作品解説

ベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が手がけたヒューマンドラマ。
「トリとロキタ」などで知られるダルデンヌ兄弟が、母子支援施設で暮らす5人の若き母親たちの姿を通して、孤独や不安、そして「愛すること」の意味を丁寧に描き出します。
支えを必要としながらも、それぞれに異なる事情や痛みを抱える少女たちの人生を見つめた群像劇となっていて、監督たちとしてははじめてのアプローチになっています。
「CLOSE クロース」のルーカス・ドン監督が共同プロデューサーとして参加しています。
2025年には、第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、脚本賞とエキュメニカル審査員賞を受賞。
ダルデンヌ兄弟ならではのリアリズムと人間への深い眼差しが高く評価された作品です。
スタッフ
- 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
- 製作:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ/デルフィーヌ・トムソン/ドゥニ・フロイド
- 共同製作:ミヒール・ドン/ルーカス・ドン
- 脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
- 撮影:ブノワ・デルボー
主要キャスト
- バベット・ベルベーク:ジェシカ役
- エルサ・ウーベン:ジュリー役
- ジャナイナ・アロワ・フォカン:アリアンヌ役
- ルシー・ラリュエル:ペルラ役
- サミア・ヒルミ:ナイマ役
ダルデンヌ兄弟新作なのでもちろん公開初週に観に行ってきました。さすが監督たちの作品なので映画ファンが集まっていて劇場は結構混みあっていました。
〜あらすじ〜

若くして妊娠し、支援施設で共同生活を送るジェシカ、ペルラ、アリアンヌ、ジュリー、ナイマの5人の少女たち。
彼女たちは、それぞれに貧困や暴力、家庭環境の問題を抱えながら、頼れる存在の少ないなかで母親になる現実と向き合っていく。
戸惑いや不安、孤独に揺れながらも、「誰かを愛したい」「愛されたい」という思いを胸に、自分なりの家族のかたちを模索していく少女たち。
支え合い、ときにすれ違いながらも、彼女たちは少しずつ自分自身の人生と未来を選び取っていく。
感想レビュー/考察

ダルデンヌ兄弟らしい“寄り添う視線”
ダルデンヌ兄弟監督作品を観てきたなら、そのドキュメンタリックな眼差しは知っていること。
今作もその例に漏れず、対象となる人物に寄り添い同じ視点で同じ空間を過ごしていく。
当事者を観察物としてみずに、観客と彼らを重なり合わせるための中継として機能する。
全く同じ経験ができなくても、たった90分くらいの中で、遠く離れた地の、バックグラウンドも異なる人物のことをできる限り知り同じように感情を共有する。
非言語型の世界共通言語として映画がはたせる役割を突き詰めているだけで、私はものすごく好きになりました。
初の群像劇だからこそ見えてくるもの
そのうえで今回は5人の主人公を追いかけ、彼らを支援する人々や人生を左右する人物たちを見つめる。
ダルデンヌ兄弟としては初めて群像劇タイプの作品となっています。
なんの説明もないままに始まる作品。少女が誰かを待っている。電話をしつつ、彼女が待っていたと思われる女性に声をかけるが、どうやら相手ではないようです。
こんな感じで放り込まれるかたちで映画はそれぞれの少女の境遇を語っていきますが、とても良い構成だと思います。
まずはこういった彼女たちの人生が、今始まったわけではないことが伝わるから。
映画が始まるよりも前から続き、それぞれの過去を持って今に至っている。
それが実存性を高めてくれていると思います。
そして、構成上不要な説明がないために、それぞれの会話だったり表情から、状況を探ったり考えたりして観客が飲み込んでいく。
観客を踏み込ませること。
一方的に語られたり眺めるだけではなくて、少女たちに何が生きているのかを理解しようと考えさせるから、前に出ていく。
そうでなければ、社会学習になります。
ただこうした手法自体はダルデンヌ兄弟の十八番みたいなものなのでそれ自体は珍しいのではなくて、やはり流石だなというところです。

