作品解説
「オーシャンズ」監督×「ミッション:インポッシブル」脚本家が手を組んだスパイ・サスペンス最新作
「オーシャンズ」シリーズのスティーブン・ソダーバーグ監督と、「ミッション:インポッシブル」の脚本家デビッド・コープがタッグを組んだミステリーサスペンス。
エリート諜報員と二重スパイによる最重要機密をめぐる頭脳戦を、スタイリッシュかつ緊迫感あふれる映像で描きます。
監督・脚本
- 監督:スティーブン・ソダーバーグ
- 脚本:デビッド・コープ
豪華キャストが集結したスパイ戦の最前線
- マイケル・ファスベンダー:諜報員ジョージ役
- ケイト・ブランシェット:ジョージの妻であり容疑者キャスリン役
- トム・バーク(「マッドマックス フュリオサ」)
- マリサ・アベラ(「Back to Black エイミーのすべて」)
- レゲ=ジャン・ペイジ(「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」)
- ナオミ・ハリス(「007」シリーズ)
公開規模が微妙なところですが、すごく豪華な顔触れがそろっていますし、期待していた作品でした。公開した時には見に行けず、そのあとで仕事帰りに都内で鑑賞。
まあスクリーンも小さいということはありますが、かなり混んでいてほとんど満員状態での鑑賞になりました。
~あらすじ~
イギリス国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)に所属するエリート諜報員ジョージは、国家を揺るがす不正プログラム「セヴェルス」を盗み出した“内通者”を突き止める極秘任務に挑む。
容疑者は同僚の諜報員フレディとジミー、情報分析官クラリサ、局内カウンセラーのゾーイ、そしてジョージの妻であり凄腕スパイでもあるキャスリンの5人。
真相を探るため、ジョージは彼ら全員を自宅のディナーへ招待する。
ワインと薬が混ざった食事の中で、隠された秘密と人間関係の歪みが次第に露わになっていく。そしてジョージが仕掛ける“あるゲーム”をきっかけに、嘘と真実、愛と疑念が入り乱れる心理戦が幕を開ける。
感想レビュー/考察
ソダーバーグ監督の“年1ペース”に驚き!途切れない創作エネルギー
ソダーバーグ監督ってかなり精力的に映画を作りますよね。てかほとんど毎年1本は撮ってないかな。
「ローガン・ラッキー」が2017年にあって観に行っていますが、なんだかんだで毎年ソダーバーグ監督の新作ってある気がします。
職人が“さらりと作る”良質映画 無駄なくおしゃれ
そんなわけで毎年作っているから薄いかといえば、むしろ職人がぱぱっと良質でサクッと楽しめるものを簡単に作り上げて排出するイメージ。
今回も90分くらいのタイトなもので、無駄なくおもしろくそして、なんというか気取らず力が入っていない感じがするんです。
作品自体もオシャレな感じがありますが、この作り手側のいい意味での肩の力の抜けた感じがまた、クールで良いなと思いました。
嘘と愛のはざまで生きるスパイたち“夫婦”であることの矛盾
作品はマイケル・ファスベンダー演じるジョージのバックショットで始まります。裏路地を抜けて会員制のクラブに入っていくと、混沌が渦巻く喧騒の世界が現れますが、そのまま目的の男へと進んでいく。
ジョージは上司に会いに来た。彼に対しての命令を受けるため。それが国家機密の危険な装置を盗み出した裏切り者を探すという任務で、しかも容疑者の一人がジョージの妻、キャスリンなのです。
設定だけで観ればこれまでにもあったようなスパイスリラーでしょう。別にフレッシュではない。
スパイとカップル。諜報員として嘘をつくのが当たり前で、うまくないといけない世界で、それでも人として愛し愛されパートナーシップを結んでいく。でも、嘘をつき続けて。。。
「トゥルーライズ」とか「Mr.&Mrs. スミス」なんていう分かりやすい娯楽的なジャンルもありますしね。みんな繰り返してきたわけです。
定番の題材を“新しく見せる”ソダーバーグ監督の手腕
ただこれをフレッシュに見せてしまうのがソダーバーグ監督の手腕です。
それは幽霊屋敷という在り触れた題材に対して、幽霊の一人称視点で展開するという「プレゼンス 存在」もそうでした。
そしてここでソダーバーグ監督を支えているのが、長年コラボしている脚本家デビッド・コープです。
二人が追いかけるのは合理性。無駄なく、シンプルに、そして合理的に。だから脚本でも演出でも、作品から無駄がそぎ落とされていきそしてタイトでソリッドに仕上がる。
ファスベンダー×ブランシェットが織りなす“冷たくも熱い”夫婦スパイドラマ
