「ノット・オーケー!」(2022)
作品概要
- 監督:クイン・シェパード
- 製作:ブラッド・ウェストン、キャロライン・ヤーツコー
- 製作総指揮:ゾーイ・ドゥイッチ
- 脚本:クイン・シェパード
- 撮影:ロビー・バウムガルトナー
- 美術:ジェイソン・シングルトン
- 衣装:サラ・ラークス
- 編集:モリー・ゴールドスタイン
- 音楽:ピエール=フィリッペ・コーテ
- 出演:ゾーイ・ドゥイッチ、ミア・アイザック、ナディア・アレクサンダー、エンベス・デイビッツ、カラン・ソーニ、ディラン・オブライエン 他
SNSを中心に展開する現代社会に対して、ブラックジョークを効かせた痛烈なコメディ映画。
監督のクイン・シェパードは、女優としても活躍し、『ノット・オーケー!』が2作目の監督作品。
彼女の1作目は2017年公開の『BLAME』で、監督、主演、脚本、製作を手がけ、評価を得ています。
主演はゾーイ・ドゥイッチ。彼女は『ビフォア・アイ・フォール』での主演が知られる女優ですが、今回は陽気なキャラクターを演じています。
日本では劇場公開はされていなくて、今作はディズニー+での配信公開になっていました。
~あらすじ~
雑誌編集社で働くダニー・サンダースは、職場で気になるインフルエンサーに注目されるため、フランス旅行に行っているとインスタグラムで嘘をつく。
しかしその後、フランスでテロ事件が発生し、ダニーがフランスに言っていると信じた周囲は心配してメッセージを送ってきた。
大量のメッセージと今更引き返せない状況に陥ったダニーは、流れに身を任せてテロ事件のサバイバーを演じることにした。
実際に911や銃乱射事件のサバイバーのセラピーに出て研究し、嘘に嘘を塗り重ねたダニーは一躍大注目のインフルエンサーに。
そしてダニーは学校での銃乱射事件のサバイバーで絶大な影響力を持つローワンと親交を深めていく。
感想/レビュー
俳優としても活躍しているクイン・シェパード監督。
彼女のユーモアセンスと、際どい題材に踏み込んでいく度胸がうまいバランスを見つけている作品だと感じます。
踏み込み方は思ってたよりも大胆でした。
SNSでのセレブリティ化、インフルエンサーの滑稽なバズ、巻き起こる現象の背景としての喜劇なのか悲劇なのか分からないストーリー。
それ自体は自己承認欲求の暴走映画でよく見られてはいますけど、シェパード監督のユーモアの対象が、ひょっとすると結構怒られそうなヒヤヒヤを伴ってました。
何をイジるか、そしてどこまでをイジるか。ここの線引が私としてはすごく良かったです。
非常にアンライカブルなキャラクター
主人公はOPで牽制されるように非常に厄介なかまってちゃん倫理観ぶっ飛び女です。
SNSやメディアで嘘つき、クソ女、ヒトラーよりも悪いと言われ、住所特定から殺害予告まで垂れ流される有り様。
今作はその大炎上のネット社会からスタートし、ソーシャルメディアにまつわるバズとそのための嘘を取り上げていきます。
ズタボロスタートのダニー。
有名でイケてるライターワナビーな彼女のぶっ飛び具合は最初から攻め攻めなユーモアで説明されています。
「911を逃したこと後悔してる。Z世代皆の共通項なのに、私はバカンスに行ってて乗り遅れた」
なるほどヤバい。
職場での声掛けがほぼ独り言で、挙句にLGBT界隈にはそれをただのステータスとして、共通の話題のように喋ってしまう。
OPでの大惨事にどうしようもない彼女の様子を見て、かなり嫌悪感を持つキャラなんだとわかったのですが、ここからがすごくおもしろかった。
スキルはあるし有能なので好きになってしまった
彼女はただ注目され、周囲から少し尊敬やあこがれを向けてほしくて嘘をつく。
その嘘が、パリに行ったという内容ですが、ここでダニーは頑張ってる。
それっぽいものを買い、それっぽい場所で写真を撮り、フォトショも駆使して画像加工。見事にパリでライターの研修を受けた華麗な日々を作り上げる。
盛る度合いこそ違いますが、少しトリミングしたり修正したり加工したりは私も経験あります。
それに合成とかって広告とかクリエイティブでも本当に同じことするんで、正直ライターじゃなくて広告関連でダニーめっちゃ有能だと思います。
プロデュースもブランディングもできるわけですし。
素直に言ってこのスキルの高さでダニーが少し好きになりました。
引き返せないのはみんな同じ
スキルの活かしどころを誤ったダニーですが、ここからの展開で転げ落ちていく。
彼女の考え方はもちろん良くないものですが、過剰に大きくなっているだけでダニーは身近な存在です。
ちょっと見えを張った嘘が思ったよりも周囲に広がり、今さら嘘でしたと引き返せなくなる。
それ自体はすごく普通のことですよね。
ここで軽く「冗談でした~」とできればいいのに、もう周りの騒ぎ方がそんな空気じゃなくて。
嘘に自分を合わせていかなきゃいけない。
ダニー自身は心のなかで何度もその後悔と焦燥に向き合い続け、それが爆弾犯という形をもって罪悪感として付きまとうことになります。
さらに止まれなくなったダニーですが、トレース能力も抜群で、すでに多大な影響力を持っているローワンを丸パクリして成り上がる。
笑っちゃいけないセラピー会でもリサーチを欠かさないダニー、やっぱり有能でしょ。
自分自身の鏡
SNSのセレブリティがすごく簡単に生まれてしまうこと、そして批判炎上はすれど大衆も簡単に踊らされる。
銃規制やLGBTQ、論争を呼ぶところにちょっとひやりとするくらいに踏み込みユーモアを入れるバランス。
ダニーは確かにヤバい女なんですけど、根底にある寂しさや愛の渇望は、大なり小なり私たちみんなが抱えているものでしょう。
そして少しの見栄が思ってもみないくらいに反響して、その振動が自分を崩していってしまうのは”ありえない”とは言い切れません。
ダークコメディとして結構楽しめた作品でした。
SNS触れてるなら突き放せない何かがあるので興味ある方は是非。
今回の感想はここまで。
ではまた。
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