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「Playground 校庭」”Un monde”(2021)

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UnMonde-playground-belgian-movie-2021 映画レビュー
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「Playground 校庭」(2021)

UnMonde-playground-belgian-movie-2021

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作品解説

  • 監督:ローラ・ワンデル
  • 製作:ステファン・ロエスト
  • 脚本:ローラ・ワンデル
  • 撮影:フレデリック・ノワロム
  • 美術:フィリップ・ベルタン
  • 編集:ニコラ・ランプル
  • 音楽:トーマス・グリム=ランズバーグ
  • 出演:マヤ・バンダービーク、ガンター・デュレ、カリム・ルクルー、ローラ・ファーリンデン 他

小学校に入学したばかりの少女の視点を通し、子どもたちが直面する不安や恐怖、過酷な日常をリアルに描いたベルギー発の作品。監督・脚本を手がけたのは、本作が長編デビューとなるベルギーの新鋭ローラ・ワンデル。

出演はマヤ・バンダービーク、ガンター・デュレ。その他、「またヴィンセントは襲われる」のカリム・ルクルー、「ハッピーエンド」のローラ・ファーリンデンも出演しています。

この作品は2021年の第74回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しました。

批評面で高い評価のある作品ということで、気になっていた作品。もともとは2021年公開の作品なので、ずいぶんと遅くなっての日本公開です。

公開規模もかなり小さく、銀座とかでも少しやっていますがシネコンはなし。私は地元の小さな映画館で公開していたので公開された週末に早速見てきました。

朝の回でしたがそこそこ人は入っていました。

「Playground 校庭」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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7歳の内気な少女ノラは、3歳年上の兄アベルと同じ小学校に入学する。しかし、なかなか友だちができず、校内で居場所を見つけられずにいた。

そんな中、クラスの女の子2人と仲良くなり少しずつ学校に馴染んでいくが、ある日、兄が大柄な少年にいじめられている現場を目撃し、衝撃を受ける。大好きな兄を助けようとするも、アベルはノラの介入を拒絶。

いじめは続き、ノラはやりかえさない兄の気持ちを理解できないまま、孤独と苦しみを募らせていく。

さらに、唯一の支えだった担任教師が学校を去り、いじめられているアベルの妹だということから、友人からも仲間はずれにされてしまう。

そしてある日、校庭で目にした光景が、ノラの世界を大きく揺るがすことになる。

感想レビュー/考察

UnMonde-playground-belgian-movie-2021

奇跡というべき映画だと思いました。

どうやって成立させたのかわからない。ありえない視点で撮られた作品だと思いました。

どういうことかというと、今作は子どもの世界を子どもの目で観た作品だということ。だから全てにおいて大人によるコントロールとか、大人が描いた”子どもってこうだよね”感がないのです。

