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「アメリカン・ハニー」”American Honey”(2016)

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映画レビュー
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「アメリカン・ハニー」(2016)

  • 監督:アンドレア・アーノルド
  • 脚本:アンドレア・アーノルド
  • 製作:トーマス・ベンスキー、ラース・クヌードセン、ルーカス・オチョア、ジェイ・ヴァン・ホイ、アリス・ウェインバーグ
  • 撮影:ロビー・ライアン
  • 編集:ジョー・ビーニ
  • プロダクションデザイン:ケリー・マギー
  • 美術:ランス・ミッチェル
  • 衣装:アレックス・ボヴェアード
  • 出演:サッシャ・レーン、シャイア・ラブーフ、ライリー・キーオ 他

ずっと見たかったのですが劇場公開の予定が出ないので北米版BDにて鑑賞。

こちらはイギリスの監督、「フィッシュタンク」(2009)などのアンドレア・アーノルドによるロードムービー。英国インディペンデント映画祭にては監督賞を受賞しました。

何よりこの作品が観たかったのは、全くの無名から大注目の女優となった、主演のサッシャ・レーン。今作での演技が高い評価を受けたこともありますが、これが初めての演技経験というのも驚きです。今作を機に様々な作品からオファーされましたね。

そして今ではお騒がせ俳優としてみられているシャイア・ラブーフも輝いていると言われ、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015)で妻たちのひとりを演じたライリー・キーオも出演しています。

中々に長尺な映画ですが、これは観る価値があり、また流れる時間は身をゆだねてずっと見ていたいようなものでした。今からでも映画館でやってほしい。日本未公開はもったいないです。

自分の子でもない小さな子供を2人世話し、ごみを漁り街をさまよう少女、スター。

家では自分を”パパ”と呼ばせるラリッた男が彼女の体を弄ぶ。

光の失われた世界で、ある日彼女は一人の青年と出会う。若者の集団を引き連れてスーパーマーケットへと入っていく青年。

スターは彼を見つめ、彼もスターを見た。このジェイクという青年は、雑誌を売りながら旅する集団の一人で、スターをその旅に誘ってくるのだった。初めは乗り気ではないスターだが、この希望のない場所から逃げ出すように、ジェイクたちのバンに飛び乗るのだった。

どうやったらこんなものが撮れるのでしょうか。

キラキラしていて、すごく悲しくて楽しくて、先がなくてずっと流れていく。

ほとんど真四角に近いアスペクト比で、ライティングもなく映し出されていくこの若者たち。ドキュメンタリーのように切り取られた現実。観客も彼らと共に車に乗り風を受け、歌を歌いながら夜を過ごすのです。

一緒にこのアメリカを渡っていく。本当にただあてもなく流れていくこの若者たちと同じように、この作品にも当てはないのです。テーマもプロットも、目的もゴールもない作品。その流れの心地よさは本当に素晴らしいものでした。

ゴミを漁るスターから始まり、畳み掛けるようになんの希望もない凄惨な現実を示すオープニング。この部分で既に私の心はズタボロでしたが、それだからこそジェイクと出会うあのスーパーが印象的になります。

リアーナの”We Found Love”の歌詞の通り、”We found love in a hopeless place”「希望の無い場所で愛を見つけた」あの瞬間。

今作で輝くサッシャ・レーン、そしてシャイア・ラブーフ。この2人が互いを見つけたあの瞬間に魔法が起きています。現実的な手触りの、演出を感じない画面だからこそ、彼らの出会いがより決定的に映るのですね。

彼らのヘッドとなる女性、クリスタルを演じるのが、ライリー・キーオ。彼女が怖いのなんのって。

若者をまとめ上げる彼女だけは、部屋をとり金を集め分配する。

集約点となりつつも、彼女が何をしていて何者なのかが皮肉にも不透明ですね。私はこのクリスタルにアメリカの貧困層の縮図を見た気がします。

貧しく学もなく、そして何よりも環境が劣悪。そんな若者こそ簡単に支配できる。極めつけに思えたのは、あの超セクシーなビキニで、日焼けした肌をだしながらジェイクにローションを塗らせるシーン。彼女のビキニが星条旗柄なのがなんとも言えず象徴的でした。

彼女はアメリカ資本主義の権化。「必死になり金を稼ぐ。稼ぎたくないの?」と問い、スターは「稼ぎたい。」と答える、いや答えさせられますね。

旅をして回る若者たち。彼らの一人一人は全くの素人で、その場での彼ら自身のノリによるじゃれ合いも多いようです。本当に海外で若者の集団を見るときの、あの感覚。

先ほどのリアーナもそうですが、今作では多くの楽曲が流れます。そして反対に、スコアは全くない。彼らの人生を、生を彩る音楽など無いのです。

しかし、彼らは彼ら自身の音楽を、曲を流します。「私の曲をかけて。」と、代わる代わる車のスピーカーから流れる曲。

ヒップホップにカントリーに。世界が彩りを失っていても、彼らはその存在を示すように、自分の人生を自分で輝かせるように、それぞれの曲を流していきます。

いわゆるホワイトトラッシュと言われているアメリカの若者。

彼らの現実と生を描き出したアンドレア監督。

監督は彼らに絶望していません。どこまでも無軌道だし、先なんて見えない、無いように振る舞うこの若者たちのどこからに、まだ輝く希望を残しています。

スターもジェイクも、眩しい木漏れ日に照らされます。広々として見えるのは自然風景だけ。

もはや将来の夢すら聞かれないスターは、ジェイクにその言葉をかけます。夢は良くわからないけど、やりたいことはある。

誰にも希望を見出されないという悲しさを埋めるように、みんな寄り添って生きているのですね。

だからジェイクを鼻で笑うアッパークラスにスターは怒るし、食い物にしようとしているに違いないと、ジェイクは男どもにブチギレる。守り合う姿がせつない。もう外側の人間に頼ることも、信じることもできないなんて。

この世界にはもう何も期待していない。画面がスターやジェイクを生き生きととらえるのは、上に空を入れるとき。

オープンカー、バンの屋根。横に広がる世界には何も見ず、上に広がる青空や夜空を見上げる。

希望の無い場所で輝くものを観ました。

作品自体、明確な話があるものでもありません。しかし現実を切り取ったような空気に私もスターたちと一緒に旅をし、どこか今生きている人生よりも自由を感じました。

そしていつでも、この作品にまた帰れるような気もします。少しでも光るものを確実に感じ、青春ロードムービーというだけだけでない何か大切なものになりました。

素晴らしい才能サッシャ・レーン。キュートでチャーミングに引きつけるシャイア・ラブーフ。

Lady Antebellumの”American Honey”に乗せて、無垢さと純粋さに涙を流してしまう作品でした。是非見てほしいです。映画館でも観たいです。大切なものに出会えました。

というところで、レビューは終わりです。本当に素晴らしいので、日本公開してほしいですし、何ならソフトスルーでもいいから出ないかな。北米版ブルーレイも高くないですし、おすすめです。

それでは、また~

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