作品解説

「ウィキッド」2部作完結編 ― 友情と運命の行方を描くミュージカル大作
「オズの魔法使い」に登場する魔女たちの物語を描き、世界中で愛され続けてきた大ヒットブロードウェイミュージカル「ウィキッド」。その実写映画化2部作の後編となるのが今作です。
前編「ウィキッド ふたりの魔女」は、第97回アカデミー賞で作品賞を含む10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞と美術賞を受賞するなど大成功。
日本でも広い層に届いていて、特に高校生の女子の間ではバズワードの一つになっていたり、意外な人気を博しました。
監督は前編に引き続き、ジョン・M・チュウが務め、エルファバ役のシンシア・エリボ、グリンダ役のアリアナ・グランデも当然続投。
監督・脚本・原作・スタッフ
- 監督:ジョン・M・チュウ
- 原作:グレゴリー・マグワイア
- 原作ミュージカル(作詞・作曲):スティーブン・シュワルツ
- 原作ミュージカル(脚本):ウィニー・ホルツマン
- 脚本:ウィニー・ホルツマン、デイナ・フォックス
- 製作:マーク・プラット、デビッド・ストーン
- 製作総指揮:スティーブン・シュワルツ、デビッド・ニックセイ、ジャレッド・ルボフ、ウィニー・ホルツマン、デイナ・フォックス
- 撮影:アリス・ブルックス
- 美術:ネイサン・クロウリー
- 衣装:ポール・タゼウェル
- 編集:マイロン・カースタイン
- 音楽:ジョン・パウエル、スティーブン・シュワルツ
キャスト(役名/出演)
- エルファバ:シンシア・エリボ
- グリンダ:アリアナ・グランデ
- フィエロ:ジョナサン・ベイリー
- ボック:イーサン・スレイター
- ファニー:ボーウェン・ヤン
- ネッサローズ:マリッサ・ボーディ
- マダム・モリブル:ミシェル・ヨー
- オズの魔法使い:ジェフ・ゴールドブラム
注目のウィキッド完結編。北米では昨年の秋ごろには公開されていましたが日本では前作に続いて年をまたいでの公開。おそらく賞レース関連で、せめてノミネートがたくさんついてからの方が広告宣伝しやすいということかな。
しかし、なんと今作アカデミー賞に一つのノミネートもされないという。なんでそこまで?であれば前作で歌曲とか、主演のどちらかとかに賞あげてほしかった。
全然ウィキッドに興味のなかった私ですが前作の圧倒的な力に完全に魅了されて、グッズも買いあさる状態。
今作の公開日もミッドタウン日比谷に昼頃乗り込んでみたのですが、グッズコーナーには埋め尽くさんばかりに女性ファンがいて撤退しました。ミッドタウンは各回コラボとか展示があって楽しいです。
そして次の日、土曜日、早速地元の映画館で鑑賞してきました。今回通常字幕とIMAXとで2回鑑賞。やはり人気作の続編ということで結構混んでいました。
~あらすじ~

オズの国の隠された真実を知ったことで、別々の道を歩むことになったエルファバとグリンダ。
「悪い魔女」として世間から悪名を背負わされたエルファバは、言葉を奪われた動物たちの自由を守るため、民衆の敵とみなされながらも戦い続けていた。
一方、「善い魔女」として人々から称賛を集めるグリンダは、希望の象徴として名声と人気を手に入れる。
しかしその心の奥には、エルファバと決別してしまったことへの後悔と寂しさが影を落としていた。
互いに和解の言葉を交わせないまま、2人の距離は次第に広がっていく。
そんな中、オズの国に“カンザスから来た少女”が現れたことで、止まっていた運命の歯車が再び動き出す。
少女の存在をきっかけに、エルファバとグリンダは、かつてかけがえのない友情で結ばれていた相手と再び向き合うことになる。
感想レビュー/考察

