「CLOSE/クロース」(2022)
作品概要
- 監督:ルーカス・ドン
- 脚本:ルーカス・ドン、アンジェロ・タイセンス
- 製作:ディルク・インペンス、ミシェル・ドン、ミシェル・サン=ジャン
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音楽:ヴァランタン・アジャディ
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撮影:フランク・ヴァン・デン・エーデン
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編集:アラン・デソヴァージュ
- 出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワール、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール 他
「Girl/ガール」で衝撃のデビューを飾ったルーカス・ドン監督により長編第2作品目。
兄妹のように近くで育ってきた二人の少年の、青春と別離を描いたカミングエイジドラマです。
作品はカンヌ国際映画祭にて上映され、パルムドールを争いました。監督がグランプリを獲得しています。
その後も今作は高い評価を受け続け、アカデミー賞ではベルギー代表として出品され外国語映画賞にノミネートされました。
主演は今作で初めて演技をするエデン・ダンブリン。彼は監督が列車の中で見つけたのだとか。
その他「ロゼッタ」などのエミリー・ドゥケンヌ、「ジュリアン」や「地下室のヘンな穴」などのレア・ドリュッケールらが出演しています。
アカデミー賞前哨戦あたりからタイトルを聞いていて、ルーカス・ドン監督の新作ということで注目をしていました。
公開日の朝一で観てきました。
~あらすじ~
農家の少年レオと彼の親友レミ。
2人は兄弟のように親しい中で育ち、互いに遊び一緒に寝ているほどに親密だった。
2人は13歳になり中学に進学する。するとクラスの中で二人の仲の良さを「付き合ってる。恋人同士」と揶揄する子が現れ始めた。
反論するレオであったが、次第にレミと距離を置いて避けるようになっていく。
そしてある日、わざとレミを置いて一人で登校したレオ。レミは自分を無視し突き放すことを問い詰め二人は大喧嘩する。
その後しばらくしたのち、レミは校外学習に来なかった。友達と遊ぶレオであったが、クラスで学校に戻ってくると保護者達が集まっている。
そこで告げられたのはレミとの別れだった。
感想/レビュー
クィアよりも幼少期と成長にフォーカス
ルーカス・ドン監督というと、鮮烈な前作の「Gir/ガール」のデビューを忘れている方はいないでしょう。
一部から批判を集めてしまい議論になったこともありますが、何よりクィアの心と身体の痛みに関する切実な物語性は記憶に焼き付くものです。
今作もクィアが登場していると監督は以前語っていますが、セクシュアリティの所在に関してはもっと曖昧であります。
だからこそ青春やカミングエイジの物語として普遍的になっているように感じます。
クィアの悲哀とか切ないロマンスを期待するとそれあ外れてしまいます。
しかしきっと、無垢さや幼少期に何か大事なものを失った気持ち、それこそが成長であるというような苦い想いで胸がいっぱいになるはずです。
2人だけの世界、その喪失
OPの少年たちの呼吸音と小声での会話、レオとレミは想像上の遊びをしています。きっと敵軍に囲まれた兵士のごっこ遊びでしょう。
でもそれは非常に重要です。
つまり二人は、二人だけの世界を共有している。彼らだけに見えている、彼らだけが存在する特別な世界を持っているのです。
そしてそこから花畑を駆け抜けるシーンのあまりに美しさに、開始早々心を持っていかれますね。
だからこそ、もう一度似たように遊んでいるレオとレミのシーンで、レオがその世界を拒絶してしまうので本当に胸が痛いのです。
レオはレミの母とも親しく過ごしていて、まるで二人の息子を持っているかのようで。
食卓を囲んでいるシーンなども暖かな色彩と明かりの柔らかさが素敵です。画づくりの時点で本当に目が幸せです。
2人寄り添って寝ているシーン。絆でつながった存在の横顔。レオの方がレミに近い。この後での逆転やケンカを考えると辛い。
レオは眠れないレミを寝かせていますが、安心しリラックスできる相手なのですね。
幼少期との必然の別れ
ただふとしたきっかけで友情は壊れていく。
これはレミのセクシュアリティか、それともレオのセクシュアリティか。今作は先にも書いたようにその点を明らかにはしません。
ただ、外部環境によって二人の関係性が大きく変化したのです。
それを見ていると、幼少期にだけ許された、ある種性別を超えたつながりというモノが、成長ゆえに剥ぎ取られていくように見えます。
大人になっていく13歳。ティーンですね。
厳しいですが、レオとレミのような関係性に限界が来る。
幼子が親に触れているような、純粋な愛情と親密さ。
そこに、(根底には差別意識がある)好奇心の質問がぶつけられる。
成長していくレオは社会的な立ち位置での危機を感じ取り、身体的にも心理的にもレミを遠ざけてしまいます。
レオを演じたエデン・ダンブリンの素晴らしい演技は、感情を爆発したりふざけているところだけでなく、静かに佇み視線を送っているところで顕著ですね。
黄金の髪と美しいルックもあり今後の活躍が期待されます。
喪失と処理
今作のネタバレですが、レオは自殺してしまいます。
映画の後半についてはその事実についてレオが向き合っていくことになります。
悲しみの扱い方に関して、ルーカス監督の描写は素晴らしかった。
ドラマチックなことや独白は結局のところなくて、言いたいことや思っていることすら言えない。
ただレミの母に視線を送り、面会してもうまく言葉の出ないレオを映す。
レオの兄がこれからのことを話し、それは他愛もない日常の会話ですが、レミにもあったかもしれず決してこない将来のことを聞くと、レミの父は泣き崩れます。
演説はない、ただ静かにその人物それぞれの反応が抱えきれない悲しみや後悔を映し出していました。
レオの独白を聞いて「車から降りて」と言ったレミの母の率直さも、自責の念が強いからこそ自衛を見せたレオも、誠実な描き方であったと思います。
この作品はおおよそ一年を通しての期間で描かれています。
OPで駆け抜けた花盛りの畑。そこから季節は進み、二人の友情が終わるときに夜の闇の中伐採が行われる。
この関係性の流れを四季に映したならば、それは変えがたい流れであり逆行することも停止することもできないということです。
ただ、また春が来るものなのだという意味では少し希望もあるのかもしれません。
先へ進むこと
激しい喪失と自責の念を抱えたレオ。
幼少期や純朴さは成長するうえで離れなければいけないものなのですね。
死別や自殺、そこにクィアな色合いも。おそらくレオの方がクィアなのかも?
あえてマッチョな世界であるアイスホッケーに傾倒していったりする部分が、その裏返しなのかと推察してみたり。
素晴らしい演技に真摯で正直な描写。誰しも寄り添えるような幼少期との別れ。
全てを美しい撮影が包み込み、心を痛めながらも優しく包んでくれる素敵な作品でした。
これはかなりお勧めの一本です。
今回の感想はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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