でももちろん監督は大人です。純粋に子どもの視点を持ち続けられるはずはないと思います。かといって本当に子どもに映画製作は頼めないし、変にアドバイスは求められない。

そのような試みをした時点で子どもの視点ではないからです。

だから理解が追いつかないです。こんなにも高い解像度で残酷で過酷な子どもの世界をスクリーンに映し出すなんて。

これが初監督作品なんて、ローラ・ワンデル監督恐るべし。

子どもと同じ目線の高さにこだわった撮影

子どもの視点の作品と言いますが、今作の何よりの特徴は撮影

カメラは主人公であるノラの視点の位置に固定されます。彼女と同じ目線。引きの視点や別の人物の視点はない。

あらゆるものが大きく見え、ドアノブは高い位置に、大人は顔が見えず。

文字通り子どもが見ている世界を撮ろうということですね。そしてこの目線の高さは、子どもの孤独も強めていると感じました。

つまり、ノラの目線の高さにカメラが置かれているため、彼女の目線の高さに合わせてしゃがんだりしない限り、大人は画面内に入ってすらこない。

入ってきてくれるのは本当に限られた人。父と、ノラによくしてくれる担任の先生です。

監視員、他の教師、加害学生の親などの顔は全く見えず、それはつまり大人たちのほとんどは子どもに、目もくれていないし関心を寄せていないことの表現です。

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音楽は流れず周囲の音を際立たせる

また全編にわたって音楽が一切使われないのも刺激的な要素。

映像に音楽を乗せてストリーを語ったり人物の感情を表現することが多い中で全く劇伴を使わないということ。

つまりノラの視点でしっかりと見て感じることが重要で、またリアルな追体験をさせる効果もあると感じました。

逆に、音の要素では音響やミキシングが巧妙です。うるさいなと感じるくらいの喧騒や物がぶつかるような音。

それが教室や校庭ではすべてを囲うように聞こえてくる。

かなり圧迫感がありますし不安と緊張を煽るようになっています。

環境づくりというか。撮影と音響で作り出されているのは「校庭」という名の戦場なんですよね。

過酷なサバイバルを生き抜く、繊細な人間ドラマ

生きるか死ぬかのサバイバル。囲われていて逃げることはできない。

まるで刑務所での面会かのような、ノラと父の柵を隔てての会話。

学校へ来たときと帰るときの送り迎えシーンが繰り返されますが、子どもはごまかしたり隠したりする。

たしか人間は3歳くらいから嘘を覚えるような話を聞いたことがありますが、大人が勝手に考えるよりももっと複雑で、深く周りの状況を理解し、そして気も遣っている。

怪我はサッカーのせい、不機嫌は試合に負けたせい。もっともらしいごまかしで切り抜けるアベルと、それに対して兄の立場も考えて何も言わないノラ。

監督は子どもをシンプルで記号的な対象とはみていません。

ちゃんと実在し自分で見て考えている人間としての捉え方がとても素晴らしいと思います。

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圧倒的なリード

そしてこの全体のドラマを支えているのは、スクリーンの中心となるノラを演じたマヤ・バンダービーグ。

彼女はIMDbのページ観ると、これが初演技なんですよね。2021の今作以前の作品がなくて、そのあとは2023年にシリーズで登場人物の子どもの頃を演じていたり。

とにかく、奇跡的存在だと思います。

兄アベルを演じたガンター・デュレも素晴らしく、子役が子役として存在するのではなく、本当に自然に子どもとして存在する感覚が卓越していると思います。

繰り返しますが、”大人が描いた単純な記号的子ども”ではなくて、社会性を纏って子どもになるところは子どもを演じている人間として切り取られているのが素晴らしいです。

学校で受け入れられないことは死を意味する

作中では死に触れるシーンがたびたび出ています。

それは校庭の砂場での会話。この砂場に鳥の亡骸を埋めようとするところ。そこでは監視員さんに死体を取り上げられてしまいますが、砂場のシーンは再び死んだこどもも埋められているといった話を、ノラの友達がしますね。

ノラにとってはこの鳥の亡骸は、周囲に溶け込めなくなった自分。そして死んだ子供は埋められるというのは、そうやって学校になじめず友達から受け入れられなかった子の暗示と思われます。

ノラの恐怖が示されるような会話です。

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暴力の連鎖には寄り添いで

死を恐れると、暴力の連鎖が起きます。死にたくないから、受け入れられない側ではなく受け入れない側に回る。

聖書における歴史では人類初の被害者となるアベルと同じ名前の兄は、被害者から加害者へ転じます。いじめられていた子が今度はいじめる側になる。自分が二度といじめられないように、ほかの対象をもって身を守るのです。

ただそこで、ノラは兄を暴力や強制力で止めない。ハグをします。劇中では幾度となく行われるハグ。それは癒しと寄り添いなのです。

人種差別主義者とは?ノラのお父さんは働いてないから怠け者なのでは?

決めつけが横行する中で、私たちはノラのように聞くことや寄り添うことができているでしょうか。

そしてなにより、この作品のなかで、ノラに良くしてくれた担任の先生や、父のように、子どもたちの目線に入ってちゃんと話を聞いてあげられているでしょうか。

子ども時代のサバイバルを追体験するような手法と演出の中で、こちら側の大人たちにも厳しい問いかけをするようなラストでした。

ダルデンヌ兄弟の影響なども感じられて、重厚な映像体験の映画。また子どもをちゃんと個人として描くのは、セリーヌ・シアマ監督のような視点です。

ローラ・ワンデル監督の今後の作品にも注目ですね。今回の感想はここまで。ではまた。

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