「アド・アストラ」(2019)

  • 監督:ジェームズ・グレイ
  • 脚本:ジェームズ・グレイ、イーサン・グロス
  • 製作: ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ジェームズ・グレイ、ロドリゴ・テイシェイラ、アンソニー・カタガス
  • 製作総指揮 :マーク・バタン、ジェフリー・チャン、ポール・コンウェイ、ソフィー・マス、アンソニー・モサウィ、ロウレンソ・サンターナ、ドン・ユー
  • 音楽:マックス・リヒター
  • 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
  • 編集: ジョン・アクセルテッド、リー・ハウゲン
  • 出演:ブラッド・ピット、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ルース・ネッガ、リヴ・タイラー 他

ad astra 2019-brad-pitt

「リトル・オデッサ」、「ロスト・シティZ」などのジェームズ・グレイ監督が、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などのブラッド・ピットを主演に送るSFアドベンチャー作品。

ある探査船を探すため、宇宙の彼方へと出発することになる男の物語を描きます。

主演のピットの他に、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ルース・ネッガらが出演しています。

元々は企画を聞いていたくらいの作品でしたが、試写などが始めると、各批評家から古典的SFを引き合いに出しての高評価が上がり始め、自分の中で注目が高まりました。

日米は同時公開。早速公開週に通常字幕にて鑑賞。ブラピ目当てなのか、若い層多めで混んでいました。

ただ、ハッキリ言って、楽しい映画やデートムービー目当てではおすすめしません。

ちなみにタイトルad astraはラテン語にて「星々へ」という意味だそうです。

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近未来。地球人は知的生命体との接触を求め、太陽系を広く捜索している。

しかし最近、宇宙の彼方を発生源とする強力な電磁波が頻発しており、その影響で危機や探査機の故障が相次いでいた。

宇宙飛行士であるロイ・マクブライドは、その原因調査のため極秘任務に任命される。

それはかつて海王星へと探査船に乗り旅立った父を探し出し、対話のためのメッセージを送ることであった。

かくしてロイは、月を経由し火星へと、この宇宙を深く進んでいくこととなった。

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SF映画史に残る大傑作かといわれるとはっきりとは頷けないのですが、ただ非常に美しく人間の深層へと迫る哲学的な作品でありました。

私としては監督が言及する「闇の奥」はもちろん、スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」とフランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」を合わせたような印象を持ちました。

今作は決して大クラッシュ満載のSF冒険物語ではなく、ある男の人間性の回帰や内面への心の旅です。

その組み立てや世界の確立は素晴らしく、まさにこの近未来の世界に浸れるようになっています。IMAXでの鑑賞の方がいいのかなと思いましたね。

ちなみに先にこちらを大傑作と言わない理由を上げますと、そのアクションシークエンスです。

アクション自体は素晴らしいですし必要な部分もありますが、そういったシーンに切り替わると、どこか別ジャンルの映画が始まるような分裂した印象になるからです。

しかし個人的な感触ですからあまり気になることでもないのかもしれません。

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SF映画として、今作は近未来を舞台としています。

その描き方が私はとても好きです。

そこにはもちろん、撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマが繰り出す決まりまくる画作りの美しいこと、色彩の繊細さなどもあります。

そしてマックス・リヒターの音楽も大きな役割を担い、観客をこの世界に招き入れてくれますが、大きかったと感じるのは細やかな世界構築。

各小道具に関して説明をせずこなれた感じで人物が使うことや、惑星間移動や着陸時のあっさり具合が、もはやそれらは当たり前のことである感覚を強めます。

機内サービスと料金やりとりの小さなシーンなど、実際にここに多くの人の生や経済、社会が形成されている。

資源あるところやはり紛争があり、そして統括管理における入管もある。ちゃんと一つの近未来に確かな触感があってすごく良かったです。

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そしてそんな宇宙を旅するロイ。

強烈なオープニングシークエンスは、あの気の遠くなる高さのアンテナやスリリングな地面までの流れも印象的ですが、なによりロイがどんな人間か明確にしています。

彼は「ファースト・マン」のニール・アームストロング並みに機械のような男。

事故でも、空中スピンの自由落下でも、たとえパラシュートに穴が開いても、目の前の事象に冷静に対処できる。

この映画全編に彼のナレーションがついているのも、彼がどこか物語から一歩引いた存在であり、常に冷静で感情が薄く感じる印象を強めています。

ブラッド・ピットの演技が評価されるのも納得で、彼はすごく抑えつつ、というか自分の奥底にある、自分ではないと思っていたはずの感情に童謡すらするさまを見事に体現していました。

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そんなロイは宇宙の奥深くに潜りながら同時に、自分の心の奥へと旅をする。

愛してほしさと憎さが募る父へ物理的にも、そして心も近づいていく。

いつしか目的地到達のために他のクルーを死なせるという状況まで父と酷似していき、その誰のことも気にかけない、目的志向による非人間性までも重なります。

父というのを神ととらえるとすると、人類を超えた考えを持つ神に愛されるべく人間であることを捨てていくようにも思えてきます。

ただし、自分の心の奥深くへと進むうちにロイは、神の寵愛は絶対に手に入らないと悟るんです。そこでこの旅にて置き去ろうとした人間性を逆にとり戻していく。

父は差し伸べる手を押しのけ彼方へと旅立つ。得られない愛などいらない。地球にある、自分に向けられた愛にこたえなければ。

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始まってすぐ、ロイは職員に「僕に触るな」とまで言いますが、ラスト差し伸べられた手を彼はとる。

そして心理検査のような彼の状態を伝えるナレーションは、「集中すべきことだけを見て、それ以外は考えない」という同じ言葉でありながら、全く異なる意味合いを持つことになるのです。

遠く遠くへの旅は孤独を深め人間性が薄らぐからこそ、それを強く感じ欲するものになる。

身近なものを見つめ直す。それは宇宙に限らず旅の本質かと私は感じています。

その意味で今作は美しく浸透してくる世界を作り上げ、旅をさせて自分と向き合わせる強い力のあるSFだと思いました。

色々な解釈から自身を見つめる意味でも、映画館の没入感を持って楽しんでほしい作品です。

感想はこのくらいになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。では。

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