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「堕ちた希望」”The Vice of Hope” aka “Il Vizio Della Speranza”(2018)

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映画レビュー
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「堕ちた希望」(2018)

  • 監督:エドアルド・デ・アンジェリス
  • 脚本:エドアルド・デ・アンジェリス、ウンベルト・コンタレッロ
  • 製作:エドアルド・デ・アンジェリス、アッティロ・デ・ラッザ、ピエルパオロ・ヴェルガ
  • 音楽:エンツォ・アビタビーレ
  • 撮影:フェラン・パレーズ
  • 編集:キアラ・グリジットーニ
  • 衣装:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
  • 出演:ピーナ・トゥルコ、マッシミリアーノ・ロッシ、マリーナ・コンファローン、クリスティーナ・ドナディオ 他

第31回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されたイタリアの作品。

監督は”Indivisible”(2017)で高い評価を得た、エドアルド・デ・アンジェリス監督。

主演をつとめるのは、監督の奥さんでもある女優ピーナ・トゥルコ。

今作は同映画祭にて監督賞と最優秀女優賞を獲得しました。

アンジェリス監督新作とは実は知らずにチケットをとっていて、当日ようやく知ったというw 基本的には面白そうだから観た感じです。

上映後のQAには監督と主演のピーナ・トゥルコが登壇してお話してくれました。

イタリアの海沿い、カステル・ヴォルトゥルノ。

そこで娼婦たちをまとめ、自らも娼婦として生きるマリアは、逃げ出した娼婦を連れ戻すことになる。その娼婦は妊娠しており、生まれた子供は里子として売られることが嫌になったのだ。

手当たり次第に逃げた娼婦を探すマリアだが、自身も妊娠していることを知り、彼女の中で何かが変わり始める。

この荒んだ無法地帯の海辺で、マリアは自分の子供を生み育てようとするが・・・

アンジェリス監督は昨年観た「インディビジジブル」で知っていて、そちらもナポリの郊外、海に近い場所を舞台とした貧困を描いた作品でした。

今作にもそのエッセンスは残っていたように思え、醜悪さと美しさが同居する環境が舞台となります。そこは前作よりもより視覚的に押し出されていました。

舞台と同じく、人間社会の最も陰惨な部分のなかで、これ以上なく美しいものが光る対比的なところはファンタジーのようにも感じながら、現実を容赦なく長回しで写し出す点は、ネオレアリズモといってもいいと思います。

オープニングからずっとマリアについて回り、娼婦の控え室にまで踏み込んでいく。ドキュメンタリーっぽくも感じられますが、どこまでも逃げ場のない感覚もありました。

また、やはり舞台がかなり大きな要素になっています。

海辺のマリアたちが暮らす場所は、廃れきって荒んだ場所です。

マリアはじめみんな、ぬかるみにもゴミの山にも気を留めず歩くほど、当たり前となっている醜悪な環境。もちろんそこで行われていることも、麻薬と売春など犯罪行為ばかりです。

娼婦が連れていかれる際のボートはドラムの少し怖い音楽も相まって奴隷船のようですし、あのお馬さんが入れられているところも、マルでアウシュビッツ収容所のような重苦しい感じがあります。

しかし同時に、流れる川と空、日の差し込みや夕暮れの世界が青に包まれる時間など美しいものがあります。

醜悪なものの中に、何かとても美しいものを見いだす、それが今作のテーマかと思います。なので、舞台がメタ的にそれを体現していて素晴らしかったです。

かつては美しい観光地として栄えていたという海辺の一帯。

朽ちた遊園地での一時が最高にファンタジックで綺麗でしたね。このままが続けばいいと願う場面でした。

でもあそこで乗るのが、”洗濯機”と呼ばれるアトラクションなのも苦いですね。結局同じところをぐるぐる回るだけで、外へは行けないんですから。

自由なんて絵空事なのでしょうか?

恐ろしくインパクトの強い娼館を仕切る女主人は言いますね。「希望は質が悪い。得られないものに想いを馳せ身を滅ぼす。」

確かにこんな環境で、どうやって希望を見出だすのでしょうか?

犬は死に、泥まみれで抜け出た先の道路には娼婦がいて、鳴らしたブザーに答える声は冷淡です。

ただ今作では、別の場所へ行くことではなく、自らの力で環境の中に美しいものを見いだすことを描いたように思えます。

酷い環境下でも、少女とのふれあいが眩しく描き出されます。そしてマリアは、彼女を連れて外へ出る。

子を身ごもった娼婦を逃がし、馬を解放したように、彼女は人を解放するんです。マリア自身が命を身ごもったことで、将来に自然に目を向けることになり、そしてそこに希望をつくろうとしたのでしょう。

廃れてしまった中にも希望は見いだせる。

最悪な環境に生まれてしまったとか、恵まれないとか、辛いことは多く感じられるものですが、そんな中にでも、人間はいつも必ず綺麗なものを見出だし、生み出せるのかもしれません。

マリアたちが切り開いた道は険しいでしょうけども、目の前に広がる海には明るい可能性が見えていたと感じるラストです。

アンジェリス監督の人や世界に対する希望。こうあって欲しい現実を、写実的かつファンタジックに描く美しい作品でした。

今回はこのくらいです。

アンジェリス監督の前作のインディビジブルもそのうち感想をあげたいですね。それではまた次の記事で。

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