ることのできる、家族のメロドラマにはなっていますし、回顧録としての体裁も保っています。

監督がロン・ハワードですし、なんといっても俳優陣だってそろっていますからね。エイミー・アダムスにグレン・クローズ。

各所で言われてしまっていますが、まあ確かにちょっと強すぎてうっとうしい感じこそあれド、やはり素晴らしい演技をしているということには間違いはないです。

エイミー・アダムスは賞狙いすぎ感が私には強かったですが、グレン・クローズはその表情だけでおいしいものです。ここは堪能しました。

ただ、演技という点では根本的にちょっと気になることがあるのが正直なところです。

さて、作品自体が受けている大きな批判について考えてみると、原作となる回顧録を映画にするという点で失敗したから批判されているのでしょう。

もともとのJ・D・ヴァンスの回顧録は、作中でも侮蔑的な意味を込めて使われる”レッドネック”と呼ばれる人々だったり、”ホワイトトラッシュ”またはタイトルにある”ヒルビリー”の、ある種の怒りを抱えています。

これらの言葉は田舎の貧しい、学のない白人層を指して使われています。

そして彼らからすれば、自分たちを取り残して国際的な人材の吸収をもって繁栄するアメリカ社会に対しての憤りや羨望、寂しさが感じ取れるはずです。

ただそこが圧倒的に足りない。根底にある無念さがかけてしまうと何が起きるかというと、単純に今作で描かれている母をはじめとした人物が、バカで怠け者で心底愚かに見えてしまうのです。

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不自然で不健全な回避

こうした要素が回顧録に比べて抜けているのは、政治的ともいわれます。

実は2016年大統領選にてドナルド・トランプ大統領が勝利した要因の一つとして、このヒルビリーと呼ばれる層の票を取ったことが挙げられます。

ラストベルト(さび付いた地帯)とされる脱工業化が進んでいる小さな町や都市からの票が多く獲得され、このアメリカ国内の格差が浮き彫りにされたわけでした。

参考:Josh Pacewicz, Here’s the real reason Rust Belt cities and towns voted for Trump, Washington Post, December 20, 2016

なんというか、このあたりをほじくり返したくなかったのか、実際に映画の時期的には2020年の選挙戦があったこともありますし、避けたかったのでしょうかね。

でも、まるでセンシティブだからと言って、キング牧師についての伝記をやりながらレイシズムを出さないくらい不自然で不健全に思えますよ。

もっとJ・Dの苦悩とかを彫り込めたでしょうに。せっかくコミュニティにおける全員が家族というような結束の強さとか、お葬式において町全体で悼みを表現する文化とか、彼の故郷を一つの集合体として描いているのですから。

そこと比べるようにもっと外側の世界の文化とか格差とかを入れ込むだけでもいいと思います。

もちろんパーティでJ・Dの母や祖母、故郷の人々を”バカ”とひとくくりに笑う男には頭に来ますけれども。

原作はある種の告発をはらんだものだというのであれば、その言葉と発信を奪ってしまうのは非常に残念です。

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現実味のはく奪

ただそれらの裏話を知らなければ、そこそこの家族ドラマとしての感情移入はできますし楽しんで観ていくこと自体はできると思っています。

それでも、一つの点でどうしても気になってしまったのでそれを最後に。

素晴らしい演技というものが、素晴らしい演技と認識できてしまう点です。

演じるということも根本の部分になりますけれども、演じているんだということを感じさせないことが大切。

下手というわけでは決してないんですが、どうにもそれぞれの役者が素晴らしい演技をしているという認識がぬぐえず、登場人物その人という見方ができませんでした。

グレン・クローズ演じるおばあちゃんとか、オーバーサイズなTシャツにダボダボパンツとか、典型的造形だと思ったわけです。でもEDで実際のルックと相当似て再現されていることが分かります。

なのでかなりなりきっているはずで、もちろん彼女の圧倒的なパフォーマンスには驚かされるんですけれど、やはりグレン・クローズなんですよね。

こういう点もやはり迫真の演技を見てほしい役者の存在をぬぐい切れない感じの原因かなと思います。

いろいろな要素が邪魔してしまった作品といった印象でした。やはりグレン・クローズは素晴らしいので見てみるのはいいかも。

感想は短いですがこのくらいになります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

それではまた。

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