作品概要

女性監督として初めてアカデミー監督賞を受賞したキャスリン・ビグローが、8年ぶりにメガホンを取った最新作。
「ハート・ロッカー」、「ゼロ・ダーク・サーティ」に続く緊迫のポリティカルスリラーで、Netflixにて2025年10月24日より独占配信。一部劇場では同年10月10日から先行公開されていました。
監督・スタッフ情報
- 監督:キャスリン・ビグロー(「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」「デトロイト」)
- 脚本:ノア・オッペンハイム(「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」、Netflix「ゼロデイ」)
- 撮影監督:バリー・アクロイド(「ハート・ロッカー」「デトロイト」)
- 音楽:フォルカー・ベルテルマン(「西部戦線異常なし」、「教皇選挙」)
キャスト
- イドリス・エルバ(「ザ・スーサイド・スクワッド」「ビースト」)
- レベッカ・ファーガソン(「DUNE デューン」「ミッション:インポッシブル」シリーズ)
- ガブリエル・バッソ(「ナイト・エージェント」)
- ジャレッド・ハリス(「チェルノブイリ」「ファウンデーション」)
- トレイシー・レッツ(「フォードvsフェラーリ」、「レディ・バード」)
- アンソニー・ラモス(「イン・ザ・ハイツ」、「トランスフォーマー/ビースト覚醒」)
- モーゼス・イングラム(「オビ=ワン・ケノービ」「クイーンズ・ギャンビット」)
- ジョナ・ハウアー=キング(「リトル・マーメイド」)
- グレタ・リー(「パスト ライブス/再会」)
- ジェイソン・クラーク(「エベレスト」「猿の惑星:新世紀」)
第82回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、最高賞である金獅子賞を巡って争った作品です。
NETFLIX限定作品ですが一部劇場では先行上映公開がされていました。渋谷とかでやってたかな。行きませんでしたが。配信されて割とすぐに鑑賞。
~あらすじ~

ある朝、いつもと変わらぬ日常を突き破るように、正体不明のミサイルがアメリカ本土へと発射される。
発射元も目的も一切不明。着弾すれば国家が崩壊しかねない非常事態に、ホワイトハウスを中心とする政府中枢は混乱に包まれる。迫りくるタイムリミットの中、誰が、何のためにこの攻撃を仕掛けたのか——
極限の緊張下で、国家の命運をかけた決断が下されようとしていた。
感想レビュー/考察

キャスリン・ビグロー、8年ぶりの新作が描く“世界の終わり”
キャスリン・ビグロー監督が実に8年も間を空けた新作。
豪華なキャストをそろえて描き出すのは、出どころ不明の核ミサイルの発射を受けて、その弾道機動調査や着弾に向けての迎撃、指揮系統の意思決定と連携と決断。
今作は言ってしまえば仕事映画です。
国家危機に際しての行動とプロトコルを再現していくような展開。それはルックとしては軍服やスーツに身を包んだ人間たちが電話してオンライン会議しているだけにはなります。
しかしそれでも、そんな言葉にすると地味な絵面でも、ビグロー監督の手腕で非常にスリリングで心臓の鼓動が早まるような緊張の作品に仕上がっています。
現場を生きるような臨場感――バリー・アクロイドの撮影が冴える
バリー・アクロイドの撮影はさすがの素晴らしさです。
ドキュメンタリーのように、実際にそこで起きている様子を捉えるような臨場感。彼がケン・ローチ監督の作品で常連ということもうなずけるような、リアルな現場間を与えてくれています。
フォルカー・ベルテルマンのスコアも好きです。予告でも流れていますけれど、ホラー映画とも言えつつスピード感がある戦慄。
ゆっくりではない。なぜなら今作は非常に短い時間で重大な決断を迫られるという重苦しい重圧と恐怖があるからですね。非常にハラハラさせてきました。

