「アシスタント」(2019)
作品概要
- 監督:キティ・グリーン
- 脚本:キティ・グリーン
- 製作:P・ジェニファー・デイナ、スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス
- 製作総指揮 フィリップ・エンゲルホーン、リア・ギブリン、アヴィ・エシャナシー、ショーン・キング・オグレイディ
- 音楽:タマール=カリ
- 撮影:マイケル・レイサム
- 編集 キティ・グリーン、ブレア・マクレンドン
- 出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン 他
「Ukraine Is Not a Brothel」でデビューしたキティ・グリーン監督が、映画製作会社に就職した若い女性アシスタントの視点から、その業界における女性蔑視と搾取システムの闇に切り込んでいくドラマ。
主演は「令嬢アンナの真実」などのジュリア・ガーナー。彼女はキティ監督と彼女の長編2作目である「The Royal Hotel」でも組んでいます。
今作自体は2019年にはプレミア公開されていて、好評であったことやちょうど#mettoo運動にかかる話であったこと、さらにハーヴェイ・ワインスタインの件もあって観たかった作品でした。
当時海外版ブルーレイがなく、観たいのに観れない状況だったのでよく覚えていますが、まさか4年くらい間が空いてしまうとは。
ほぼ忘れそうなところでやっと2023年に日本でも劇場公開。劇場体験型の映画であったのでそれはとても嬉しいことでした。
公開日に夜の回で鑑賞。遅かったのですが結構人が入っていました。
~あらすじ~
名門大学を卒業したばかりのジェーンは、映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に就職した。
業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めたが、そこは華やかさとは無縁の殺風景なオフィス。
早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われる毎日。
常態化しているハラスメントの積み重ね……
しかし、彼女は自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには、会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっている。
ある日、会長の許されない行為を知ったジェーンは、この問題に立ち上がることを決意するが――。
感想/レビュー
ネオレアリズモのような切り取り方
ドキュメンタリー畑出身ということもあってか、キティ・グリーン監督が切り出しているこの一人のアシスタントの1日は、非常に現実的で実直。
演出としてのドラマチックさや劇画風なことは一切なく、ただ淡々としています。
しかし、だからと言って冷たいということではないです。むしろ彼女は燃えている。
そこには現実の声を詰め込んで世界へ届けていくという熱意が感じられました。
圧倒的な静寂の陰にしみついた闇を観客に感じさせる
不気味なほどに理路整然としていて、圧倒的な静。
OPではジェーンが出勤するシーンがただ何のセリフもなく映し出されますが、本当に何か気味が悪いんですよね。
空気のよどんだような、風通しの悪さがこちらの頭も締め付けるようなオフィスで、薄暗く色彩が影っている。
そこで何も言わずに準備をしていくジェーン。
でも、ソファの何かの汚れをこすり落とす姿に、床に落ちていたイアリングを拾う姿に、背後にある醜悪なものを予感させます。
直接は映りこまない会長をいかに”そこに存在している”と意識させるか、そして”何かが起きている”と感じ取らせるか。
ちなみにジェーンが郵送されてきた箱から開けて並べている薬、そしてうち終わりの注射の薬、プロスタグランジンは治療薬なので、ある意味直接的でもありますが。
事務的にそしてシステム的に
画面はずっと固定カメラですし、大きくは動きません。
うつむくよう位置からの撮影も多く、それは周りが見えなくなりながらも感覚を共有すると同時に、意識的に目を伏せているといった意味合いも込められているでしょう。
事務的な流れが多いことからも、このゆがみや闇というものがシステマティックにしみついているということが伝えられてきます。
そんな中で観客は、ジェーンと共にまだ暗いうちから夜遅くまで一緒に会社で働き、常態化しているハラスメントを受けていくのです。
とにかく疲れるし息苦しいし、心が裂かれてしまうシーンもありました。
ジェーンと同僚たちはほとんど同じ画面内には映りこみません。対面したりしていても、カットバックで映されている。
映りこんだとしても、あまりいいことはないですね。
根源的にある女性蔑視
ジェーンがオフィスにいて感じる窮屈さ、やるせなさ。
アホなガキの世話をするように、食い散らかしやごみを片付ける。正直雑用とかいうレベルですらない。
男たちはいくつになってもバカなガキで、女は子守をさせられる。(実際に子守を押し付けられますし)その通りだという状態。
しかしこれが若い女性でなく、男性だったら?
これは日本企業でも見受けられます。
奥底の底にある女性蔑視。男性若手社員とは違う扱いを女性にはしている。お茶くみから片付けから・・・・
少しは軽減されているかもしれませんが、性別を(明言せずとも)理由に仕事や待遇に差を設けているのは事実だと思います。
ジェーンの働く製作会社でのオーディションに向けての準備。
印刷されていく女性たちの顔写真は、キャスティングのためなのか?それとも会長の品定めのためなのか。
ただ、単純に女性蔑視だけに留めずに、コップを使って権力構造にも踏み込んだのは好みです。OPでジェーンがよけた薄いブルーのコップ。
その持ち主がジェーンが洗い物をしているところにただコップを残していく。
救済はないのか
「ありがとう。」の一言もないこの社内。
ジェーンは勇気を振り絞るも告発もまたシステム自体に除去機能がありました。
ただでさえ低く設定されている地位に加えて、キャリアを人質に取られる。
ジェーンはジェーン・ドゥ(名もない存在)を意識したネーミングだとか。
今作で描かれているものは実際に業界で働いた数多くの方たちから寄せられた実体験に基づいている。
誰しもがジェーンになりえる可能性がある。
真正面にとらえて騒ぐことはなくとも、業界が抱えている闇、ハラスメントの状態化や女性蔑視に対して鋭い洞察を体感型の形をもってみせたすさまじい作品。
劇場体験というモノが大切なので、これは是非とも劇場で観てほしい一本でした。
今回の感想はここまでです。
ではまた。
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