「ふたりの女王、メアリーとエリザベス」(2018)
- 監督:ジョージ―・ルーク
- 脚本:ボー・ウィリモン
- 原作:ジョン・ガイ 『Queen of Scots: The True Life of Mary Stuart』
- 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、デブラ・ヘイワード
- 製作総指揮:アメリア・グレンジャー、ライザ・チェイシン
- 音楽:マックス・リヒター
- 撮影:ジョン・マシソン
- 編集:クリス・ディケンズ
- 衣装:アレクサンドラ・バーン
- メイク・ヘアスタイル:ジェニー・シャーコア、マルク・フィルチャー、ジェシカ・ブルックス
- 出演:シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ガイ・ピアース、ジェンマ・チャン、デヴィッド・テナント、マリア=ヴィクトリア・ドラグシ 他
「レディ・バード」などのシアーシャ・ローナンと、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のマーゴット・ロビーが、スコットランドのメアリー・スチュアートとイングランドのエリザベス1世の二人の女王を演じる歴史ドラマ。
監督のジョージー・ルークは今作で監督デビュー。彼女はイギリスの舞台中継を衛星で各国の劇場で観れる「ナショナル・シアター・ライブ」で美術や舞台などを手掛けるのがメインの人ということです。
原作としては歴史そのものというより、評伝をもとにしています。
アカデミー賞にて本作は衣装賞とメイクアップ・ヘアスタイリング賞にノミネートされました。
主演の二人が好きなので演技を楽しみに公開日の夜に鑑賞。まあそこそこ人は入っていましたかね。そういえば、今作の侍女役の一人として、「エリザのために」のマリア=ヴィクトリア・ドラグシが出ていますよ。
16世紀。フランス王の妻であったメアリーは、夫の死をきっかけに故郷であるスコットランドへ帰ってくる。
しかし当時スコットランドはすでにイギリスの影響下にあり、イギリス女王エリザベス1世は、メアリーがイングランドの王位継承権を主張し力を増すことを危惧していた。
結婚しておらず子供もいないエリザベスに対し、メアリーはイングランドでも有力なダーンリー卿との再婚を進め、子を授かり権力を増そうとする。
お互いに権力と男の世界に生きるふたりの女王だったが、次第に彼女たちは陰謀に包まれていく。
私は歴史に疎い人間で、正直言って名前を聞いたことはあるけれど、どんな歴史的事実があるのかとかは全然知らない状態でこの作品を見に行きました。
そんな私にでも、この作品を観れば、大体の流れが分かり、また多く登場する人物や、彼らの動きに関してもしっかり追っていける作りになっています。
世界史に詳しいとか、イギリス、スコットランドの知識があるとか(もちろん色々知っていればそのぶんまた楽しいでしょうけれど)、あまり敷居を高く感じずに観ることができる作品です。
私は今作を、主演であるシアーシャ・ローナンとマーゴット・ロビー目当てで見ました。
その点に関してはもう大満足というか、やっぱりこのふたり、本当に素晴らしい女優さんだなと改めて感動させられてしまいましたね。
シアーシャ・ローナンは今作で、だいぶ感情豊かなシーンの多いメアリーを演じていて、彼女の時に冷酷にもかつ悲哀に満ちた部分も、喜びも恐怖も幅広い表情で演じて見せていました。
基本的に「ブルックリン」の時から、接写大歓迎の抑圧しての、表情によらない感情表現がとても好きで、今作も泣きわめくようなことは少なく、強い主張の中にわずかに怯えや悲しみを覗かせてくる感じが多くて良かったです。
フランス訛りの入った?アクセントもすごく良かったですし、画面支配の存在感とか素敵です。
ただそれでも、今作で内包する感情を繊細に見せていたのは、エリザベス1世を演じるマーゴット・ロビーでした。
わりと高圧的でクレイジーな女性役とかしかみたことがなかったので、今回の静かで悲しい女王の演技にやられてしまいました。
歴史ドラマとして、そのテクニカル面でのレベルの高さも感じます。
時に舞台っぽいなと思う場面もありはしましたが(女王同士で会うベールの多い小屋とか、謁見の間とか)、遠景との対比構造、奥行きある軍列、尾根を駆ける馬など映画らしくて好きです。
また美術面においても、衣装と合わせ、止めればそのまま絵画にできるほど綺麗にまとまっています。
演者もしっかり馴染んでいますしね。
マックス・リヒターのスコアも、あまり主張が強すぎないぐらいで、この時代に入り込める没入感を引き立てていると思いました。
唯一作りで不満というかもったいないなと個人的に感じてしまったのは、その長さでしょうか。
短いです。いや、上映時間こそ普通ですが、エモーショナルかつ大きな出来事が連続するので、どこか大河ドラマシリーズのダイジェストのように感じてしまったのです。それでも、次から次への陰謀や悲しみなどドラマチックの連続をしっかりドラマチックにしてしまう技術や演技の高さが素晴らしいわけですが。
全体にテンポも良いのですが、それこそ往年の大作のように3時間越えでインターミッションがあっても良いかなと。今どきの観客は嫌がるのでしょうかね。
まあもっと深くじっくり観たいと思ったということです。
割りと現代風の背中を追うトラッキングショットに始まり、二人の女王の全く違う行く末を感じさせるオープニング。
赤のドレスで色を印象付け、遠景にてエリザベスの存在を意識させ、互いにクライマックスまで会いもせず二人の主人公と彼女たちの繋がりを描くのはすごい職人芸だなと。
女性は女王か侍女しか出てこない今作。
侍女は仕えるものであり、女王は君臨する。しかし、メアリーはなんとか女性のまま君臨しようとし、感情を優先させて開放を目指します。男性ばかりの社会の中で、「妻になる、母になる」ことを拒み、メアリーのまま女王になろうとするのです。
一方でエリザベスは女性であることを捨て、感情を抑え、男になることによって女王に君臨しました。
前者も後者も、道は違えど女王であろうとした。
この二人だけが、海を越えて常に互いを、宿敵でありこの世界唯一の理解者であり拠り所として心にとどめていたのです。
あまりに時代に翻弄されてしまうその様に悲哀を感じつつも、女王として長く君臨したエリザベス、そして願いであった正当な王位継承の道筋を作ったメアリーはどちらも想いを遂げることができたのかなと思いました。
さすが舞台出身の監督で、素晴らしい美術や衣装が楽しめますし、各セクションのレベルの高さで完成された世界に入り込み楽しめます。
シアーシャもマーゴットも、この歴史ドラマと人物に相性が良かったようで、またそれぞれ幅のある演技を見せてくれています。
もっと見たいというのが不満というくらいで、かなり楽しんだ作品でした。せっかくのスケールやディテールなので、ぜひ劇場のスクリーンでご鑑賞ください。感想はこのくらいです。それではまた。
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