すべてのシーンに関してストーリーが展開されている。
また音楽もクールだし、場所や曜日を示す画面に出る文字のフォントまでオシャレ。研ぎ澄まされていて気持ちがいいくらいです。
撮影についても全体に露出高めになっている、綺麗だけど朧げでどこかはっきりと見えない感じが謎多きスパイの世界って感じでカッコいい。
眺めていて最高。
で、演者もみんなクールで最高なんです。OPからバックショットでもいい男と分かるマイケル・ファスベンダー。
程よく抑えていつつも織のいいスーツに身を包み、知的な黒縁メガネの彼はデヴィッド・フィンチャーの「ザ・キラー」の時の彼のように、感情を出さないロボットのようです。
しかし、彼自身ものすごく機械的に見えつつも、OPでのケイト・ブランシェットとの夫婦関係の語り口によって、ジョージが実はすごく感情的で人間らしいことが見えます。
妻キャスリンを演じるケイト・ブランシェットもさすがの存在感です。彼女の方がジョージをリードしているような感覚。金銭的な話をする少しだけの会話からも二人がきた道のりを感じることができます。
食事会に始まり、食事会に終わる──密室で紡がれる緻密な情報戦
さて、食事会に始まり食事会に終わる作品ですが、最初の集まりでの情報量がすごい。気を抜いてはいけないなと思います。
ジョージとキャスリンの家に来る前に、バーで落ち合った際にも含みが多かった4人の男女。
よく聞いてよく覚えておくと、後半のあらゆる展開や人間関係についてすでにここでほのめかされています。
なのでここからはパズルのピースがはまる瞬間のように心地よさが流れていく。
もちろん、つながった先にまた次のピースのくぼみが生まれていくので、ミステリーとしての興味も持続します。
ミステリーという点だけ見ると、これもまたフレッシュではないです。ただ、それは根幹として今作で目指していることが、スパイ物のミステリーと犯人探しではないからだと思います。
ミステリーでありながら、真に描かれるのは“人間の信頼関係”
描いているのは人間の信頼関係。
ジョージは精密な機械のように動き、すべての状況をコントロールしているかに見えましたが、上手がいて利用されます。
そしてさらに上手もいて。
「正直言って、浮気するのが簡単すぎるんだ。」スパイはうまく嘘をつけなくてはいけない。それが仕事上の利点で力。
評価されるスキルです。だから嘘をつけてしまうのですが、スパイ同士の関係性ではゆえに相手を疑い続けなくてはいけないし、自分も信じてもらえにくい。
作品に宿る“女の強さ”──キャスリンの静かな支配
そんな中でやはりやらかしまくっているカップルに対して、信頼関係に挑戦されたジョージとキャスリン。
ジョージはキャスリンの容疑を晴らそうと個人的な思考も挟む。実はこの夫婦の関係性含めて信頼の中にほのかに女性優位の現実も見えます。
ケイト・ブランシェット演じるキャスリンの力。序盤にジョージが仕掛けを用いて、会議中のキャスリンに会いに行きます。そこでの描写。
ピアース・ブロスナン演じる上司がいるのにキャスリンが旦那と話すってだけで会議全体を止めて、待たせる。これって。
ジョージも犯人も皆含めて支配している気になってるけど、女性からしたらお遊戯なんですね。
強烈なキャスリンはすべてを握っていた。ジョージを信頼して。
嘘と秘密の中にある“人間の信頼の美しさ”
タイトルのブラックバッグは秘密という意味合いです。何か言いたくないこととか話したくないことを「ブラックバッグだから。」と返事する。
これを受け入れることもまた信頼関係。
お互いを信頼し合う究極系の人間関係が結婚だとするなら、そこにはブラックバッグがある。そしてそれを受け入れて成立する。
なんでも公にすればいいわけじゃなくて、秘密を持ち合うことも含めて信頼だということ。
そこでゴチャゴチャいってくる奴らは、叩き潰すのです。
そういう意味で、嘘を付くのが仕事のスパイの世界から、人間が信じ合うこととか秘密を持つことを描き出した作品です。
そこだけ見れば、あらゆる人間関係にも普遍的に伝わるメッセージ。
私たちはちょっとの秘密を持つからセクシーで、秘密を秘密のままで尊重し受け入れるところに信頼がある。それができないならお子さまよ。
ソダーバーグ監督がスタイリッシュに大人な人間関係というモノを、セクシーなスパイの世界を窓に描きこんだいい作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。
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