「テーラー 人生の仕立て屋」”Tailor” aka “Raftis”(2020)

「テーラー 人生の仕立て屋」(2020)

  • 監督:ソニア・リザ・ケンターマン
  • 脚本:ソニア・リザ・ケンターマン、トレイシー・サンダーランド
  • 製作:メラニー・アンダーナハ、ヨアンナ・ボロミティ、ターニャ・ゲオルギエヴァ、イザベル・トリュック
  • 音楽:ニコス・キポルゴス
  • 撮影:ヨルゴス・ミヘリス
  • 編集:ディミトリス・ペポニス
  • 出演:ディミトリス・イメロス、タミラ・クリエヴァ、ダフネ・ミチョプールー、スタシス・スタムラカトス 他

作品概要

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ギリシャのソニア・リザ・ケンターマンが初めての監督デビューを果たす作品。

経営難に陥った紳士服の仕立て屋が、起死回生のために移動式テーラーの営業を始め、ウェディングドレス作りを始める様をユーモラスに描いたドラマ。

主演はギリシャのベテラン俳優ディミトリス・イメロス。ギリシャのアカデミー賞では受賞経験もある俳優のようです。

またロシアで映画を学び、ギリシャでは演劇の指導もしているタミラ・クリエヴァが隣人役で出演。

正直ギリシャの映画というのは詳しくもないですしたぶんそんなに観たことすらないんじゃないかなと思います。「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督はギリシャ出身で世界的に活躍していて有名ですが。

今作は映画館での予告を見て興味がわいた作品で、優先度は低めでしたが観たいなと思い公開から少したって観てきました。

階数が少ないので朝早かったですが、そこそこの人が入っていました。でもまあ若い方はいなくて結構な年齢層の高さではありましたが。

「テーラー 人生の仕立て屋」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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ギリシャで30年以上営業を続ける紳士服の仕立て屋。しかし最近は売れ行きが悪く、店主のニコスは銀行からの催促もあって経営に非常に困っている。

そんなある時、彼は移動式の屋台でモノを売る人を見かけ、意を決して移動式の仕立て屋として街を歩くことに。

だがもちろん、高級な生地もスリーピーススタイルも広く売れるわけもなく、ニコスは店と街を行ったり来たりするだけだった。

ある日女性たちから、女性ものの服が欲しい、ウェディングドレスの仕立てはできるかと声を掛けられる。

紳士服一筋であったニコスだったが、日ごろから仲良くしている隣人の奥さん、娘さんと協力し、ウェディングドレスや婦人服つくりに挑戦し始めるのだった。

感想/レビュー

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サイレント映画のような小気味良い音と映像の融合

ソニア・リザ・ケンターマンの長編デビュー作品ですが、彼女自身が今作をとるうえでバスター・キートンやジャック・タチ作品を研究したとのことで、非常にサイレント映画的なスタイルが特徴になっています。

OPでは毎日の店の開店に向けての準備から始まっていくのですが、セリフも一切ないままに音楽が小気味良いアクションとシンクロして展開されます。

ちょっと神経質だったり、不安げなニコスのキャラクターをあっという間に紹介してしまう見事なものです。

作品全体にわたるアクションと音楽の連動と、効果音のような使い方、そして少しコメディタッチな人物像などは、まさにクラシカルなサイレント映画を見ているかのようです。

ミシンの足踏み、裁ちバサミの動き。

特にニコスがモノづくり全般に長けていて、あれよあれよと洋服や屋台など自分でどんどんと組み立てていくこと含めて、すごく見てて楽しいですね。

人々の会話からドラマの展開にまで映像と音楽での語りが大きな力を与えられていて、個人的に好きなスタイルになっていました。

そして今作は時代性についてもなんとなく取り払われたようなものになっています。

一応現代が舞台なんじゃないかとは思うのですが、しかしスマホとかインターネットなどは出てこないし、かなりシンプルな人間生活と社会が見せられています。

こうした面でも、今作がクラシックなサイレント映画らしい感じがするのでしょうかね。

しかしサイレント期のようなモノトーンではなくて、むしろ今作は色彩にも、というかそれらのある衣装やギリシャの街に画としての華やかさを感じます。

個人的にそのスーツ店における生地の並んだ感じとかも好きですが、ニコスのスリーピースの濃いネイビーとか、お父さんのブラウンチェックスーツにライトブルーシャツ、さらに薄いイエローのタイの合わせとか、スタイルもすごく楽しめました。

あのお父さんの友人たちの爺さんたちもまあオシャレだこと。

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ユーモアの中に展開する苦い人間ドラマ

女性用の服を手掛けていくことで衣装はさらに様々な顔を見せて華やかになっていきますが、中心にあるドラマはルックに対して非常に手厳しい。

この点もクラシカル。アリ・カウリスマキ監督とか思い出しましたが、シュールな笑いの中にあるのは結構複雑な、そして痛みも不安も伴う人間模様なのです。

ニコスは店を支えていくために、父に認められない婦人服つくりをしていきます。

そこにもややこわばりが見えていきますが、かなりの年になりながらもニコスが結婚もしていないのは、ずっと父に認められるために店にいて頑張ってきたからでしょうか。

頑固そうな父ですが、ニコスは父のため薬を買う。でも彼は直接渡しに行かないんですよね。この不器用さ。

ウェディングドレス作りの採寸のために出向いた病院。女性が下着になる瞬間に慌てふためくのもおもしろい。

そして何にしても、隣人一家との関係性です。

ニコスは隣の娘、ヴィクトリアに好意を向けられます。窓際での二人だけの通信方法も可愛らしいですが、しかしお母さんのオルガと仲良くなりドレスづくりをしていくと事が大きく展開する。

オルガにとっては家事以外に自分自身の楽しいことを見つけていくのに対し、ニコスとの関係はもちろん夫にとって不愉快なもの。

そしてヴィクトリアもまるで一番の親友のポジションを取られたように拗ねていく。

食卓のシーン。切り替わるカメラにミニカーの遊び。

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どこかにほころびがあれど、いつでもまた直していける

一つうまく行き始めたが、また一つほころびが出てしまう。

ニコスは神経質で、銀行員のほつれ糸を気にしたり、糸が服についていればそれを取り除こうとしますね。それらはすべて、人生における困難のメタファーなのかもしれません。

傾いた店を立て直すための移動式テーラーは思わぬところで救いの道が見えますが、しかしそこに行けばまた困難が待っているものです。

スリーピースと異なって、型もないし採寸すればすべて計画通りに作っていけるものでもない人生。

しかし良い面と同時に出る悪い面、その混ざり合いが人を引き合わせて、たとえ別れが待っていたとしても人生を豊かにしてくれるのでしょう。

経営難という負から始まった移動式テーラー。

悪いところからやりくりしたことで新しい友情と愛が芽生え、ただそこからまた別の問題が生まれてしまう。

いつも完璧な状態にはできませんが、しかし修繕はいつでも遅くはないのです。

アテネの美しい街並みも、青が画面を支配するような海辺も、数々のドレスとそれを試着していく女性たちもすべてが美しい。

ソニア・リザ・ケンターマン初めての監督作品ですが、往年のサイレント映画とかユーモアと苦さが混じる人情映画とかを感じながらも、その豊かな色彩は確実に独自のスタイルですね。

ギリシャからの映画でかなりの拾い物でした。

意外にもミニシアターに限らず興行している作品なのでチャンスのある方はぜひ見てみてほしいですね。

今回の感想はこのくらいになります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまた次の映画の記事で。

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