「ウィキッド」パート2が背負う前提条件
前作の大きな成功や年間ベストに入るくらいの思い入れからすごく期待をしていた作品。
舞台原作を知らないけどオズの魔法使いは知っているという立場ですが、今作は一定の満足を与え仕事をやりきっているとは思います。
しかし一つの映画としては正直難しく、残念になってしまったと感じる部分がありました。
本格的にその話をする前に、作品が置かれた立場を考えます。
ウィキッドのパート2ということで、もちろん1作目の鑑賞がMUSTなのは事実です。
今は配信でも観れますし、必ず観ておいたほうがいい。
その一方で、ジュディ・ガーランドのものでもいいですが、「オズの魔法使い」という本当の原作というかカノンには触れておくべきです。
基本的にはスピンオフ作品ですから。特に今作ではエルファバとグリンダの運命はオズの魔法使いのメインストーリーの影響下にあります。
何がどうなるのかは知らないと意味不明になるかと。
特にドロシーと仲間たちは出てくるがメインで説明がなく。
メインサーガを1つも観ないで「ローグ・ワン」を観るようなものです。
私はオズの魔法使いは鑑賞済ですので、そのへんは問題なく。
「オズの魔法使い」の西の悪い魔女について、その裏では何が起きていたのか?を描いている映画として見れます。
ただこれが、エルファバとグリンダのストーリーによく分からない少女が参加してきた。と見ると正直説明と描写が少なくて意味不明になるでしょう。
まずそこが、ウィキッドだけを追いかけている場合の難点。

集束させる後編という構造が生んだ“ダイジェスト感”
そしてそれは良いとしてももう一つの問題があってそれが映画としては正直残念だったところです。
それはこの作品がパート2というか、むしろ話の終焉部分のみを描き出しているところ。
前半のパートは2時間40分の長尺でしたが、話の始まりから、エルファバが西の悪い魔女と呼ばれるまでをクライマックスに持ってくるならあそこで切る以外はなかったのでしょう。
しかし、一つの大きなウィキッドという話を考えると、パート1の方が7割みたいな印象。なのでのこりの3割を進めながら、オズの魔法使いの背景ストーリーとして終わらせに行くのが今作の役割。
ですからボリューム感は薄い気もするし、やらなきゃいけないこと、たたんでいかなきゃいけない風呂敷があってなんだかダイジェスト的に進んでいくのです。
後編ということであり新キャラも実際にはいなかったりしますし、本当に途中休憩をはさんで一気に4時間くらいの映画としてまとめてしまった方が素晴らしい体験だったのではないかと。。。
急展開で強調される登場人物のエゴ
展開が速いところがあるので、人物の感情の揺れ動きが急に感じてしまったり。その展開の性で各登場人物の欲求とかエゴが強調されているのもちょっと気になります。
ボックとかネッサローズとか、その気持ちは痛いほどわかるけれど、長い映画の中であのような結末を迎えたならすごく心が痛い。
でも、今作だと登場したと思ったら闇堕ち的な展開なのです。
だからこの「ウィキッド 永遠の約束」という作品の中だけで観ると、急展開活あまりいい印象になるキャラがいないのは悲しいかなと思います。
そう、全体にダークなのです。「スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐」のような。バッドエンド的なことは見えているうえで、話が進む。

今作で際立つのはグリンダの切なさ
エルファバの方は前作から厳しい人生を歩んでいますが、今作はむしろやはりグリンダの切なさが際立ちます。
ピンクの衣装でフリフリで。それが善い魔女のアイコンとして、マスコットとして傀儡になってしまう。彼女の気持ちなのか、衣装のドレスはピンクにブルーが織り交ざったものに変化しています。
グリンダの複雑な心情を示しているような衣装ですし、アリアナ・グランデも今回はハッピーな女の子ではなく、とことん失っていく女性を好演しています。
思えばグリンダ自身はこのような形になるなんて思ってもいなかった。
そして、今回はエルファバ以上に自分の在り方や歩む道を選び取っていくことになるのです。
“善い魔女”という役割に縛られるグリンダ
前作ではエルファバがオズの秘密を知り、そして反抗することを選んだ。
嘘の上に成り立つ平和に対抗し、動物たちを悪者にして得る共生を拒んだのです。
その選択の波を受けたグリンダ。彼女の人形としての扱いはかわいそうですが、注目を集め痛い、愛されたい気持ちは痛いほどわかります。
誰だって、みんなに好かれたいと思うもの。そして栄光や好意を得てしまうと、それを手放すのはすごく怖いことなんです。
今作ではグリンダが鏡を見つめるというシーンが、前作とは異なる意味で感じられます。それはナルシスト的なものではなく、今の自分の姿を見て、後悔や悲しさに包まれている。

