「ベン・イズ・バック」(2018)
- 監督:ピーター・ヘッジス
- 脚本:ピーター・ヘッジス
- 製作:ピーター・ヘッジス、ニーナ・ジェイコブス、テディ・シュワルツマン、ブラッド・シンプソン
- 製作総指揮:ジェーン・ネルリンガー・エヴァンズ、マイカ・グリーン、ダン・フリードキン、ミッキー・リデル、ピート・シレイモン、ダニエル・スタインマン、ベン・スティルマン、ピーヴァン・トーマス
- 音楽:ディコン・ハインクリフェ
- 撮影:スチュアート・ドライバーグ
- 編集:イアン・ブルーム
- 出演:ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジス、キャスリン・ニュートン、コートニー・B・ヴァンス、マイケル・エスパー、デヴィッド・サルディヴァル 他
「アバウト・ア・ボーイ」、「エイプリルの七面鳥」などのピーター・ヘッジス監督が、薬物依存症の息子を抱える母を描くドラマ映画。
母親はジュリア・ロバーツが演じ、タイトルでもある息子のベンを「ある少年の告白」などのルーカス・ヘッジスが演じます。初めての父子での映画製作になりますね。
そのほかに、「名探偵ピカチュウ」のキャスリン・ニュートンも出ています。
今作はジュリア・ロバーツの演技が批評面で絶賛されています。自分はそれに加えて、最近大活躍のルーカス・ヘッジス出演ということで期待していました。
今回は地元のミニシアターにて鑑賞。場所柄なのかまあシニア層多めで、若い人はいませんでした。あと、人が少ない・・・
クリスマス・イブ。ホリー・バーンズのもとに息子のベンが帰ってきた。
ベンは薬物依存症の治療のため施設にいたのだが、支援者のアドバイスもあってクリスマスは家族と過ごすことになったという。
息子との再会に喜ぶホリーだが、再婚相手であるニールや娘のアイヴィーは不安そうであった。
なぜならベンは以前にも施設を抜け出して家に戻り、問題を起こしたことがあるからだ。
ホリーは家族の反対をベンの監視をすることで押し切り、クリスマスをともに過ごすことになる。
しかし、ベンが帰ってきたことは町に知れ渡り、それは知らせたくない相手にも知られてしまう。
ピーター・ヘッジス監督のこの家族ドラマは、展開が目まぐるしく、抑制されているもののスリラー映画というテイストになっています。
特にベンの過去がものすごい勢いで家族を侵食し始めたとき、そこからは先の読めない闇へ進んでいきます。
しかしこれはベンの物語ではありません。母ホリーの物語です。
信じたいけれども信じられない息子に、屈辱的な行為ですら行って寄り添い続ける母の物語。ジュリア・ローバーツの絶賛される演技も納得。
ベンと共に街を走っていく中で、次々と自分の知らない息子の世界が明らかになっていく。彼女の恐怖と不安がうずまきながら、それでも母として息子についていかなければいけない気持ち。
全てが真摯で真っ直ぐで、心に訴えてきます。ベンを待つ車中のあの不安すごかった。
誰もベンを信じられません。
再婚相手であるニールも、妹のアイヴィーも、最初から最後までベンを信用できない。それだけのことがあったのです。
今作はベンの薬物依存のきっかけ、過程、過去の過ちを説明しません。全て今とこれからだけを見せていく手法です。
まさに「過去は変えられない、でもこれからの生き方を変えるんだ。」というベンの言葉通り。
ただ、この現在に描かれる人々の関係やリアクションからベンのことや過去を察するのは容易です。
第一、実の兄をあれだけ信用できず怖がる妹をみるだけで、傷の深さははっきりしていますよね。
この積まれた重みが振り返りではなくてスクリーンで進行していくものを通して語られるスマートさが結構好きです。
一瞬たりとも止まらない。
たとえ家族であっても、一度裏切られたら二度と心から信じることはできません。
過去が脳裏によぎり、また裏切られ傷つけられるかもしれないと思うはずです。
そういう意味では、この作品はベンが依存に陥ったことでどれだけ周囲の人間関係が壊れてしまうのかを描いています。
薬物そのものではなく、それよってもたらされる信頼関係の崩壊。
ベンの描写自体、窓ガラスから家の中をのぞくシーンで登場し、”Let’s go crazy!”とか歌っていたり、電話の内容も不明瞭、かなり観客にとっては信用できない描かれ方。
そこでなお、ホリーはベンに着いていこうとし、縁を切ってもおかしくない状況でも息子を信じ続ける。
いや、信じてはいないのでしょう。ただ信じようとして、信じていると訴え続けるのです。
なぜなら、もう誰もベンを信じていないから。
母が信じることをやめてしまったら、ベンは本当に戻ってこれなくなるのです。
ニールやアイヴィーの気持ちもわかるくらい、正直おかしいレベルで息子を守ろうとするホリー。
観てて最初はやりすぎに思えたんですが、過剰な態度は母として、息子を救えるのがもう自分しかいないことを知っていたからでしょう。
他人から見れば狂っている、それが母の愛なのかもしれません。
ピーター・ヘッジス監督は薬物依存ではなく、それがもたらす周囲の崩壊と不安、恐怖をスリラーに落とし込みました。
信じてあげたい人が信じられないけど、それでもなお信じようとするってこんなにも勇気がいるのです。
ジュリア・ロバーツの演技がとてつもない力で引っ張ってくれる作品でした。是非劇場で観てみてください。
感想はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございます。
それではまた。
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