「アンモナイトの目覚め」(2020)
作品解説
- 監督:フランシス・リー
- 脚本:フランシス・リー
- 製作:イアン・カニング、フォーラ・クローニン・オライリー、エミール・シャーマン
- 製作総指揮:メアリー・バーク、ローズ・ガーネット、サイモン・ギリス、ジギー・カマサ
- 音楽:フォルカー・ベルテルマン、ダスティン・オハロラン
- 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
- 編集:クリス・ワイアット
- 出演:ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン、フィオナ・ショウ、ジェマ・ジョーンズ、アレク・セカレアーヌ 他
「ゴッズ・オウン・カントリー」のフランシス・リー監督が、イギリスの考古学者と彼女の元で療養することになった女性の友情と恋愛を描く歴史ロマンス。
実在の考古学者であるメアリー・アニングを「愛を読む人」などのケイト・ウィンスレットが演じ、また惹かれあう相手を「ストーリー・オブ・マイ・ライフ 私の若草物語」などのシアーシャ・ローナンが演じます。
リー監督の長編2作品目となった今作ですが、ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンという2大スターを揃えてくるなどスケールアップを見せています。
実在の考古学者であるメアリー・アニングと、同じく地質学者であるシャーロット・マーチソンのロマンスを描いていますが、その人物ごとの設定についてはある程度事実ですがロマンスは創作になっています。
監督が恋人へのプレゼント選びなどで化石関連でメアリーの名前を目にしたことから、彼女の背景を調べ、生涯独身であったことや当時の女性の社会的地位や埋もれてしまった存在として興味を持ち、想像して生み出したストーリーになっています。
もともとカンヌでのプレミア予定がコロナにために映画祭もなくなってしまい、伸びに伸びての一般公開に。
昨年の夏に北米版の予告が上がったところですから、日本にもまあそこそこのスケジュール感で来たわけです。
公開週末には行けませんでしたが、次の週に日比谷で鑑賞。
朝の回でしたが結構人が入っていましたし、シャンテの割には若い女性グループが多めでした。
~あらすじ~
1840年代のイングランド、ライム。
海岸沿いでアンモナイトや化石の発掘作業をしているメアリー・ベニング。
母と二人で観光客用のお土産として貝や化石を販売して暮らす彼女は、イクチオサウルスの全身骨格を子供のころに発掘したことで著名な考古学者だ。
しかし、ロンドンでも化石ブームは過ぎ去ってしまったこともあり、今では地道に発掘をしているだけだった。
ある時、地質学者で階級の高いロデリック・マーチストンが妻シャーロットとの旅行でヨーロッパを巡る中でメアリーを訪ねてきた。
彼はメアリーの知識や作業をぜひ学びたいと申し出、病気がちな妻をライムの地で療養させつつ、いろいろと教えてもらえないかと持ち掛ける。
報酬をもらうこと渋々受け入れたメアリーだったが、シャーロットと過ごすうちに二人は友情を築き、そしていつしかそれ以上の関係を持つのだった。
感想ビュー/考察
監督が前作で描いたことと基本的には同じで、DNAを受け継いでいるのは間違いない作品です。
すべてが静かな作品。
音楽はほとんど使われずに、浜辺の並みの音や所作の音が伴奏し、一度劇半が流れるとそれは感情の洪水です。
そして、登場人物は台詞が少なく、 また多くを語らない。ただ節々と身体が語っていく。
今作は特にメアリーを演じたケイト・ウィンスレットが素晴らしいです。
彼女自身もインタビューで語っていますが、本当に動くことすら少ないメアリーを、少しの所作や言葉、表情で繊細に演じています。
またシアーシャは幼稚さのような未熟さと好奇心、また脆さまでも内包したシャーロットを体現します。
そして彼女たちを写し出していく美しくも寒くグレーに包まれる舞台であるライムもまた、しんみりとひっそりとした背景として佇みます。
ただ、だからといって語ることの少ない映画ではないと思います。
ドラマチックさもあればフェミニズムとも言える部分もあり、そして偉人を称える作品でもある。
「ゴッズ・オウン・カントリー」と共通しているのはそのアウトサイダー感でしょうか。
ライムにて化石を採集するメアリーは、すでに化石ブームが終わっていることもあり、需要を持たない人間です。
また女性であることがこの時代は彼女にとって弱さとしてのし掛かります。
