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「ビースト」”Beast”(2017)

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beast-movie-jessie-buckley-2017 映画レビュー
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「ビースト」(2017)

  • 監督:マイケル・ピアース
  • 脚本:マイケル・ピアース
  • 製作:クリスチャン・ブロディ、ローレン・ダーク、イヴァナ・マッキノン
  • 製作総指揮:デイヴィッド・コッセ、サム・ラベンダー、マイルス・ペイン、デイヴィッド・スタニランド、ナターシャ・ウォートン
  • 音楽:ジム・ウィリアムズ
  • 撮影:ベンジャミン・クラカン
  • 編集:マヤ・マフィオリ
  • 出演:ジェシー・バックリー、ジョニー・フリン、ジェラルディン・ジェームズ、トリスタン・グラヴェル 他

beast-movie-jessie-buckley-2017

短編映画を手掛けてきたマイケル・ピアースが長編監督デビューを果たした作品。

ある女性がアウトサイダーの男と出会い関係を築いていくが、最近起きている少女連続殺人と彼の関係が疑われるサイコスリラー作品です。

主演は「ジュディ 虹の彼方に」「ワイルド・ローズ」など大活躍中の俳優ジェシー・バックリー。

主人公が出会う過去を怪しい男はジョニー・フリンが演じています。(「アクトレス 女たちの舞台」でクロエ・モレッツの彼氏役の人)

今作はかなり高い評価を得ていて、主演のジェシー・バックリーの演技も絶賛され、BAFTAでは新人賞をピアース監督が受賞しています。

自分はジェシー・バックリー目当てで鑑賞しました。

劇場で彼女の出演作「ジュディ」と「ワイルド・ローズ」を見て惚れこんでしまい、彼女が注目されるきっかけとなる今作もどうしても見たくなったのです。

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モルは、認知症の父の面倒を見ながら、支配的な母とともにジャージー島に暮らしている。

モルの誕生会の際、彼女はその場にいたくなくなり、抜け出して地元のバーへ出掛けた。

朝まで飲んだモルはあるきっかけでパスカルという男性に出会う。

彼は孤独なアウトサイダーで、二人は距離を近づけていくが、周囲はパスカルを不審者扱いしていた。

一方で島では、少女を狙った連続殺人が起きていた。

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監督デビュー作となった今作で、マイケル・ピアース監督は凄まじいバランス感覚を見せつけたと思います。

ひさしぶりにここまで翻弄され、掴めず、そして最後は自分自身の決断を迫られる映画に出会いました。

プロットだけで見れば、かなりありきたりなサイコスリラーです。

出会った男の闇と連続殺人。

彼にかかる疑念が濃くなっていく中で、なんとか愛する人のために奮闘する、それでいて真実にも近づいていく。

しかしここで主人公の造形が半端なく見事なこと、巧妙な曖昧さが重なり、これまで何度も観たようなジャンル映画から抜け出しています。

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まずセッティングからして素晴らしくて。

OPですっかりモルの境遇を語ってしまう手際の良さ。

誕生日会なのに全然話しかけられず孤独ですし、妹が(ここで発表するとか神経疑いますが)スポットライト奪っていき、母はあろうことかモルに家に戻ってシャンパン取ってこいとか言うけです。

モルは常に脇役なんですよね。

その後も姪っ子の件で理不尽に責められ辱しめられるし。

実際家族の中でああいう扱いされるのってキツイんですよ。

また、モルの仕事が観光客向けのバスガイドっていうのも残酷です。

ここにいたくない、抜け出したい彼女が、外に出ている人の相手をするわけですから。

母親を演じたジェラルディン・ジェームズの氷のような眼と高圧的な態度なども力強く、完全に同情してしまう。

同一フレームに入れず、母と向かい合ってもモルは壁で見切れるような画面構成など、画作りの点でも練り込まれています。

パスカルと出会う際には二人が並んでフレームに収まるわけですし。

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そしてなによりもジェシー・バックリーの素晴らしい演技。

疲れた笑顔、瀬戸際の苦しさ、痛みを分け合いながらもうっすらと示される彼女の本質により、惑わされてしまいます。

母が徹底してモルに対して支配的な点も、その理由が薄くですが見えることで、モルに対しての観客の信頼が揺らぎます。

でも、途中でモルを手放せないんですよね。やっぱり不憫だし味方でいたい。

この味方でいたいと思わせる感じ、巧いんですよ。

モルもパスカルの為にうそをついて、彼を心のどこかでは疑っているのに、味方でいようと努力し続けているわけですから。

ジェシー・バックリーとジョニー・フリンの二人のケミストリーもとてもよかったと思います。

パッと画面を見て、浮いた二人なんですよね。

いい意味で裏がある感じを出せるというか、人に囲まれているのに孤独感をこちらに感じさせることができる二人。

ラスカルが靴に泥を付けたまま家に上がり込む、そしてモルは汚れた手でソファをなでる。

二人の初セックスも森の中。まさに獣。

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映画が始まってすぐに、モルはガラスで手を怪我します。彼女の傷にはだれも気付かず、モルはバーへ行く。そこでも誰も手のケガには触れません。

そして、ラスカルだけが、モルの傷に気づきます。

そこから二人は出会い、お互いに傷ついた存在として身を寄せ合っていく。

そのロマンスは素敵なのですが、同時にそこに彼が実は連続殺人鬼ではないかという疑念を入れ、さらに二人がひかれあうのは互いに異常者だからではとすら思わせる。

惑わせてくるその押し引きが絶妙で、すべてが疑わしい。

途中でクリフの家に行くシーンがありますが、あそこではクリフこそが実は・・・?みたいに疑ってしまいました。

何が答えか分からない。

モルはラスカルを心から信じていいものなのか。そして観客はラスカルと、モル彼女自身を信じていいのか。

ただ自分の親しい人、親しくしたい人もすべてを知ることはできない。

それでも今何が起きていて、目の前の人間は何者なのかを、決断しなくてはいけないんです。

痛みもわかるし切ない愛の物語なのに、やはり恐ろしいスリラーであり。多面的に取れる作品なのに、ものすごい圧で自分の定義を求めてくる力がある。

ジェシー・バックリーは本当に素晴らしい俳優で、また今作でマイケル・ピアース監督は間違いなく今後注目の監督になりました。

日本でも観れるのかちょっとわからないですが、機会があればおススメの作品です。

今回は感想おしまい。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

それではまた次の作品レビューで。

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