「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」(2019)
- 監督:タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ
- 脚本:タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ
- 製作:アルバート・バーガー、クリストファー・ルモール、リジェ・サーキ、デヴィッド・シエス、ロン・イェルザ、ティム・ザジャロフ
- 製作総指揮:カーメラ・カシネリ、マニュ・ガルギ、アーロン・スコッティ、ティム・シュライヴァー、ミシェル・シーエ・ウィッテン
- 音楽:ザカリー・ドーズ、ジョナサン・サドフ、ゲイブ・ウィッチャー、ノア・ピケルニー
- 撮影:ナイジェル・ブルック
- 編集:ナサニエル・フラー、ケヴィン・テント
- 出演:ザック・ゴッサーゲン、シャイア・ラブーフ、ダコタ・ジョンソン、ジョン・バーンサル、ブルース・ダーン 他
タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ監督コンビが初めての直編作品として制作のアドベンチャードラマ映画。
主演はキャラクター同様ダウン症を抱えるザック・ゴッサーゲン。
そして彼と冒険を共にするのは、「アメリカン・ハニー」などのシャイア・ラブーフ。
また「サスペリア」のダコタ・ジョンソンも彼らに加わる施設職員を演じます。
今作自体は2017年ごろから製作、ニュースリリースもありましたが、シャイアが起こした飲酒事件と差別的な発言が問題視され公開が難航しておりました。
その後ザックの発現を受けてシャイアも真摯に更生に向かい、ついに2019年になって公開までたどり着くことになりました。
作品はSXSWにてプレミア上映され、観客賞を受賞。批評面、観客面両方から好意的に評価を受けています。
ちょうど北米公開タイミングがよく劇場観賞してきました。
入りはそこそこでしたが、笑いの絶えない良い劇場体験でした。
ダウン症の少年ザックは身寄りもなく、今は老人ホームに暮らしている。
彼の夢は憧れのプロレスラー、ソルト・ウォーター・レッドネックの養成学校へ行き、レスリングを習うこと。
彼は友達の助けで施設を脱走すると、単身レッドネックの学校を目指す旅に出る。
ザックは地元の漁港で問題を起こしたお尋ね者のタイラーと出会い、成り行きで二人は行動を共にすることに。
さらにザックを追いかけてきた施設の職員エレノアも加わり、一行は揃ってレッドネックのいる南部への冒険に出るのだった。
「フォレスト・ガンプ/一期一会」や「レイン・マン」を思わせる障がいを抱えた人を主人公にした冒険物語。
ザック、タイラーそしてエレノアの3人が送る旅は心暖まるものであり、観客の記憶に残るものだと感じます。
特にザックとタイラーの擬似兄弟は映画しにおける冒険コンビの中に名を連ねることになるのではないでしょうか。
実際に障がいを抱えた人の描写が正しいのかは分かりません。
批評紙などはそのレベルの高さを好意的に見ていますが、私に分かるのはザックが素晴らしい人だということだけです。
監督が障がいを抱えた人たちのワークショップに参加した際に、「俳優になりたい」という夢を明かしたザック・ゴッサーゲン。
彼に充て書きして書かれたというこの脚本も、ザックをプロット進行のきっかけや慰み者にせず、彼は真の主人公として描かれます。
途中タイラーが「ルールその1は?」と聞くシーンで、「パーティ!」と答えるあれ、ザックのアドリブとのことです。
今作以前の演技は短編出演だけということですが、間違いなく俳優としての力量を感じさせるザックは本当に魅力的です。
彼がチャーミングだからこそ、この作品は成り立っていると感じました。
そんなザックに影響を受けながら、贖罪の旅をも経験するシャイア・ラブーフ演じるタイラー。
シャイアの小汚いけどやっぱいい男なところもあり、そして根底にあるのが悪さではないところからくる暴走もはまっています。
これまたいい感じに過去の人を演じるジョン・バーンサルですが、喪失がこの作品の3人の結び目です。
ザックは家族に捨てられ、タイラーは兄を失い(しかも自責の念にかられている)、未亡人となっているエレノア。
拠り所のない人々が疑似家族を形成していく冒険は、タイカ・ワイティティ監督の「ハント・フォー・ザ・ウィルだーピープル」につながる点も見受けられます。
特にザックとタイラーが兄弟のように結ばれていき、二人で大自然の中無邪気に遊んでいるシーンは生命力と喜びにあふれ本当にスクリーンを眺めているのが幸せでした。
二人だけのオリジナルのアクション、そしてタイトルであるピーナット・バター・ファルコンの誕生。
タイラーとの”善玉”か”悪玉”かの会話には、人の歩む道や可能性が込められています。
あそこで「ダウン症はヒーローになれない」というザックに、「ダウン症がお前の心と何が関係あるんだ?」とタイラーは答えます。
そして自分は善玉かハッキリと答えられないタイラーに対し、ザックは良いやつだと伝えます。
お互いに人生を照らす、この相互のやり取りのなんと暖かいこと。
へんてこりんな洗礼の後の川下り、タイラーは涙ながらザックにもたれかかり、その肩をザックは優しく抱くのです。
映画の序盤、ブルース・ダーン演じるカールはこんなことを言います。
「友達ってのはお前が選べる家族なんだ。」
兄を失い夫を失いそして身寄りがない。何かが自分には欠けている。だから幸せにもヒーローにもなれないのか。
そんなことはない。ダウン症のザックはそのピュアなハートによって奇跡を見せます。それがどれだけの人を救ってくれるか。
タイラー・ニルソン、マイケル・シュワルツ監督二人はダウン症を魅力として炸裂させる脚本を繰り出し、素晴らしい俳優ザック・ゴッサーゲンの力を引き出すことで古典的ともいえるアメリカのアドベンチャーをくれました。
本当に笑いながら泣いていた素敵な映画体験で、そして私は旅を一緒にしたような、あの3人みんなが大好きです。
本当におススメの作品でした。
完全に余談ですが、一度問題を起こしたシャイアに対し、ザックは「君は有名だけど、僕にはこれが唯一のチャンス。それを台無しにされてしまった。」とコメント。
そしてこれを聞いたシャイアが心を入れ替えてリハビリと更生に努めるという、その構造こそまさにタイラーとザックのようで、ザックはシャイアも救ったのだと考えると胸が熱い。
ということで感想はここまでとなります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。ではまた次の記事で。
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