「スリー・ビルボード」(2017)

  • 監督:マーティン・マクドナー
  • 脚本:マーティン・マクドナー
  • 製作:グレアム・ブロードベント、ピーター・チャーニン、マーティン・マクドナー
  • 音楽:カーター・バーウェル
  • 撮影:ベン・デイヴィス
  • 編集:ジョン・グレゴリー
  • プロダクションデザイン:インバル・ウェインバーグ
  • 美術:ジェシー・ローゼンタール
  • 衣装:メリッサ・トス
  • 出演:フランシス・マクドーマンド、サム・ロックウェル、ウディ・ハレルソン、ジョン・ホークス、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ピーター・ディンクレイジ、ルーカス・ヘッジス 他

「ヒットマンズ・レクイエム」(2008)や「セブン・サイコパス」(2012)のマーティン・マクドナー監督によるクライムドラマ。

主演はフランシス・マクドーマンド、助演にウディ・ハレルソンやサム・ロックウェルが出演しています。

ゴールデングローブ賞にて作品賞、脚本賞、主演女優と助演男優賞を受賞し、アカデミー賞でも7部門ノミネート、受賞の有力候補として期待されている作品です。

私も昨年のアワードシーズンから評判を聞いていたので、すごく楽しみにしていました。

公開日には観れず、その週末に観たのですが、人もそこそこ入っていましたね。何度か思わず目頭の熱くなるシーンがありました。

ミズーリ州、エビングの田舎町。

その郊外の道に、古びた看板が3つある。道を通りかかったミルドレッドは、それを眺めながら何かを考える。

その後、同じ道を夜のパトロールで通りかかったディクソン巡査は信じられない言葉がその3つの看板に書かれているのを発見する。

ここからその看板を巡って、警察署長、ディクソン巡査、ミルドレッドさらには町中の人を巻き込んだ事態が始まるのだった。

予告編を見る限り、口汚くも活発でブラックな笑いのあるコメディ映画だと思っていましたが、確かにとてつもなく笑えるコメディとしても最高ながら、それを飲み込み勝るほどの、心の裂けるような悲劇の映画でありました。

主人公はミルドレッドであるのは間違いないながらも、作品に出てくる主要人物それぞれの視点と、その裏側を知ることで、みんなに共感しそして痛みを知る。

主演陣の演技の素晴らしさはやはり賞レースで目立つのも納得のものでした。

フランシス・マクドーマンドは口汚い、その手のタフな女性としてのカッコよさをしっかり感じさせてくれて、それが笑えるところでもあるのですが、彼女には絶えず罪悪感を感じますね。

怒りは警察、ひいては世界に向いているのですけれど、その中に自分への怒りもあります。自分を赦せない切なさがあるんです。

彼女自身の境遇、そして娘との最後の会話。とても悲しいし悔やみきれません。

彼女は自分にも罰が下ることを期待して、破壊的行為を続けるようにも思えて、単に怒りに突き動かされるだけでない深みを持っていました。

ただやり場のない悲しみを、行動を起こすことで、ある意味軽くしようとしているような。

そしてサム・ロックウェルです。

もう彼が本当に素晴らしい。文句なしに見事です。もちろんディクソンという男の造形が素晴らしいのもありますよね。

彼はとにかく幼いのです。彼も怒りを抱えていますが、その幼稚さには笑ってしまいますし、もちろん端々に出るアホさもすごく楽しいです。

しかし、人種差別的でイヤなヤツと認識してすぐに、彼の環境を見せることで、観客は彼にも哀しい眼差しを送ることになります。

彼は「サイコ」のノーマン・ベイツなんですよね。

強烈で支配的そして強すぎる愛を持つ母がいますから。ああいう毒になってしまう親って常にいる気がします。

正直言って(もちろん出てくるどの人物も厚みがありますが)一番のドラマはディクソンだと思います。

まあこれからナレーションのオファーが増えそうな、ウディ・ハレルソンの見事な語りも良いのですがね。

登場人物はみんな出演時間に関わらず、世界との向き合い方をみせています。

母の行動によって乗り越えようとしていた悲しみに嫌でも向き合わされる、ルーカス・ヘッジス演じる息子。

常に被差別側にいる人物も、それぞれの世界への考え方を伝えます。

世界との向きあい方。

今作の見事な脚本は、人の生を洗い出すことに集中していて、事実に関して大きな捻りはありません。実際映画が終わるとき、解決も正義も与えないのです。

残酷な殺しは解決せず、善人が1人死に、正義は訪れない。

しかしその中で人物たちは、残酷な現実の生き方を変えていきます。

怒りを表す赤の看板、ライトそして衣服が取り払われていき、ミルドレッドもディクソンも、怒りに身を任せるのではなく、愛を忘れずに生きる。

署長は色々な人へ手紙を残したのですが、誰も責めることなく、それぞれに対して最大の愛と敬意を捧げました。

ディクソンは正直涙なしでは観てられない、素晴らしき正義の心をみせてくれます。

一度は正義の証であるバッジをなくしてしまった彼が、最後にそれを見つけるのも、彼の精神自体を示す良い演出ですね。

そしてミルドレッドはたった一人戦っているようで、実はそこには多くの味方がいることを知ります。

子を失った母にはそれを表す言葉すらなく、やり場のない悲しみと怒りに人生を喰われそうになるものです。

ただそれに囚われて負の連鎖を巻き起こすのか、それとも前を向いて生きるのかは選べます。

目的もゴールもなくてもいい、ただ愛を持って生きる中で、その次に何をするのかは決めればいいのです。

あの病室でのように、そっとストローの向きを変える。それだけできればいい。

心の裂けるような現実を見せつけ、その角度を変えて笑わせる。

カーター・バーウェルの美しいスコアとか、ベン・デイヴィスによる窓から放り投げるシーンの圧倒的ワンカットとかも見どころですが、やはりここに示された正義を探すお話が、私はすごく好きです。

ないかもしれないんですけどね。正義なんて。

でも復讐ではなくて正義を信じて生きていれば、いつしかこの世界もなくしてしまったバッジを見つけられると思います。

最後の車内、ミルドレッドの初めて見せる笑顔が最高でした。

そんなわけで、オスカー最有力とも言われている作品のレビューでした。

これは誰しもの癒しになるとも思える作品で、是非見てほしい一本です。それでは、また。

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