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「ナチュラル・ウーマン」”Una Mujer Fantástica” aka “A Fantastic Woman”(2017)

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映画レビュー
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「ナチュラル・ウーマン」(2017)

作品概要

  • 監督:セバスティアン・レリオ
  • 脚本:セバスティアン・レリオ、ゴンサロ・マサ
  • 製作:フアン・デ・ディオス・ラライン、パブロ・ラライン、セバスティアン・レリオ、ゴンサロ・マサ
  • 製作総指揮:マリアンヌ・アルタール、ロシオ・ハドゥエ、ジョナサン・キング、ジェフ・スコール
  • 音楽:マシュー・ハート
  • 撮影:ベンジャミン・エチャザレータ
  • 編集:ソルダッッド・サルファテ
  • 出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ、アリン・クーペンヘイム、アンパロ・ノゲラ 他

「グロリアの青春」(2013)などで知られるチリ人監督セバスティアン・レリオ監督の最新作。

ベルリン国際映画祭にては金熊賞を争い、なによりも3月発表のアカデミー賞にて最優秀外国語映画賞を受賞したという名高い作品です。

主演にはこれまた高い評価を得た、ダニエラ・ヴェガ。

私は公開週、なのでアカデミー発表よりも2週ほど前に鑑賞しました。

そういえば久しぶりに川崎のチネチッタへ行きましたね。ちょっと懐かしかったw

監督作は初めて観ました。チリということでパブロ・ラライン監督が製作にかかわっていたり、今後はチリ映画も追えたらと思わせてくれる監督になりましたね。

実際公開した時はあまり人が入っていなかったなあ。アカデミー賞受賞で少しは増えたのかな?個人的には多くの人に見てほしい作品です。

~あらすじ~

チリのサンティアゴ。ナイトクラブで歌を疲労するマリーナは、恋人のオルランドに誕生日を祝ってもらい、幸せな夜を過ごす。

しかし、オルランドが夜中に倒れ、急ぎ病院に連れていくも、亡くなってしまった。

悲しみに暮れるマリーナには、慰めではなく差別と敵意が待ち受けていた。オルランドの家族が、トランスジェンダーであるマリーナの葬儀への参列を拒否したのだ。

愛する人にお別れを言いたいマリーナは、彼女を追い詰める者たちと向き合うことになる。

感想/レビュー

過酷な現実を生きる普遍的な話

トランスジェンダーの主役マリーナを演じる、自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガが文句なしに素晴らしい作品。

彼女がセンターとして立派にリードし、とにかく繊細ながらも力強い印象が大きかったと思います。

今作はトランスジェンダーに対する偏見、差別が渦巻く作品でありますが、それを社会問題的に狭めずに、より普遍的な舞台へと押し上げていると感じました。

個人的な話であり、そして誰しもがマリーナを通して過酷な現実を生き抜き、強くなれる作品です。

世界からのアイデンティティの反射

作品内で響き渡るのは、アイデンティティの反射であると思います。

様々な場所に登場する鏡はその反射を持ってマリーナの姿を彼女自身に伝えます。

美しいですが、やはり肉体にほんのり見える男性性。

世界は彼女を男と、いやもはや化け物として扱います。あの最低な家族の何とも腹立たしく残酷な仕打ち。

ぐるぐる巻きにされたあの顔こそが、彼女を取り巻く世界から見える彼女なのですね。

世界に「お前はこれだ!」と突きつけられているような、鏡の使い方。

そしてまた名前というところも何度も繰り返される要素でした。

その人を指す言葉。

彼女は親類に名前を間違えられ、そしてオルランドの妻には”ダニエル”と呼ばれます。

彼女はマリーナ。マリーナ以外の誰でもないのです。

アイデンティティを否定され、押し付けられる様には心が締め付けられる思いをします。

そこが主題になっているからこそ、とても普遍的な感覚があるのではないかと思います。

悪意や孤独と向き合わなくてはいけない

敵意、孤独。

悪意を向けられることや、孤独を感じることは誰にだってあるでしょう。

マリーナが戦う、向き合っているのはそこです。自分が自分であることを認めようとしない世界はとても過酷です。

警官、性犯罪の捜査官。

公的機関がクソ過ぎて笑えてくる勢いですが、ああいったシーンがとても痛かったのも事実です。身体への何かではなく、精神的な苦痛と辱しめなのです。

もちろん自分は座席に座ってスクリーンを観ているだけですが、身体検査のシーンは辛かったし、憤りを感じました。

そういうところは純粋に映画というものの力を思い知るところ。

そういった外部的な攻撃と同時に、彼女は喪失とも向き合っています。

愛した人を失った悲しみ。どうしたら乗り越えられるのか。想うからこそ、見送ることも許されないことが辛い。

マリーナの心を、想いを幻想的かつ豊かな色彩で映し出す画面。

映像的な素晴らしい体験という意味でも、夢や幻想の世界に放り込まれるような感覚が爽快です。

そしてそれが逃避にも見える場面や、愛の導きにも見えたり、またある時は少し怖く感じられるなど、多面的に見れておもしろいです。

安易な救いはないけれど、戦い続ける

今作でレリオ監督は、マリーナに簡単な癒しや救いを与えませんでした。サウナにおかれていた袋にはただ闇が入っています。

逃げる場所、全て忘れて飛び立つ楽園はないのです。

しかし、マリーナは反撃を止めない。彼女がパンチを止めることは無いのですね。

きっと歩いてきた道や愛した人が彼女の力になり、先へ進ませてくれるはずです。

ダニエラ・ヴェガは繊細で脆い部分も見せながら、マッチョではないところでの強さを見せてくれました。

レリオ監督はその美しい強さから、過酷な生に向き合う力を観客に与えていると思います。

チリからの、ファンタスティックな女性のお話。非常に美しい作品でおすすめです。

今回はこんなところで。それでは、また。

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