宙を舞う方法におけるエルファバとグリンダ、二人の対比
“The Girl in The Bubble”があまりに切なくて、好きなんですが辛いですね。エルファバは人に指さされはするが、自由に空を飛翔する。
それに対してグリンダは機械仕掛けつまり仕組まれた装置の中、一見かわいいけれど周りの風に流される泡の中に閉じ込められる。泡はフワフワとしても、常にゆっくりと落ちていき、いつかははじけてしまうのです。
二人の移動手段、何に乗るのかというところも対比的で、よりグリンダが哀れになるのが今作であり、だからグリンダがすごく主役だなと感じました。
嘘と見栄で生きてきた愛されたい少女
完全に見せかけの婚約に、結婚式の場で心労を奪われて、パワハラ魔女にこき使われて。ちょっと散々すぎる。
でもグリンダは子どもの頃から、なりたい自分になれないという辛さを抱えてきました。自分には才能がない。自分には魔法がない。
嘘と見栄で固めてきて、もちろんいっぱい努力するけど。。。いつか崩壊するそれが恐ろしくて。
でもだからこそ、善い魔女グリンダとか、学校のアイドルとしてのグリンダではなくて、そのままの彼女を見つめたエルファバの存在は大きい。

“善のための悪”というラスト
繊細で人の痛みが分かって、おバカなほどにまっすぐなグリンダを、エルファバは愛した。運命に翻弄されていく二人があまりにも切ない。
今回ももちろん衣装も美術も良いですし、何とも皮肉な歌の数々も。
歌曲の中では”Wonderful”が前作の”Popular”っぽい鋭いものもありますね。「多くの人が真実ではないことを信じ切っているんだ。”歴史”って呼ばれている。」「人はみんな信じたいものを信じる。」
ただドラマチックさは終幕の”For Good”でしょうかね。”永遠に”って意味もありますけど、原題のWicked for goodは永遠に悪とも取れますが、エルファバとグリンダの最後の会話で考えると、「”善”のための”悪”」という意味にも感じ取れました。
誰かが悪役をやることで、誰かは善でいることができる。
扉越しでのお別れはとても切ない。でも別れないと二人の運命は悲惨なものになるから、別れることが大事。
出会った事には意味がある。あなたのおかげで変われて、人生を歩める
辛い最後にはなりますが、フィエロもエルファバもグリンダも、それぞれが出会うことで人生が変わり、前に進み、本当の自分を見出すことができた。それは紛れもなくお互いの存在のおかげです。
変化してもう後には戻れないけど、みんなで過ごした時間は本物で、振り返ればそこにある。
そんな風に感じるラストのモンタージュが上品で優しくてとても素晴らしいと思います。
全体の構成的に分が悪かったり、”Defying Gravity”と比べてしまうとどうしても楽曲も弱めに感じてしまうなどはあります。映画としての歪さとか、それは思ってしまう。
でもやはりウィキッドの二人の物語としてはとても思い入れある映画になったと思います。
1回でいいので2作連続上映してくれないかな。その方が全体は良い気がする。アカデミー賞関連に1部門のノミネートもなかったのとか残念ですが、前作含めていい作品です。
是非大きなスクリーンで鑑賞を。今回はつい長くなりましたがここまでです。ではまた。


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