「人生の特等席」(2012)
- 監督:ロバート・ロレンツ
- 脚本:ランディ・ブラウン
- 製作:クリント・イーストウッド、ロバート・ロレンツ、ミシェル・ワイズラー
- 製作総指揮:ティム・ムーア
- 音楽:マルコ・ベルトラミ
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ - 出演:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、ロバート・パトリック、スコット・イーストウッド 他
「ブラッドワーク」以来クリント・イーストウッドの作品で製作陣に参加、また助監督などを務めてきたロバート・ロレンツの監督デビュー作品。
「グラン・トリノ」にて1度スクリーンから離れて監督に専念していたクリント・イーストウッドが主演として俳優に戻ってきています。
クリント・イーストウッドが老年の野球スカウトマンを演じ、彼の娘との確執と再生が描かれていく作品です。
娘役には「メッセージ」や「ノクターナル・アニマルズ」などのエイミー・アダムスが出演。
その他ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、ロバート・パトリックらが出演。
また、クリントの息子であるスコット・イーストウッドもリーグの若手選手役でちょこっと出ており、親子共演を果たしています。
イーストウッドが自分の監督作品以外で出演するのって、実は1993年の「ザ・シークレット・サービス」以来なんですね。今回は友情出演的な意味もあるのかと思いますが。
公開時学生で、イーストウッドがスクリーンに帰ってきたのがうれしかったのは覚えていますが、今回は久しぶりに鑑賞したので感想を残しておきます。
ガスは長年メジャーリーグのスカウトマンとして務めてきたが、年老いた彼にとって、高校野球を観に方々へと出掛けるのはかなりの負担になってきた。
野球のスカウトはコンピューターのデータと統計から電子化しており、ガスのようなオールドスクールなスカウトマンは引退の危機だ。
しかも困ったことに、ガスは視力も落ち始め、このままでは失明の恐れもあることが分かった。
周囲には秘密にするガスだったが、一人娘のミッキーはその異変に気付き、指名決めのためのスカウト活動をしていたガスを追いかけて同行し始める。
父を気遣ってくれるミッキーであったが、ガスとの関係はあまり良くない。
それはガスがミッキーが子どもの頃からなぜか彼女を遠ざけてきたことから来る確執。
今回の旅で二人は改めてそれぞれの関係性と過去に向き合うことになる。
ロバート・ロレンツ監督は間違いなくイーストウッドの血を受け継いでいると感じる作品です。
そこには残念ですがイーストウッドが絶えず行ってきた挑戦やジャンルの脱構築はありませんが、しかしそのチャーミングさや暖かみのある人物群像劇には、イーストウッドのテイストを感じます。
実際トム・スターンとジョエル・コックスなど、イーストウッド作品でのスタッフもそろっていますしね。
今作は悪く言えばあまりに使い古された超オールドファッションな作品ですが、同時に非常に心地よい故郷のような懐かしさや楽しさうぃ与えてくれる作品でした。
小話になりますが、対比としては2011年に公開されたベネット・ミラー監督の「マネーボール」が思い起こされます。
あちらは野球選手を数値化し統計をもって野球界の変化を描きましたが、こちらは真っ向勝負するかのように目で見て音を聴いて判断します。
どちらが良いとかではなくて、このデータ主義ではなくて最後まで人を見ていく姿勢が、イーストウッドの監督性から引き継がれているように、より強く感じられたと言うことです。
話の展開も帰結も予想されるものであり、父と娘の溝はやはり父なりの愛と父の罪悪感から来るものであり、娘の前に現れる理解者としては、ミッキーとフラナガンの迎える結末も予想通りでしょう。
おそらく今作において、この人はどうなるんだろう?とか、最後はどんな選択をするのか?で楽しんでいくことはないです。
むしろ予定調和として展開する滑らかさや定型であることの懐かしさや安心感を楽しみ、心地よい時間を過ごすことが最大の特徴ではないでしょうか。
それができるというのも一つの手腕です。
ある意味リスキーですからね。
何もかも予想通りでたいして大きな展開がない、つまり退屈に感じられる恐れがあります。
しかし確かな俳優陣の演技と、人物や会話にちりばめられたユーモア、最低限破綻しないプロットがすべてを支えて見続けることができます。
イーストウッドは「グラン・トリノ」のコワルスキーよろしく、会話がすべて唸り声のような爺さんを演じ、もうアイコンとしておもしろい。
それを抜いても、エイミー・アダムスの存在感は重要です。
弁護士としてのキャリアだったり、かなり堅い感じの女性を演じつつも、ミッキーと言う子どもであることができなかった存在として、ふとした瞬間に純真な女の子を覗かせています。
スカウト仲間のじいさん連中とのやり取りなど、クスリと笑わせてくるようなユーモアがたまにあることも、全体にシリアスになりすぎないようにしています。
そしてガスの失明の可能性の件はスカウト活動に関わらせ続けながら、闘病や実際の失明の方へ持っていかないバランスを保ち続けました。
人のかかわり合いとか掛け合いとか、またその人物自体とか。
人間味からくるユーモアが詰められていて、そこが丁寧だからきっと、お決まりなお話でも最後まで飽きないのだと思います。
イーストウッドは十八番とも言える過去に後悔を抱える男を演じ、それを最大限に活かしたロバート・ロレンツ監督。
素材をよく理解した人が、それに最適な型でお馴染みの安心な品質で送る映画。
たまにはオールドスクールな作品も良いものだという証明です。
驚きはないですが、定型を繰り返してもおもしろいというのはそれ自体がスタイルかもしれません。
と、こんなところで今回の感想は終わります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
ではまた。
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