「BODIES BODIES BODIES ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ」(2022)
作品解説
- 監督:ハリナ・ライン
- 製作:ダビド・イノホサ、アリ・ハーティング
- 製作総指揮:アマンドラ・ステンバーグ、ダニ・バーンフェルド、ジェイコブ・ジャフク
- 原作:クリステン・ルーペニアン
- 脚本:サラ・デラップ
- 撮影:ヤスペル・ウルフ
- 美術:エイプリル・ラスキー
- 衣装:カティナ・ダナバシス
- 編集:テイラー・レビ、ジュリア・ブロッシュ
- 音楽:ディザスターピース
- 出演:アマンドラ・ステンバーグ、マリア・バカローヴァ、ピート・デイヴィッドソン、レイチェル・セノット、リー・ペイス 他
人里離れた屋敷で開かれるパーティを舞台に、Z世代の若者たちがひとつのゲームをきっかけに予期せぬ惨劇に巻き込まれていく様子を描いたスリラー映画。
「ヘイト・ユー・ギブ」のアマンドラ・ステンバーグ、「続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」で注目されたマリア・バカローヴァ、「キング・オブ・スタテンアイランド」ピート・デイヴィッドソン、さらに「落下の王国」のリー・ペイスが出演。
アマプラでの配信リストに載っていた中でなんとなく見てみました。
~あらすじ~
感想レビュー/考察
薄くてアホな人物群像で、とてもクレバーな作品
アホと見せかけてめちゃくちゃ頭のいい作品ってありますよね。アホなんです。確実に。
アホの子コメディで確実に笑ってしまうし、頭のいいことなんて全く言わない終始貫徹したバカ映画。
でもその構成や脚本、演出があまりにクレバーで、読み込むほどにその奥深さと思慮の深さに感激してしまう。
今作はまさにそれです。
ハリナ・ライン監督はアホであろうアホをしっかりとアホどもとして描きこみながら、現代アメリカ、いや世界の若者たちや人間の本質的な関係性までをも描き出しています。
薄っぺらい人間たちは薄っぺらくあるべきだからこそ。
なんとなしに見れば、深みのないミステリースリラーで、イラつくかもしれませんが、監督の意図が分かればあまりにも巧妙な作品でとても楽しめました。
古風な舞台設定に、現代の甘やかされた奴らが集う
舞台設定は非常にクラシック。嵐の夜に孤立した別荘に集まった男女のグループ。
そこで人が死ぬ事件が起こり、誰が犯人か分からないミステリーと、次の被害者は誰なのかというWho done it?の王道形式です。
ここは何ともシンプルでこねくり回した様子がなく素直。だからこそその上に乗っける人間関係の混乱にフォーカスできます。
怪しい人物がたくさんですが、人間皆信用ならないもの
ミステリーとしての配分がないわけでもなく、必ず誰しもが怪しく描かれている。
正直なところ主人公として描かれるビーとソフィーですら、もしかするとこの機会に皆を消してしまおうとしているのかもと見えますしね。
ビーは精神疾患を持った母に束縛を受けている。冒頭でもたびたび電話に答えていますし。何らかの乖離障害を彼女自身も持っているのか?とも見える怪しさが置かれます。
別荘についてすぐの車から降りるシーンで、一人車内に残ったビーがサンバイザーを降ろしますが、そこにはWarning(警告)の文字があり、この先の展開が不穏です。
ソフィーについても隠し事が多いことやチャットでのやり取りの件も含め潔白には見えない。
でもそれは登場人物みんながそうなのです。
ピート・デイヴィッドソンが演じるデビッド。どこかいつも攻撃的ですし、元カノのソフィーにも強く当たる。あからさまに外から来ているグレッグを嫌う。
グレッグも怪しい。元軍人という触れ込み、1人年の離れた存在。付き合っているというアリスですら実は本性を知らない。
怪しさ満点の男性陣は、最初に死んで行ってしまうので余計に状況が分からなくなる。
富裕層や格差、薬に銃
でも、ここでは誰が犯人か?の本格ミステリーを期待してはいけないし、それはベースラインで素直にやっているだけ。
屋敷の混沌とした状況にはアメリカが濃縮されていると思います。
当たり前に薬物があって、ラリって酒を飲む金持ちの若者。
無いと言いつつあった銃。富裕層とそうでない層の自然の差別。恵まれた者たちの謎の自己憐憫。「あんたなんてアッパーミドルクラス」というギャグ。
相手の知らないこと、知らせたくないこと
そして究極は人間関係の限界です。
アリスとグレッグのような関係性は分かりやすいですが、現代の私たちはよく知らない相手と一緒にいる。職業も趣味も出身地も実はあまり知らないままに交際していたり。
「ミドルネームなんて普通聞かないでしょ」というユーモアを入れつつ、こうした関係性がはたから見れば愚かで危険でありながらありふれている様を見せています。
そして他人への本音と建前。相手のソーシャルステータスに対しての羨望や侮蔑。本当は大嫌いな性格面。酒と薬からでてくる本音は、どこか共感してしまうものがあります。
なんだかんだいつも自慢話の多い人。「そんなことないよ」待ちの自虐。面倒です。
暴露大会に発展しそれぞれが本性と本音で攻撃し合う終盤は、潜在的にどんな人間関係もに抱えている、他人を知ることの限界を見ているようです。
そんなカオスの先に、夜明けがやってきてわかった真相。
ネタバレですが、デビッドは映画の序盤にグレッグが披露した、剣でシャンパンボトルを開ける芸を自分でもやりたかった。その際、手が滑って自分の喉を切ってしまった。
投稿予定だったそのスマホの自撮り映像を見た瞬間、オチの絶妙さに笑いました。本当にくだらない。ただそれが彼らにはお似合いだったのです。
王道のミステリー舞台をしっかりと使い、犯人探しに同行できつつ、実際には甘やかされた富裕層のクソガキたちがくだらない社会ステータスの小競り合いをして、罵りあい愚かさを披露する。
その表層的なアホさの裏に、人間関係への鋭い洞察を秘めたスマートでクレバーな作品でした。
配信で見れますので是非。ハリナ・ライン監督は新作も公開予定のようで楽しみです。
今回の感想は以上。ではまた。
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