「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」(2019)
- 監督:トッド・ロビンソン
- 脚本:トッド・ロビンソン
- 音楽:フィリップ・クライン
- 撮影:バイロン・ワーナー
- 編集:クローディア・S・カステロ、テレル・ギブソン、リチャード・ノード
- 出演:セバスチャン・スタン、アリソン・スドル、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリス、ピーター・フォンダ、クリストファー・プラマー、ブラッドリー・ウィットフォード、ジェレミー・アーヴァイン 他
ベトナム戦争において、アメリカ陸軍のため危険に飛び込み多くの命を救い、自らは戦死したウィリアム・H・ピッツェンバーガーの実話と、彼の名誉勲章を求める申請をもとにしたドラマ。
監督は「ロンリーハート」などのトッド・ロビンソン。彼はこれまでにも歴史、伝記映画などを手掛けている監督です。
主演は「キャプテン・アメリカ」シリーズや「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」などのセバスチャン・スタン。
またウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリスなど名だたる俳優が顔を揃え、ピーター・フォンダは今作が遺作となっています。
また、クリストファー・プラマーも日本公開時には亡くなっており、スクリーンで観るのは少し切ないものでした。
この豪華な俳優陣に加えて、「ファンタスティック・ビースト」シリーズのアリソン・ソドル、また「ゲット・アウト」のオバマ3期に投票するおじさんことブラッドリー・ウィットフォードも出演しています。
もともと主役はスコット・イーストウッドの予定もあった作品らしいですね。
作品のことは実は映画館で予告をみるまでは知らなかったもので、ただ題材というより、俳優陣が豪華すぎて観るしかないということで観てきました。
年齢層が高かったですが、この情勢のなか非常に混雑していました。
タイトルにある”The Last Full Measure”はリンカーン大統領のゲティスバーグ演説からの引用であり、”全身全霊命を懸けて”というような意味になります。
1998年、国防総省に勤め若くして次期補佐官も噂されるスコット・ハフマン。
長官の辞任から最後の仕事振りが行われ、スコットはある空軍兵の名誉勲章授与の以来申請について背景調査を行うことになった。
1966年のベトナム戦争におけるある作戦での、アメリカ空軍パラレスキュー部隊員ウィリアム・H・ピッツェンバーガー。
凄惨な待ち伏せ攻撃の中で、陸軍兵ではないにも関わらず、地上に降りて救助を行い戦いにも参加した彼の英雄的行動は明らかだった。
スコットは一兵卒の名誉勲章受賞は非常に稀であることを知っていたため、ある程度の調査報告をまとめたら次の調査員へ引き継ぐ気でいた。
しかし、元陸軍兵たちの証言やピッツェンバーガーの両親に話を聞くうちに、成されない正義に憤りを感じ始めた。
1つの伝記映画としてはある程度のまとまりがあるのですが、しかし微妙に入れ込んだサブプロットのいくつかによってやや秩序が乱れている作品です。
ただ、その歪みを覆い隠し感情的な繋がりをくれるのは、紛れもなくここに集まった多くの名優たちの素晴らしい演技です。
トッド・ロビンソン監督はピッツェンバーガーの英雄的行動を掴み取りますが、アメリカ陸軍の隠蔽工作的な背景からくるポリティカルスリラーの要素には物足りなさを感じます。
また「評決」におけるポール・ニューマンとも言える、不真面目な男が正義に触れまた正義に目覚めていくドラマもやや薄めでした。
総じて悪くはない作品です。
しかし、その良さというのは、そもそものピッツェンバーガーの行動が、彼の実話時代が素晴らしいものであるところに大きく由来している気もします。
度々挿入されていく過去の回想映像については、やや整理不足かもしれません。
ある出来事が今回のピッツェンバーガー名誉勲章授与の取り下げに影響をしているのですが、証言同士に矛盾点を入れ込むなどしないと、事実が明らかになっても何か解決したようには感じませんでした。
その事実を隠そうという隠蔽についても、今回は明確に悪役みたいなものを用意しません。
ただ、当時のアメリカ軍として隠したかったというだけならそれでも良いのですが、ブラッドリー・ウィットフォード演じる同僚がヴィラン的に扱われるなど中途半端です。
結局最後は別に悪い人って感じでは無い方向で処理されますしね。
特にFBIがハフマンを調べているという件や、この件を探ることで彼に危険が迫るという訳でもない。
全体的には淡々と進んでいます。
しかし、つまらないわけではないのは、本当に役者陣のおかげですね。
よくもまあこんなに揃えたと言わんばかりの名優たちの数々。
ピッツェンバーガーの行動で命を救われ、しかし同時に今ある生いについて苦悩する彼らのドラマ部分を大きく支えてくれています。
なんとなく抑揚にかける構成でも、サミュエル・L・ジャクソンがあったかもしれない他人の人生を語ったり、ウィリアム・ハートが生きているということの罪や安心したことへの恥に苦しむ様を見せられれば、それは圧倒されてしまうものです。
ピッツェンバーガーという人の英雄的で、名誉勲章に値すべき行動を描く点ではそれなりに実際を汲み取っていますが、他の要素にはちょっと振り回されてしまった印象。
時間の経過についてもちょっとわかりにくいですし、それでいて入れ込みは多いので駆け足にも思えてしまいます。
感動的シーンに差し掛かるたびに悲しげな旋律が流れてきたり、またそうしたシーンの応酬もそれぞれの力を薄めていってしまっています。
題材は良いです。ただこの作品自体がその犠牲になったように思えます。様々な要素を正しく描こうとしたがゆえになんだか緩いのです。
一つに絞り切れていない点が散漫に感じてしまい、濃厚であるがゆえに矢継ぎ早。
数々の名優たちが渾身の演技で感情を揺さぶってくるつるべ打ちにはさすがに圧倒されますが、しかしピッツェンバーガーの英雄譚という良い話を、そのまま良い話の映画にしただけという印象が強く残ってしまいました。
間違いなく俳優陣の演技目当てでみても満足のいく作品です。
そこによりかかりすぎているけれども良いという場合には干渉をお勧めします。
今回は個人的にはあまりピンとこなかった作品でしたが、ピーター・フォンダ、クリストファー・プラマーの見送りとしても映画ファンは外したくないかもしれません。
感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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