「ねこしま」(2023)
作品解説
- 監督:サラ・ジェイン・ポルテッリ
- 製作:イバン・マレキン、サラ・ジェイン・ポルテッリ
- 製作総指揮:アンテ・マレキン
- 撮影:イバン・マレキン
地中海の島国マルタ共和国を舞台に、「猫島」として知られるその地で展開される人と猫の共存を描いたドキュメンタリー。多数の野良猫が暮らすマルタでは、個性豊かな猫たちと彼らに魅せられた人々が織りなす物語が描かれます。
村の存続を守るために開発業者と闘うローザ、巨大な猫像「アタス」の制作をライフワークとするアーティストのマシュー、猫に惹かれて移住を決めた女優ポリー、SNSを通じて猫の保護活動を発信する少年アイザックなど、多彩な人物たちが登場。
それぞれの人生と猫たちとの関わりを通じて、マルタ特有の「猫文化」が浮かび上がっていきます。
作品に関しては知らなかったものの、映画館の予告で流れてきて、美しい丸太の街並みやかわいい猫につられてみたくなった作品です。公開週末に早速行ってきましたが、人の入りはそこそこといった感じでした。
感想レビュー/考察
全体の構成が単調である
マルタ共和国についてはあまり詳しくなく、シチリアの南に位置する小さな島口であることだけをもって、ただただ予告でみた猫ちゃんが可愛くて観に行った作品。
ドキュメンタリーということで、実際に現地の方々のインタビューで構成されていますが、総評をまとめると物足りなく曖昧な作品だったと感じざるを得ません。
全体の構成や編集の仕方、題材に対して取材してきた素材などが、どちらかといえば少なく感じてしまいました。
ドキュメンタリーでは、猫そのものではなくてマルタの人々を主人公にしています。そこでは猫の保護活動をする個人が描かれ、そして猫をこの国の象徴としようとする人がいます。
それぞれに対してインタビューを行っており、話こそたくさん聞けているのですが、ほとんど変わらない構図で結構長い尺で喋っているので単純に飽きてしまいます。
もちろん、特定のネコが話題に上がれば、その猫を映した映像が挿入されてはいるのですが、それ以外の部分は弱く見えます。
取材が足りないか、ない場合の創意工夫がもっと欲しい
猫の保護のための場所をずっと管理してきた女性が、過去からの物語を語る際にはいくつかの写真が挿入されているだけですし。もちろん個人の物語であるので、手に入らない資料も多いとは思います。
その分アニメーションも入れ込まれているのですが、アニメにしてまで入れるような内容ではない部分に使われており、むしろもっとマルタの市井の様子をうかがえる資料を観たかったです。
それこそ、マルタの歴史的な資料の中にも、多く猫が映りこんできている様子がたびたび見えることで、この国と猫という動物の切り離せない関係性も見えたのではないかと思います。
網羅的に触れていますが深くは描けていない
ドキュメンタリーは実録であるので、もちろん創作してはいけない。
それでも、映画というメディアにするために、構成して編集して音楽をつけて感情の波を乗っけていくものです。驚きや衝撃に繋がるほどのモノも用意されておらず、全体に網羅性はあると思えるものの、話題一つ一つへの深堀が足りないのです。
猫を保護するコミュニティと、ジェントリフィケーションや資本主義の象徴たるホテルチェーンの建設は、人間と動物の調和を、人間の経済的なエゴが破壊する様としてもっと掘れたと思います。
そしてマルタにおいて個人ばかりがこの猫たちを支えている現状を鑑みれば、公的機関へのインタビューなど取材もできたとは思います。そこでマルタと猫の関係性と、その保全について市や国としての見解を聞けると良かったと思うのです。
また、猫たちを受け入れていくというのは、ヨーロッパにおける移民の受け入れとも重なって考えられました。
いずれにしても問題を定義する形をとる部分がありながら、いまいち突っ込んでいかないのがもどかしく感じました。
マルタという国とそこに住む人々と猫の関係性については理解が深まる作品です。様々な猫が登場して可愛くて楽しいですし、マルタの街並みもうかがえます。
ただし、ドキュメンタリーとしては取材素材を並べただけに感じられて、方向性やフォーカスが曖昧な作品だと思いました。
短い作品なので、猫に興味がある方は観てみてもいいかもしれません。今回の感想はここまで。
ではまた。
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