そして夫とともにいながらも役目を持つことができず、自分で決めて自分の行動ができないシャーロット。そこにいながらもそこに彼女の居場所はない。
そこで二人は出会う。
二人の関係性を見せていく画面構成が好きです。
互いにはじめは自分の意思ではなく、面倒で鬱陶しく思っていますが、離れていくシャーロットとメアリーを画面の両端に残します。
決して画面外には出さない配置が二人の境遇が同じ事、また後の親しみを感じさせていました。
海岸線という瀬戸際、ボーダーでは、海と陸とが分けられる。
メアリーとシャーロットの非常に高く美しい海でのシーンがあります。
荒涼とした色彩の多いグレーがかったライムでのシーンの中でも、陽の光が水面を照らし、イエローに輝く色彩が一際明るいシーン。
完全に二人だけの世界になり、互いを支えあうあのシーンは今回の白眉です。
そしてついに海岸線という境界線を越えて、二人が踏み出したという重要な場面でもあります。
それぞれの人物造型としては色々な要素がありますが、衣装と演出、メタファーが、静かな二人の感情を強く描いていました。
衣装担当のマイケル・オコナーは今作でBAFTAにノミネート中。
海辺の採掘シーンはケイトが実際に演じたわけですが、メアリーはドレスの下にトラウザーをはいています。
そして映画の中では時代設定に反してコルセットをつけることは在りませんでした。
これはメアリーの独立性をよく体現しています。彼女は周囲に迎合することはなく、ただ父に教えられ愛した化石の採集をすることに一生懸命なのです。
そのために機能性を重視します。
はじめは自分の人生に絶望し死んだと思わせるような真っ黒なドレスを纏っているシャーロットも、次第にメアリーとの交流で生きることを見いだし、衣装はグリーンやブルーなど自然な色合いが増えていきますね。
そして、ロンドンにいるシャーロットをメアリーが訪ねるシーンでは初めて赤が使われます。情熱の色です。
そして衣装の他にも演出が繊細に重ねられます。
シンボリックであるグラスに入った蛾?などはちょっとやり過ぎにも思えましたが、個人的にはロウソクの演出が良いなと思います。
二人の寝室でのシーンは火を灯したロウソクを持って部屋へ入るところから始まりますが、ふとまた映る。
その時にかなりロウソクが減っている。
それだけの時間愛し合ったという時間を伝える部分であり、また燃えるということも掛け合わせてあります。
ただ、ここにはいつか燃え尽きてなくなるという期限も提示されていて、メアリーとシャーロットの関係性も盛り込まれていました。
歴史に埋もれてしまっているメアリー・アニングを再び見出していくことは、その過去を見つめていくことですが、同時に私たちの今を映し出すこと。
シャーロットがメアリーの採集を買い付けに来た男に言う通りなのです。
偉大な考古学者でありながらも時代が女性であることからあまり大きく取り上げなかった。
それでも大事なのは、メアリーが生涯自分の愛することをとことんやり続けたということです。その力強い姿勢と生き方は今まさに見つめなおすべきものです。
その孤高ともいえる姿がシャーロットには魅力的に見えたと思いますし、またメアリーにも好奇心旺盛なシャーロットは、荒涼としたライムでの生活に文字通りに色彩を与えてくれたと思います。
主演二人のアンサンブル。シャーロットを見つめることしかできないメアリーの顔をじっと映すカットでのケイト・ウィンスレットは本当に素晴らしいです。あそこで音楽が外に出てもついて回るのも良い。
静かながらに雄弁に語っていく所作と各演出が光る作品です。
といいましたが最後に難点があることを。それはどうしてか、この作品に距離を感じるところです。
素晴らしい作品で、ドラマチックであると感じるのですが、しかし身に刺さってくるほどの感情の入れ込みが起きなかったのです。
もしかするとそれは、各演出がちょっとシンボリックすぎる点がかかわっていてドラマや人物がやや記号的に感じたからかもしれません。
特に自分はどうしてもセリーヌ・シアマ監督の「燃ゆる女の肖像」を意識してしまうので、余計に比較したかもしれません。
いずれにしても、フランシス・リー監督の歴史ロマンスについて、主演二人の相性や演技、監督らしい静けさと映像の饒舌さが堪能できる作品であることは間違いないです。
こちらぜひ劇場での鑑賞をお勧めします。
今回の感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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