ネタバレあり:ミサイル発射から“終幕”までを描くリアルタイム構成
作品は始まりから終幕までを描きます。ネタバレですが、その終幕というのはミサイルの着弾と思われる、時間切れのところまでです。
なので、実際に落ちたのか、起爆したのか、誰が撃ったのか。。。などはすべてが与えられません。
ただ、未確認の飛行隊の発見から進路の予測と迎撃、そして反撃の判断をして着弾時間を迎えるまでの流れを、3つの視点からそれぞれ描いている構成。
それは徐々に上流に登っていきます。
第1幕:現場の緊張と無力――レベッカ・ファーガソンの存在感
まずはレベッカ・ファーガソン演じているウォーカー大佐。
彼女と指揮下でアンソニー・ラモス演じるゴンザレス少佐、そしてジェイソン・クラーク演じるミラー海軍大将。現場レベルの指揮系統の視点が第1幕ですね。
ここでは主に飛行物の確認から迎撃ミサイルの発射判断とその迎撃の失敗がメインになっていて、失敗後はまさに無力。
絶望に打ちひしがれながら、何もできないままにスクリーンを眺めることになる。
そのミサイルがシカゴへ向かうのを。この最初のパートだけでも非常に緊張感があり、そして映画という媒体の力を思い知らされます。
時間の制約、そしてスクリーンに映ることに干渉できないこと。
大佐たちと同じく、時間が流れ、その時間が刻々と減っていく感覚。手を尽くすものの、最後には何もできることはなくただ現実を見続けることしかできないこと。
映画というメディアとのシンクロが、より人物が置かれた状況と重なり残酷さと恐ろしさを増していきました。

第2幕:国防層の混乱――システムと人間の狭間で
第2幕になると少し上流になりますが、国防長官や国家安全保障問題の高官らの話になります。
1幕目で見にくかった人物の動きがよりクリアにもなる。
当該の管轄トップがいないからと代理補佐官も出てきていて、有事の際に誰がどんな手順でアサインされて時間のない中で対応するかが描かれています。
国防長官側の個人的なドラマも盛り込まれているなど、単純な仕事映画に終わらない描き込みもいい塩梅でありました。
第3幕:大統領の決断――報復か、沈黙か
最終幕はついにすべてのトップにあたる大統領が主軸となります。
通常の執務から一転して緊急対応にあたるだけではなく、彼は選択を迫られる。
出自は不明ながら複数の考えうる対象がいるなか、シカゴへの着弾前に報復攻撃の可否を判断する。誰に対してなのかも含めて。
着弾後には判断ができないまたは攻撃不可になっている可能性もある。
今決めなければいけない。
たった10分前まではバスケの試合にゲスト登場して子どもたちと交流していたのに。
一瞬で緊迫した状況に切り替わる現実。わずか十数分で世界は終わりを告げる。

結末のない物語――それでも伝わるメッセージ
私たちの今は薄氷の上になり立っている。
ハウス・オブ・ダイナマイト。爆薬で一杯の家となった私たちの世界は、ほんの少しの火の粉ですべてが吹き飛び終わるほどに危険な状態。
「ワンダーウーマン1984」でも似たような緊張関係が描かれていましたが、あの時代よりももっと深刻です。
どこかとどこかが戦争になるなんてレベルではなくて、始めれば人類の死滅まで行ってしまうのです。
その深刻な現実を映すことがこの作品の役割なのでしょう。だから誰が撃ったとかシカゴがどうなったとか、そういうことが主眼ではない。
重要なのは、この映画を観ているその時間だけで世界の壊滅が起きること。正確にはこの映画の3分の1の時間です。
そう考えると、恐ろしいです。このもう戻れない恐怖の時代は「オッペンハイマー」での感覚にも似ていると感じました。
目を背けていたいと思う。そのリアルに向き合わせる作品でした。
いわゆるストーリーに期待すると、結末なしで終わってるようなものなのでがっかりするかもしれません。
ただ目的について真っ直ぐに描き出し作品が描きたいことにフォーカスし機能を果たす点で素晴らしく力強い映画だと言えるでしょう。
今回の感想は以上。ではまた。


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