「レイニーのままで 消えゆく記憶」(2017)
- 監督:アルバート・アラール
- 脚本:マリサ・カリン
- 製作:クリスタル・チャペル、クリスタ・モリス、ヒラリー・B・スミス
- 製作総指揮:マリサ・カリン
- 音楽:ステファン・グラッツィアーノ
- 撮影:ケヴィン・ペリー
- 編集:スティーブ・アンセル、クリステン・ヤン
- 出演:クリスタル・チャペル、ジェシカ・レシア、デンドリー・テイラー 他
TVシリーズを手掛けてきたアルバート・アラール監督初の長編映画。
若年性アルツハイマーを患う大女優と彼女のパートナーの物語です。
主演は二人ともTVシリーズにて活躍している、クリスタル・チャペルとジェシカ・レシア。またデンドリー・テイラーが二人に良くしてくれるレストランのオーナー役で出演しています。
作品は主演のクリスタル・チャペルさんが自ら創設したプロダクション会社Open Book Companyが制作をしています。
2017年のインディ映画とくにLGBTの映画祭で多くの賞を獲得し、好評を得ていますが日本での劇場公開にはいたらず、Amazonプライムビデオにて配信を開始。
もともと海外アマゾンで知っていたのですが、今回字幕付きで鑑賞できるので観てみました。
TVドラマシリーズの大人気女優レイニー・アレンは、エミー賞にて最優秀女優賞を獲得するなど俳優人生の栄光をつかんでいた。
そんな彼女をいつも支えているのは、長年のパートナーであるエヴァ。
レイニーは一時仕事から離れ、エヴァと一緒に静かな郊外の小さな家に引っ越すのだが、レイニーは時々不安定になりエヴァは心配していた。
医師の診断は若年性アルツハイマー。
レイニーはプライドや塞ぐ将来を恐れ打ち明けることを拒むが、エヴァは支えになるために周囲の理解も得ようとし、衝突を繰り返してしまう。
レイニーとエヴァは、いつか来てしまう時をおもいながら、お互いの存在の意味を確かめていく。
さて映画の中身に入る前に、この作品かなり製作者にとって想い入れのあるものではないかと思います。
まあ海外の今作の情報を集めるに、そもそもの始まりは主演二人が同じくカップルを演じていたドラマ「ガイディング・ライト」までさかのぼるとのことでした。
そのドラマでの二人のカップリング(いわゆるshipですね)がLGBTコミュニティに絶賛され、それを機に今作の製作会社でもあるOpen Book COmpanyをクリスタル・チャペルが立ち上げたとのこと。
そしてその会社でオリジナルにてLGBTをテーマに入れ込むBeacon Hillを作っています。
クリスタルはTVシリーズ「デイズ・オブ・アワ・ライブス」にも出ていますが、そのシリーズの制作を務めていたのが、今作の監督であるアルバート・アラール。
LGBTのファンダム、そこからの制作と監督との出会い。
そして何にしても全てのキッカケであったクリスタル・チャペルとジェシカ・レシアが再び、今度はスクリーンにてカップルになるという長き流れをバックに抱えているのです。
というようなことを後追いで調べてみるとより楽しかったわけですが、別に上記のような裏側なんて知らなくても十分にドラマチックなロマンスであり人間の関係を描いた作品でした。
そこにはもちろん、LGBTとしてのパートナーシップや抱えている問題が描かれております。
しかし今作の特徴は、主軸が出会いや恋愛ではなく、すでに長く共に過ごすかけがえのない存在としての互いであることが重要になっています。
つまり映画が始まるよりも前に二人の間に積み重なった、過去がとても重要。
二人の関係性を公にすることにややハードルがあるのですが(もちろんそれが枷となって将来のその時に誰がどんな権利を持つかに課題が示されています)、むしろ、まったく見えずさらに消えていきそうな”この先”を前に、レイニーとエヴァの”ここまで”が大きく感じられるのです。
何にしても今作は忘れてしまうことがキモです。
もちろん死別ともとってしまうような気持ちをレイニーもエヴァも抱えますが、生きているのに過去を覚えていないというのは何とも悲しいことです。
それに直面し、苦しみ恐れ怒り、もがく姿がクリスタル・チャペル、ジェシカ・レシアそれぞれ素晴らしい。
なんというか生々しいです。互いにイラついたり自暴自棄になる瞬間含めてかなりリアルで、二人の掛け合いも見事でした。
特に、リアクションが重要なんだと思います。
バーでつい頭に来てしまったレイニーに対し、トイレでエヴァは「あんなのあなたじゃない」と言います。
昔は笑っていたという言葉から付き合いの長さを感じさせるスマートさもあるんですが、エヴァがレイニーを本当に良く知り、なんなら定義してしまう存在なんだというのがここで示されているわけです。
自分以外で、自分自身を定義し、こうであると覚えてくれ支えてくれる存在。それがレイニーにとってのエヴァなんですね。
でなければ、あなたじゃないではなく、「変わったね。」と言うはずですから。
確実に失われていくレイニーの記憶、ただこの作品では辛いことは示すのですが、画面は優しいなと思います。
エッジは抑えられコントラストも弱めな、全体にやわらかな質感が、最後まで保たれるんです。
で、実はとても素晴らしいドラマであるのですが、TVドラマ的なメディア解決もできるんじゃないかと思っていました。
しかし最後の最後でやってくれましたね。
それはレイニーがその時を迎えているラスト。
繰り出される絵はそのまま二人で過ごした景色として頭によみがえり、トロフィーも家で飾る場所を決めていたことを思い出します。
これはエヴァを忘れても愛や二人の日々がレイニーに刻み込まれていることを示す美しく素晴らしいシーンです。
しかし同時に映画だからこそ、数十分前のこととしてその連続性と呼応を観客がかみしめる、映画らしい味わいが炸裂する場面でもあるんです。
クリスタルとジェシカ、以前にもカップル役というのもあるのでしょうけれど、本当に実際のカップルみたいです。
主演二人のアンサンブルが確立される中で、他者と自分の存在意義を問う形で普遍的なテーマを時に残酷にも見せていく作品。
最後まで優しいまなざしが向けられている素敵な作品でした。
日本での知名度のある俳優陣や監督ではないですが、こうしてインディ映画を観られる環境はまさに配信における利点だなと再認識する、いい出会いになった映画です。
配信はいつまでかわからないので、気になる方は早めのチェックを。
今回は感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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