“社会問題の紹介”で終わらせないストーリーテリング
群像劇にしてきたその理由を監督がインタビューで語っています。
実際にこのような若い母親たちの支援施設を取材・見学したところ、どうにも一人の物語では語り切れなかったとか。そして複数人の様々な人生と葛藤を描くべきと思い、複数人の物語にしたようです。
そこでもさすが、それぞれのケース紹介にしないように工夫を凝らしたと語っています。
このただの社会課題紹介にしないで、あくまでドラマとしてストーリーテリングを行う点がとても素晴らしいと感じます。
支える大人と、傷つける大人
少女たちを囲っているのは正反対の大人たち。
支援施設の大人たちは真っ当です。彼らの描写は彼らを主役にしない程度にしつつも、大事な姿勢を描き込んでいると思いました。
それは彼らが母親たちの子育てを代替するわけではないこと。母親になること、自立していくことを支援にしている点です。
当番制の家事がありそれを守らせ、赤ちゃんの世話の仕方を教え、必要以上には個人的な話題には踏み込まない。
支援側の難しさも感じながら、ここも支援そのものを主軸にしないであくまで5人の少女にカメラを向けている、描き方がとてもいいバランスでした。
その一方で少女たちの家族が、見ててつらい。娘にモラハラかましつつ、結局は手を上げる毒親。認知せず遊び回る男。ロクなものがいません。
特に毒親の母は結局は自分自身が寂しくなることとか、自分のことを主語に語ってくるのがリアルすぎて吐き気がしました。
娘のために、あんたのためにと口では言いながらもすべてが自分に向いている。
またジムのオーナーで、一人の少女を妊娠させた少年の親たちがいますが、あれも。。。まずもって迷惑だとか、移民のくせにとか、自分たちも子供産んだはずですよね?人の親ですよね?
いままさに妊娠していて、不安を抱える少女にかける言葉じゃないだろう。

痛みを知るからこそ、誰かに寄り添える
強い憤りを覚えたり、不安と怖さに包まれたり。ダルデンヌ兄弟はそれぞれのエピソードを同じような感情動線で進行します。
なので、映画全体の感情の波が統一されていて、複数のストーリーでも散漫にはならない。また、抱えている痛みを知った少女が、別の少女のストーリーにかかわって、優しく支えてくれる時。
この子だってすっごくつらいことがあったのに、こうして今施設の別の子に寄り添って、、、と思うことができるんです。
ただ支えられるだけの存在ではなくて、周りの人のために行動できる、そんな少女たちの素敵さと実存性を垣間見せながら、背景にいる”優しい友人”以上の意味を感じさせる。なんとも素晴らしいストーリーテリングです。
この映画の根底にあるのは“愛されたい”という願い
この実存性を結び付けているのが、究極は愛の渇望だと思います。
未成年の妊娠。家庭問題。養子縁組。さまざまな社会問題を提起している作品ですが、見ている誰しもが個人的につながることができると思うのです。
なぜなら根底に抱えているのは、愛されたいこと。愛したいことだから。
みんな誰かに愛してほしいし、そして本気で愛せる相手も探している。若き母親たちは自分だって愛されたいのと、我が子をちゃんと愛していきたい気持ちとで押しつぶされそうになる。
誰もが共感できる。
ダルデンヌ兄弟の今作の、過去作との大きな違いは、その終わり方になると思います。苦い現実を突きつけてきたような過去作品に比べて、今回はみな明るい未来を描いているのです。
ずっと先の将来、15歳の自分が18歳になっている娘に送る手紙。近くに自分を愛していくれる家族がいて、そこに居場所を見つけて。
本当に支えてくれる人のもとで、家族になっていく。美しく明るい音色のまま迎えるエンドロールが最高です。
もう言う必要もないのですが、やはりダルデンヌ兄弟の手腕は素晴らしい。大きな感情の波に乗せて5人の若き母親のそれぞれの物語を語りながら、個人として観客とつなぎ優しさで送り出す。
非常に美しくおすすめの作品でした。こちらぜひ劇場へ観に行ってほしいです。
今回の感想はここまで。ではまた。


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