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「TATAMI」”TATAMI”(2023)

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TATAMI-2023-Zar-Amir Ebrahimi-Guy-Nattiv-movie 映画レビュー
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「TATAMI」(2023)

TATAMI-2023-Zar-Amir Ebrahimi-Guy-Nattiv-movie

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作品解説

  • 監督:ガイ・ナッティブ、ザーラ・アミール
  • 製作:アディ・エズロニ、マンディ・タガー・ブロッキー、ジェイミー・レイ・ニューマン、ガイ・ナッティブ
  • 製作総指揮:アビ・ニール、アロン・シュトルズマン、ピーター・トラゴッド、オリ・アイゼン、ピーター・ソビロフ、オリ・アロン、サルバトーレ・モナコ、マヤ・アンセレム、シャロン・ハレル=コーエン、セリーヌ・ラトレイ、モシェ・エデリー、オリ・サッソン、リー・ラッシャー、マイモニデス・ファンド、ドロール・イレズ
  • 脚本:ガイ・ナッティブ、エルハム・エルファニ
  • 撮影:トッド・マーティン
  • 美術:ソフィヤ・カレバシュウィリ、タマル・グリアシュビリ
  • 衣装:ソポ・イオセビドゼ
  • 編集:ユバル・オア
  • 音楽:ダッシャ・ダウエンハウエル
  • 出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン 他

短編映画「SKIN」で第91回アカデミー賞短編映画賞を受賞したイスラエル出身のガイ・ナッティブ監督と、「聖地には蜘蛛が巣を張る」で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したイラン出身の俳優ザーラ・アミールがタッグを組み、実話をもとに描いた社会派ドラマ。

スポーツへの政治介入や中東の複雑な情勢、イラン社会における女性の抑圧を背景に、信念を貫こうとするアスリートたちの戦いを映し出します。

レイラ・ホセイニ役をアリエンヌ・マンディ、コーチのマルヤム・ガンバリ役をザーラ・アミールが演じています。

第36回東京国際映画祭コンペティション部門で審査委員特別賞と最優秀女優賞(ザーラ・アミール)を受賞。

イスラエルとイランにルーツを持つクリエイターが共同制作した史上初の映画とされ、参加したイラン出身のスタッフ・キャストは全員亡命を余儀なくされ、イラン国内では上映禁止となっています。

東京国際映画祭で予定が合わずにスルーしたら、なかなか一般公開されず見逃したと思っていた作品。今回遅れていても一般公開されたので早速公開週末、夜の回に観に行ってきました。

箱が小さいですが、それでも結構人が入っていました。

「TATAMI」の公式サイトはこちら

〜あらすじ〜

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ジョージアの首都トビリシで開催された女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニは、コーチのマルヤム・ガンバリとともに快進撃を続けていた。

しかし、敵対国イスラエルの選手との試合を避けたいイラン政府からの命令により、レイラは試合の棄権を強いられる。

監督マルヤムも家族を人質に取られ、自らの安全も脅かされる中、レイラは重大な決断を迫られることになった。

偽りの負傷で棄権するのか、それとも自由と尊厳を守るために戦い続けるのか。

感想レビュー/考察

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サイード・モラエイ選手の実話をもとにしたドラマ

イランからのスポーツ映画。ですが話のメインとなるのはスポーツと政治、それに翻弄される選手。

畳の上の敵以外にも、最悪の敵と戦わねばならない選手を描いています。

今作は実話を元に制作された作品です。その実話についてまずはベースとして調べてみました。

2019年の8月、日本武道館で開催された世界柔道選手権。

イランの代表選手であったサイード・モラエイは、イランが敵対するイスラエル代表選手と戦う前に、試合を棄権するように圧力をかけられ、その抵抗に対しては脅迫もされたという事件です。

試合を続けたサイード選手は途中敗退してしまいましたが、この圧力も精神的に影響したように感じられます。

サイード選手はこの大会の後でイランからの脱出を決意。ドイツに難民申請を行ったのちにモンゴル国籍を獲得し、この後はモンゴルの代表として柔道の大会に出場しています。今はアゼルバイジャン国籍とのこと。

追加された変更と深くなるドラマ

この事件のある意味再現ドラマ的な作品ではありますが、いくつかの変更をされている。

まずは主軸となるのが女子選手になっていること。そして彼女だけではなく監督も圧力と脅迫の対象になって、深く描かれていることです。

実際のところ、当初の脚本や企画の段階では、おおよそサイード選手の事件を女性に置き換えるだけの構想だったようです。

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しかし、監督役として打診されたザーラ・アミールが監督であるマルヤムがシンプルに描かれすぎているとし、ガイ・ナッティヴ監督と協議を重ねていったそうです。

