作品概要
実話をもとに描く極限のサバイバルスリラー
最も危険な職業のひとつとされる飽和潜水士の、実話をベースにしたサバイバルスリラー。極寒の深海に取り残された潜水士と、彼を救うために命がけの救出活動に挑む仲間たちの姿を描きだします。
監督・制作背景
本作を手がけるのは、潜水事故のドキュメンタリー『Last Breath』を監督したアレックス・パーキンソン。
綿密なリサーチをもとに、実際に事故が起きた船で撮影するなど徹底したリアリティを追求。ドキュメンタリー映像も交え、事実に基づく緊迫のドラマを再現しています。
キャスト情報
- クリス(若手潜水士):フィン・コール(ドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』)
- ダンカン(ベテラン潜水士):ウッディ・ハレルソン(『スリー・ビルボード』)
- デイヴ(プロ意識の強い潜水士):シム・リウ(『シャン・チー/テン・リングスの伝説』)
アレックス・パーキンソン監督のドキュメンタリーの方は観たことがなく、今作で初鑑賞。
この作品に興味を持ったのは予告を見てなのですが、制作背景を読んでびっくりしたのも理由。
2023年2月に北海で実際の事故現場となった船を使って撮影が始まり、その後マルタやヨーロッパ各地のスタッフが集結。
実際の潜水士たちも現場を訪れ、船内外のセットは国際的なチームが協力して忠実に再現され、巨大ジンバルや3Dプリントによる細部までのこだわりをしているとか。
とにかく力の入れ方が尋常じゃない。なのでぜひ見てみたくなりました。公開週末に早速行ってきたのですが、そこまで混んではおらず。まあたしかに映画好きじゃないと俳優陣もそこまででしょうしね。
~あらすじ~
北海でガス・パイプラインの補修を行うため、スコットランドから潜水支援船タロス号が出航する。ダンカン、デイヴ、クリスの3人の飽和潜水士は、水深91メートルの海底で作業を進めていた。
しかし作業中、タロス号のコンピュータシステムに異常が発生し、船は制御不能に。命綱が切れた若手潜水士クリスは、極寒の深海に投げ出されてしまう。残された酸素はわずか10分。
潜水ベルにとどまるダンカンとデイヴ、そして海上のタロス号のクルーたちは、限られた時間の中であらゆる手を尽くし、絶望的な状況に陥ったクリスの救出に挑む。
感想レビュー/考察
実話をもとにした映画に求められる“誠実さ”とは
実際の事件などの実話を元にした映画などの創作フィクションについて、毎回思うのは題材に対してどれだけ誠実で真摯であるかです。
自分が語りたいことを先行しまるでその論拠や手段のように実話を使ったり、感情的な物語をポルノのように提供するために搾取したりということは、とても嫌いです。
消費していく行為は起こるものですが、そのバランスが難しい。
あまりに実直ですとドキュメンタリーになるし、究極のところ、起きたことを再現はできないからです。
前置きが長くなりましたが、結論この「ラスト・ブレス」という映画はプロに仕事をプロが描き出したうえで、その中にあった奇跡を描き出していると思います。
非常にソリッドな出来栄えで無駄が削ぎ落とされていながら、劇的な要素も持ち合わせる。飽和潜水士や彼らを支援するすべてのクルーへの敬意を欠かさないまっすぐさを感じました。
飽和潜水士の“現場のリアル”を伝えるオープニング映像
今作ではOPシークエンスに、飽和潜水士達の仕事を記録した映像のモンタージュが流れます。
この先に映画として映される映像は、”あくまで見やすく綺麗に、そしてトラウマにならない程度に控えています”と言わんばかりに、生々しい。
映像はボヤケ、重く狭苦しい船やベルの中が見えます。そして潜水士の目線のカメラで見える深海は暗く冷たく、重苦しい閉塞感と恐怖があります。
さすがにあの映像の質感でずっと展開されたら、精神的に来るものがありますので、もちろん映画用にクリアな映像になっていきます。
それでも、実作業というよりもそもそもの仕事の環境がいかに過酷で、体力としてもそして精神としても非常に危険なのかを思い知るようなOPでした。
極限状況に集中させる構成
映画が始まると一本道、かつ、全体構成上も場所をとにかく限定して展開してくれるので見入ることができます。
まず今回の潜水が始まると、外のことは一切出てこない。窮地に陥ってしまうクリス。彼を助けようとするダンカンとデイヴ。そしてさらに上にいる船のクルー、船長。
海面上の船と中間地点のベル、そして海底のクリス。3つの場所だけで整理されている。ここで帰りを待つ妻のカットバックが入るとか、そういった劇的な改変も余計な演出もない。
空間的な整理とドラマでも余計な点を含めないことが、目の前の危機への集中を高めていると思います。
また、映画というフォーマットにも合っていますね。時間という制約がありリアルタイムのような感覚。上映時間が過ぎていくこと自体が、クリスの命の危機とシンクロするのでスリリング。
また、ベルの中や船の司令室での各人物とのシンクロも。目の前のことに対して何もできないというもどかしさや悔しさです。
プロフェッショナルを称える“仕事映画”としてのアプローチ
それでも、アレックス・パーキンソン監督は誰しもをプロとして描きます。
その意味でもこの作品は仕事映画。懸命にその場でできることを選択しながら、クリスの救助にあたる。
ドラマを展開することを抑えて、飽和潜水士たちと彼らと一緒に仕事をする各メンバーのプロフェッショナルとしての覚悟にフォーカスしています。
必要以上に劇的にしないバランスは、最後にふとデイヴが写真を観る瞬間のようなささやかさに出ています。
序盤にダンカンが彼を悪いやつじゃないと、クリスに言う。家では可愛い娘の言いなりのパパだと。
ふと、彼もまた家族を残し命をかけていたと思い出す。そういうところ。
アレックス・パーキンソン監督は手堅く焦点を絞った演出と構成から、プロフェッショナルを称える奇跡の実話を映画化したと思います。
こういうシチュエーションスリラーもまた、映画館で体験するのがいいと思いますので、ぜひ劇場へどうぞ。
今回の感想はここまで。ではまた。
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