結果としてマルヤムも大きな主軸になったことに加えて、ガイ監督の希望でザーラも共同監督をすることになりました。

イランのイスラエルのクリエイターが共同した初の作品

そして最終的には今作の座組がおもしろいことになりました。

ガイ監督はイスラエル出身、そしてザーラはイランの俳優です。イランとイスラエルの政治的敵対によって翻弄されたスポーツ選手の映画を、イランとイスラエルが共同制作することになったのです。

しかも、これは歴史上初めてのことだとか。

現状や重要な出来事を伝えるために協力した事自体が、大きな意味を持つことになりました。

ということで、作品背景自体は非常に興味深いものですが、実際の中身は緊迫したものになっています。

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暗部が濃く感じられるモノクロの画面

まず画面は全編モノクロになっています。白と黒の世界はやや荒涼としますし影や血というものがより深く感じられます。

白と黒と2つに分断されるという意味合いもあるでしょうか。

題材が鮮やかさなんて感じるものではないですし、扉の奥や通りの暗闇がより恐ろしげに感じられるなどの効果はあると思います。

ヒジャブを目黒描かれる体制と反抗

また女性選手が主人公となった点についてですが、よりイラン政権側からの抑圧を出すためかと思います。

家族の描写などは男性選手でも変わらずと思いますが、ヒジャブの件でしょうね。

直近で「聖なるイチジクの種」を観たこととかも関係していますが、イランの選手はヒジャブ着用の上で試合に出ています。

これがまさにイラン側のルール。それが試合が進むにつれてレイラが追い詰められていくにつれて拘束具や圧力にも見えてきます。

そして試合の中で文字通り息ができなくなった彼女がヒジャブを脱ぎ捨てる。

ただでさえ、棄権を求められている中での試合続行です。そのうえで着用義務の強いヒジャブまで脱ぎ去るということは、さらに大きくイラン政権側へ反抗することになります。

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イランという枠に縛られる自分への攻撃

レイラを演じたアリエンヌ。アメリカのTVシリーズなどに出演が多いようですが、今作での葛藤の多いレイラを好演。

スポーツ選手としての人生がかかる試合で、棄権はしたくない。それでも1人の妻として母として、家族を危険にはさらせない。

彼女が控室に行き、鏡を頭突きして割るシーン。苛立ちからの行動とも見えますし、けがをすることで委員会の注意をひくためかもしれない。

でも、鏡に映るのはヒジャブを被ったイラン代表の自分。それを割るということに、束縛や抑圧の多い自分という立場を呪っているようにも、解放しようとしているようにも見える演出でした。

過去にレイラと同じ選択を迫られたマルヤム

ザーラが描き込みが足りないと、ガイ監督とともに練り上げたというマルヤム。

彼女は過去を持っているからこそより深いキャラクターになりました。きっと、最も辛い境遇に陥ったのはマルヤムです。

イラン体制側からの圧力は彼女にも向けられ、レイラを棄権させないと、すでに治安部隊に拘束されている母が酷い目に合う。

でも必死で努力してきたレイラを知っているし、監督としては彼女を応援したいのです。

そしてさらにもう一つ、マルヤムが苦しい状況なことがわかります。それは彼女自身が過去にイラン体制側の圧力で嘘の怪我を理由に棄権した選手であること。

選手としての人生が終わるきっかけになったと明かされ、マルヤムはイラン体制側に服従することでなんとか監督としてはの地位を得ていたのです。

だから試合の棄権がどういうことなのか、その余波も含めて知っているマルヤムは、非常に複雑な苦悩を抱えることになります。

ザーラもまた複雑で奥深い事情を抱えたマルヤムを見事に演じていました。

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写真をねだるファンと思ったら、向けられたスマホに映る拘束され暴行された父。全体には柔道選手権は進行しながらも確かに侵攻してくる保安部隊がとても恐ろしい。

試合会場の外での出来事も必要以上にフォーカスを当てすぎず、しかしスリリングに描かれています。

スポーツと政治

スポーツはその公平な精神や国家を超えた高潔な競技のはず。

しかし現実には国家間の政治的な競争や、パワーバランスと主張を乗せる場にされてしまうこともある。スポーツと政治の課題は、イランとイスラエルだけの問題ではないように思います。

誰しもが、キャリアを関係ない戦いによって傷つけられ阻害される可能性もあると思うのです。その意味では普遍的な課題かと。

もとになった実話については日本での大会でのことだったのに知らなかったということと、これは大きく取り上げていくべきことであることから、非常に映画化の意義のあるものだったと思います。

さらに対象視点を広げて、選手と監督のドラマに仕上げたことも、両者の演技も合間ってとてもいいと思いました。

自由化どころか、おそらくいぜんよりももっと体制側の抑圧が強まり家父長制的な潮流が強まって感じられる今。重要な作品であることは間違いないでしょう。

今回の感想はここまで。ではまた。

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